島根県しじみ汁

Photo by くにろく

文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)                     

 日本最古の和歌「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣作る その八重垣を」の舞台は出雲、つまり現在の島根県です。この歌は、その昔、出雲の山に降り立った須佐之男命(すさのおのみこと)が美しい櫛名田比売(くしなだひめ)を救うため8つの頭を持つ怪物ヤマタノオロチを退治し、櫛名田比売を妻に迎えて出雲の須賀に住居を作る際に読んだとされています。
 そして須佐之男命の子孫である大国主大神様(だいこく様)を祀っているのが出雲大社であり、だいこく様が主人公の「因幡の白兎」のお話もよく知られている神話です。

 須佐之男命や大国主大神らは「国づくり」を進めながら人々に様々な「知恵」を授けたと出雲大社のホームページ(以下、HP)では紹介されています。まさに神話とロマンにあふれた場所が島根県なのです。
  一方、島根県は全国でも有数の自然災害発生県でもあります。島根県HPによれば、その理由は地形と自然条件にあり一年を通して湿度が高く、年間の降水量は1600~2300mmで梅雨末期の前線移動によって集中豪雨がたびたび発生しているとのことです。また冬は気流の関係で県東部の寒さが厳しく、国土交通省の豪雪地帯の指定を受けている地域もあります。

 過去には大きな地震も何度か発生しています。880年(元慶4年)の「出雲地震」は、島根半島北東部にある活断層が引き起こしたマグニチュード(以下、M)7.0クラスの地震だったと考えられています。また1872年(明治5年)には浜田町(現在の浜田市)沖を震源とするM7.0~7.2の「浜田地震」が発生して犠牲者551名、負傷者582名、家屋全壊4506棟の被害となり、政府は被災者に対し救助金の支払いや15日間の食糧炊き出しを行いました(地震調査研究推進本部「島根県の地震活動の特徴」 、国立公文書館 災害に学ぶ「浜田地震」参照)。

 2018年の「島根県西部地震」(M6.1)では大田市で震度5強、出雲市、雲南市、川本町、美郷町が震度5弱の揺れを記録し、人的被害は重傷2名、軽傷7名、住家被害は全壊16棟、半壊7棟でした(島根県HP「平成30年4月9日の島根県西部を震源とする地震についての情報」参照)。
 この地震で大田市にある世界遺産・石見銀山で神社や遊歩道の石垣が崩れる被害が発生しています。島根県では2020年1月15日~2月14日まで「島根県地域防災計画(風水害等対策編、震災編)」の修正素案について県民からの意見公募を行っています。県民の皆さんは、この機会にぜひご意見をお寄せください。お問い合わせは島根県防災部防災危機管理課まで(「島根県地域防災計画修正素案」に関する意見募集について)。

料理名:シジミ汁(島根県)

 日本で獲れるシジミは淡水に棲むマシジミ、琵琶湖だけにしかいないセタシジミ、汽水(海水と淡水が混じった水)に棲むヤマトシジミの3種類がありますが、出回っているシジミの99%がヤマトシジミなのだそうです。
 そのヤマトシジミの産地で日本一の漁獲量を誇る(3980トン。2018年データ)のが島根県の宍道湖(しんじこ)です(島根県HP「島根の豊かな川と湖」参照)。宍道湖は約1万年前にできた、東西約17㎞もある汽水湖で日本の中では7番目に大きな湖です。訪れる水鳥の数は240種類以上、さらに淡水魚も海水魚も生息する多様な生物の宝庫です。

 ちなみに宍道湖に注ぐ斐伊川はその源流が鳥髪の地(船通山)にあり、この船通山が冒頭でご紹介した須佐之男命がヤマタノオロチ征伐に降り立った場所とされています。
 また、宍道湖に浮かぶ唯一の島に関する伝説も有名です。その昔、姑にいじめられた嫁が耐え切れずに実家に帰ろうと、凍った宍道湖を渡っていました。ところが途中で氷が割れて水死してしまったのです。哀れんだ湖の神様は一夜にして島を浮かび上がらせ、後にこの島は「嫁ヶ島」と呼ばれるようになったそうです。

 地質学的には嫁ヶ島は1200万年前の火山活動によりできた島ですので、何のきっかけで物語が生まれたのかは興味深いところです。今回はそんな宍道湖名物のシジミ汁を作ってみました。シジミ汁には、すまし汁タイプと味噌汁タイプがありますが今回は味噌汁タイプにしました。レシピは「中国四国農政局 シジミ汁」を参考にしています。

DSCF8448しじみ汁① - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br>【第43回】 島根県「シジミ汁」
島根県の郷土料理「シジミ汁」

シジミのうまみ成分を増やすには?

 宍道湖のシジミが手に入らず、他県産のヤマトシジミを使いました(宍道湖のシジミは大きいと評判ですので次回はぜひ島根県産を入手してシジミ汁を作りたいです)。
 調理方法は普段作る味噌汁と同じ手順でシジミを入れて後にお味噌を溶かしネギを散らすだけですが、シジミ汁に入れたお味噌は昨年初めて手作りした「手前味噌」を使いました! 昨年の2月に仕込んで口開けをしたのが1月。でき立てホヤホヤの自家製味噌です。

 シジミにはアルコールを分解する成分のアラニンという酵素が含まれているほか、カルシウム、鉄、ナトリウム、カリウム、マンガン、亜鉛等のミネラルも豊富です。また島根県HPにシジミをおいしく食べる方法がありましたので、それを引用しますと――
①シジミを砂抜きする時には1ℓに10g程度の食塩を入れる。シジミの体内のうま味成分が増える。
②砂抜きしたシジミを冷蔵庫に数時間入れるとシジミの体内のうま味成分(コハク酸やアラニン)がさらに増え、おいしくなる。冷凍すると生のシジミより汁にした時溶け出すうま味成分はむしろ増える。(冷凍庫の保存期間は6カ月程度まで)

 だそうです。詳しくは島根県HP「シジミの栄養」をご覧ください。

〈2020.2.07.〉

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【 第3回 】 熊本県「高菜めし」〈2016. 05. 07.〉
【 第4回 】 熊本県「タコめし」〈2016. 06. 07.〉
【 第5回 】 岩手県「鎌焼きもち」〈2016. 07. 07.〉
【 第6回 】 岩手県「豆腐田楽」〈2016. 08. 07.〉
【 第7回 】 宮城県「おくずかけ」〈2016. 09. 07.〉
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【 第16回 】 東京都「深川丼」<2017. 06. 07.>
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