落花生味噌(イメージカット)

Photo by くにろく

文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 千葉県の過去に起こった自然災害の中で、今回は大きな地震を2つ取りあげます。
 まずは元禄16年(1703年)11月23日午前0時頃に発生した「元禄地震」です。マグニチュード(以下、M)7.9~8.2の巨大地震で駿河・伊豆、甲府領、小田原藩、房総半島、江戸府内、諸国の合計死者数は1万367人、うち房総半島は6534人という記録が残っています(内閣府 過去の災害に学ぶ 39‐内閣府防災情報のページ 元禄地震参照)。古文書の記録から最大震度7の地震だったと推測されています。
 地震直後には現在の銚子市、九十九里沿岸、南房総市、館山市、鋸南町に津波が襲来し、特に館山市相浜や旧和田町(南房総市)の津波は10mを超えました。九十九里沿岸だけでも津波の犠牲者は2000人以上となったそうです(千葉県ホームページ、以下HP 元禄地震【防災史】参照)。真夜中に発生した津波だったため逃げ遅れた人々も多く、津波被害の様子は寺の過去帳や名主の日記に残り、また公式な記録としては五代将軍徳川綱吉の側用人だった柳沢吉保による公用日記「楽只堂年録」にも記載されています。

 2つ目の地震は元禄地震から300年後の大正12年(1923年)9月1日、元禄地震とほぼ同じ規模、そして同じような震度分布図となった「関東地震」(関東大震災)です。最初の揺れでM7.9、3分後にM7.2、さらにその2分後にM7.1と3回も大きく揺れ(千葉県HP 関東大震災【関東地震】参照)、最大震度は7と記録されています。
 発生時間が午前11時48分と昼時であったため多くの家では昼食の準備に火を使用していたこと、かつ強風だったという要因が重なって大火災が発生しました。死者・行方不明者は10万5385人、うち8割が焼死であったとされています(内閣府 災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1923 関東大震災 参照)。

 千葉県では房総半島南部を中心に全半壊した建物が2万棟に上りました。直後には雨が降り、千葉県房総地域や神奈川県西部では土石流、地滑りが多発しています。またこの地震でも各地で津波が発生し、千葉県の房総半島南端の富崎村(現在の館山市)には9mの津波が押し寄せています。しかし、「津波の前に海水が引く」という元禄地震の言い伝えを知る住民たちは、その様子を見て山の方へ避難し、逃げ遅れた老人一名のみ犠牲となりました(防災誌「関東大震災」(全文)第1章 運命の9月1日 襲われた首都圏 参照)。
 関東大震災の千葉の死者数は1346人と元禄地震の時の6534人よりもかなり少なくなっています。犠牲者が少なかったのは元禄地震の際に残された津波災害記録の教訓も大きいとされています。

 自然災害、特に地震や噴火は数百年おきに似た規模の災害が同じ範囲で起こることが珍しくありません。そのため過去の災害の様子や被害の規模、前兆現象の記録を残すことは後世の人々にとって大変役に立ち、重要なのです。記録や伝承を目につきやすい形で保存し伝えることで、関東大震災時の房総半島の人々のように尊い命を守ることができるのです。

料理名:落花生味噌(千葉県)

 落花生(ピーナッツ)は南米原産のマメ科植物です。千葉県HP「教えてちばの恵み 落花生/旬鮮図鑑」によれば、沖縄では古くから作られていましたが、中国から本州に伝わったのは宝永2年(1705年)の江戸時代。しかしその時には本州での栽培は根付かず、本格的に栽培が開始されたのは明治7年(1874年)だったそうです。

 千葉県では明治9年(1876年)に山武郡南郷町(現山武市)の農家である牧野万右エ門氏が栽培を始めたのが最初でした。落花生はやせた砂地でも育ち、干潟で他の野菜が育ちにくい千葉では栽培を奨励されました。
 昭和に入ると農業試験場で品種の改良がおこなわれ、昭和5年(1930年)には「千葉43号」、「千葉55号」、「千葉74号」の3品種が登場して収穫量が安定します。その後、戦争中は栽培が中断されましたが昭和21年(1946年)に栽培が再開し、栄養価が高い落花生の需要は伸びていきました。昭和27年(1952年)に試行錯誤して完成した優良品種の「千葉半立(ちばはんだち)」が誕生すると、千葉の全県下で落花生が栽培されるようになりました。

 現在、流通している落花生の9割は外国産、国産は1割です。その国産の約8割は千葉県産なのです。千葉県における令和元年(2019年)の落花生作付面積は5060ヘクタール、収穫量は1万100トンでした。昭和55年(1980年)には収穫量が2万3400トンでしたので、比較すると半分以下になっています。輸入落花生に押され気味ではありますが、千葉県で獲れる落花生は味が良いと評判なので、ぜひ国産の落花生を選んで食べて欲しいと思います。

 外国産と国産は見た目にも違いが分かります。殻が綺麗なのは外国産、殻が黒ずんでいるのが国産の証拠です。これは畑の土の質が違うからで、殻が黒ずんでいる方がむしろ美味しいとも言われています。今回はそんな国産の落花生を使った千葉県の郷土料理「落花生味噌」を作ってみました。

千葉県 落花生味噌(本文用) - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第55回】<br> 千葉県「落花生味噌」
千葉県 落花生味噌

高たんぱくで食物繊維も豊富

 落花生は4月に種を蒔くと6月には黄色い花が咲きます。他の豆は花が咲いた後に鞘(さや)が生えて中に豆ができるのですが、落花生はそこから子房柄(しぼうへい)という茎が地面に伸びて地中に入り、その先端に落花生が成るちょっと変わったマメ科植物です。高たんぱくで食物繊維もあり便秘に効果があるとされています。また豆(ピーナッツ)は脂肪も多く含みますがオレイン酸・リノール酸という植物性の油で生活習慣病にも効果的です。

 今回作った落花生味噌は、栄養価が高くて保存ができるために「千葉の家庭では切らさない」と言われるほどの一品です。さらに千葉県の学校給食にも出ますので、千葉の人たちは子どものころからよく食べています。お茶請け、ごはんのお供、そしてお酒のおつまみにも大活躍し、美味しいのに作り方はとっても簡単です。

 生の落花生(ピーナッツ)をフライパンで15分程度炒り、味噌と砂糖を入れてよく絡め、最後に日本酒を入れます。焼けた味噌の香りと落花生のカリっとした食感がたまりません。
 落花生味噌は地元では「みそピー」とも呼ばれて商品化もされていますが、落花生(ピーナッツ)が砕けたりして食感がもう一つ。手作りのほうが美味しくできます。甘くてしょっぱい味はやみつきになります。

〈2021. 06. 07.〉

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