image 愛媛県 芋炊き - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第72回】<br> 愛媛県「芋炊き」

Photo by くにろく

文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 愛媛県の過去の地震を振り返ると南海トラフ地震(気象庁ホームページ、以下HP 南海トラフ地震とは参照)の影響は避けて通れないことが分かります。愛媛県HP掲載の資料、地域防災計画(資料編)1災害に関する記録にある「愛媛県の地震記録」によれば、天武13年(684年)10月14日の南海トラフ地震と思われる「白鳳地震」で山が崩れ、官舎や百姓の倉、神社が潰れて人や家畜が多数死傷しました。

 宝永4年(1707年)10月4日には東海・東南海・南海地震が同時発生した超巨大地震「宝永地震」(マグニチュード、以下M8.6)が発生しました。被害は凄まじく、九州南東部から伊豆まで大津波が押し寄せました。分かっている被害だけでも全国の犠牲者は5000人以上、負傷者1300人以上、全壊家屋5万軒以上、流出家屋約2万軒にも上ります(内閣府 防災情報のページ 1707宝永地震参照)。四国沿岸は津波で壊滅的な被害を受け、高知県の死者は約1844人、徳島県では約420人、愛媛県でも26人が亡くなっています。道後温泉も一時的に湧出しなくなりました。

 さらに147年後の安政元年(1854年)11月4日には「安政東海地震」、翌5日に「安政南海地震」(ともにM8.4の巨大地震)と続き、安政東海地震では死者が2000~3000人、安政南海地震は数千人と、多くの命が奪われました。松山藩の記録をまとめた『松山叢談』池内家記には、松山城の本丸石垣や屋根瓦の破損、屋敷や土蔵、百姓の家など多数が半壊や全壊し、即死者も2人出たと書かれています。

 直近の南海トラフ地震は、昭和19年(1944年)の「昭和東南海地震」(M7.9)と昭和21年(1946年)の「昭和南海地震」(M8.0、最高震度6)です。特に愛媛県では紀伊半島南方沖が震源地だった昭和南海地震の被害が大きく、松山・宇和島で震度4、県内の死者は26人、負傷者 32 人、住家全壊 155 棟、非住家全壊 147 棟でした(愛媛県HP資料 愛媛県の地震記録参照)。津波の第一波が宇和島に到達したのは地震発生後30分で、高さは宇和島1.3m、八幡浜0.4m、三崎 0.6mとなり、床下浸水の被害を受けた家屋が多かったとのことです。

 南海トラフ地震以外で大きい地震といえば平成13年(2001年)3月24日の「芸予地震」(M6.7、最高震度6弱)が挙げられます。愛媛県では松山市、今治市など2 市 14 町 2 村で震度 5 強を記録しました。死者1人(全体の死者は2名)、重傷7人、軽傷68人、全壊2棟、半壊40棟、一部破損1万1196棟の被害が出て、当県だけでも被害総額は60億6980万3千円という膨大な額となりました。

 愛媛県では平常時の備えとして「ポケット版みきゃんの防災グッズチェックリスト」を作成しています。愛媛県イメージアップキャラクター「みきゃん」が可愛くもしっかりと必要なものを解説。冊子は好評につき品切れとなっていましたが現在は増刷しています。県HPからダウンロードも可能です。一家に一冊ぜひ備えてください。

●料理名:芋炊き(愛媛県)

 今回、愛媛県の郷土料理に選んだのは「芋炊き」です。城下町の大洲で藩政時代(約300年前)から親しまれてきた料理であり、行事でもあります。大洲藩の初代藩主・加藤貞泰は、天正8年(1580年)に加藤光泰の嫡男として近江国に生まれ、15歳の時に父親が急死します。その後、美濃国黒野の領主となり、黒野城を築き、河川の堤防工事に着手します。
 しかし堤防が完成する前に伯耆国米子(ほうきのくによなご)へと国替になり、元和3年(1617年)大阪夏の陣の活躍によって伊予国大洲へと転封になりました(大洲市HP 大洲藩主加藤家参照)。藩の礎を築いた文武両道な貞泰でしたが、44歳に江戸で死去します。その後も加藤家は大洲藩主として明治2年(1869年)の版籍奉還まで13代続きました。

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愛媛県「芋炊き」

 さて、大洲藩主たちも食べたかもしれない芋炊きですが、大洲市HP 大洲のいもたきのパンフレットができましたによれば、春と秋の「お籠もり」と呼ばれる、農民の親睦を深める会で作った料理でした。肱川流域で収穫された里芋を、肱川の鮎の出汁で煮込んで食べたのが始まりだそうです。みんなで河川敷に集まり、作物の出来や家の相談事を話しながら美味しい芋炊きを食べる行楽行事でした。昭和41年(1966年)には観光行事化され、今では大洲市を始め愛媛県の各地で芋炊きイベントを河川敷やお店で行っています。愛媛県を訪れる観光客にも人気のイベントです。

★芋炊きの主役は里芋

 芋炊きの主役はなんといっても里芋です。旬は8月下旬~10月。ちなみに月を愛でる中秋の名月(2022年は9月10日)は「芋名月」の別名を持ち、芋の収穫を祝う頃だからだそうです。昔の暮らしは農業と密接に結びついていたのだと思いました。

 農林水産省のうちの郷土料理 愛媛県いもたきのレシピでは、最初に里芋の皮をむいて少々の塩を入れて茹でておきます。また生揚げ(厚揚げ。油揚げでも可)は油抜きをするとレシピにはあります。

 私は愛媛県松山市の株式会社程野商店の「松山あげ」を買ったのですが、こちらは油抜きが不要でとても便利な油揚げです。この松山あげは非常に日持ちがする商品でもあります。普通の油揚げは豆腐を1㎝に切り油で揚げてあるため7日程度しか保存ができません。松山あげは3mmの薄さに切り圧縮して極限まで水分を抜きとってから揚げるため常温で90日の保存が出来るのです。

 固めに下茹でした里芋と油抜きした生揚げがそろったら、今度は鶏肉としいたけを油で炒め、茹でた里芋も入れてさらに炒めます。だし汁を加えて里芋が茹であがったら調味料や生揚げを入れて煮立てて完成です。砂糖やみりんが入るため甘い味付けに仕上がります。
 寒くなり始めた今頃の季節に、ほくほくした里芋入りの芋炊きはたまりません。昔の農民たちは秋の収穫の恵みに感謝し互いに労い、そして月を眺めつつ鍋を囲んだことでしょう。

〈2022. 11. 07.〉

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