image 福井県 呉汁 800x350 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第64回】<br> 福井県「呉汁」

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文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 福井県では、昭和20年(1945年)7月12日に敦賀空襲があり敦賀市の約7割の4119戸が焼失し、さらに1週間後の19日の福井空襲では865トンの焼夷弾が落とされて市街地は8割以上も損壊し、2万戸以上が焼失する被害を受けました(総務省HP 福井市における戦災の状況 福井県 参照)。福井城周囲約3kmは焼け野原になり、空襲の犠牲者は1576人、重軽傷者は6419人にのぼりました。
 悲しみの中、皆で力を合わせて復興に向けて頑張っていた3年後の昭和23年(1948年)6月28日、福井地震が発生します。震源地は福井平野でマグニチュード(以下、M)7.1、強烈な揺れに震源付近の集落では住家全壊率が100%になる所もあった激甚災害でした(内閣府防災情報のページ「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1948 福井地震」参照)。

 福井平野は県東部に位置する九頭竜川や日野川などの堆積物によって形成された沖積平野です。下には福井平野東縁断層帯が走り、福井地震の主な震源断層ではないかとも言われていますが、まだはっきりとは分かっていません。この地震は福井平野の浅い所で発生した直下地震で、地盤が軟弱だったために被害が激しかったと見られています。福井市でも住家全壊率が80%以上となり、全体の住家全壊は3万5382戸と壮絶な光景でした。

 当時は木造住宅で竈(かまど)を使用していたため、夕飯の準備や店の仕込みで火を使う人が多かったことも被害拡大の原因です。地震直後に火災は瞬く間に広がり、死者は3728人に及びました。また本震の6分後にM5.8の余震が発生するなど3週間余りに渡って1日に数回の地震が発生し続けています。
 度重なる余震の影響で消火活動や救援活動が迅速に行えず、犠牲者が増加しました(福井地方気象台 県内の主な地震災害 福井地震参照)。さらに7月には豪雨となって水害が発生し、地震で被災した道路や橋梁の復旧が遅れることとなりました。

 福井地震は本震発生後1年間に983回の地震が観測されるなど、地震計による余震観測が組織的に行われた初めての地震でもあります。また当時は震度7という基準がなく、この地震は震度6と観測されましたが、気象庁は福井地震をきっかけに「震度7(激震、家屋の倒壊率30%以上、400ガル以上)」を新たに設定しました。後の地震で震度7を計測したのは阪神・淡路大震災までなかったことを鑑みれば、福井地震の規模や被害の凄まじさが理解できると思います。

福井県 呉汁 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第64回】<br> 福井県「呉汁」
福井県 呉汁

●料理名:呉汁(福井県)

 福井県には曹洞宗の名刹、大本山永平寺があります。永平寺公式HPによれば、開山した道元禅師は鎌倉時代の1200年に京都で誕生し、12歳で出家して比叡山で修業を積んだとあります。その後、宋の国に渡って中国の寺をめぐり正師となる如浄(にょじょう)禅師と出会い、仏法をつぐことを許されて帰国。坐禅や作法に関する書物『普勧坐禅儀(ふかんざぜんぎ)』などを記します。43歳頃に越前の地に移り、大仏寺(2年後に「永平寺」と改称)を開き、53歳で亡くなるまで多くの修行僧に正しいみ仏のあり方を坐禅などによって実践するように説き続けました。

 現在でも永平寺では道元の教えを守り、日本を代表する禅寺として全国から集まる修行僧(雲水と呼ばれる)が修行を重ねていますが、その厳しさは日本一と言われるほどです。行事や法要の有無によって多少異なりますが、一日の流れはだいたい以下のようになっています。

 まず朝は3時半(夏)か4時半(冬)に起床して朝の坐禅=暁天坐禅(きょうてんざぜん)を40~50分組み、その後法堂へ移動して朝のお勤め=朝課諷経(ちょうかふぎん)という回向、読経を行います。朝食=小食(しょうじき)も坐禅を組んで食べ、廻廊掃除(かいろうそうじ。廊下や階段を拭き掃除)、午前中の作務(草取りや雪かき)を終えたら昼のお勤め=日中諷経(にっちゅうふぎん)です。昼食=中食(ちゅうじき)、再び作務、そして夕方のお勤め=晩課諷経(ばんかふぎん)を終えて夕食=薬石(やくせき)を食べたら夜の坐禅=夜坐(やざ)があり、21時には開枕(かいちん)となって就寝時間になります。毎日このように規則正しく、すべての時間を修行として過ごすことによって心身が鍛え清められて、正しい教えに近づいていくことができるのです。

 今回、福井県の郷土料理としてご紹介するのは、道元禅師も食べていたかもしれない精進料理でもある「呉汁」です。レシピは農林水産省HPの「うちの郷土料理 福井県 呉汁」を参考にしました。

★大豆のコクと美味しさが体に沁みる

 上記の農林水産省HPには「浄土真宗各派の年中最大行事を報恩講といい、福井県では『ほんこさん』や『おこ(う)さま』と呼ばれ、そこでふるまわれる精進料理の一つ」と書いてあります。栄養価が高くて温まる食べ物なので寒い時期に好まれる汁物です。

 一晩水に漬けた大豆を煮て、柔らかくなったらすり鉢で摺り、水と味噌を加えて完成です。薬味にネギや唐辛子を加えると一層美味しくなります。作り方は簡単なのですが、大豆を洗って水につけて一晩、そしてコトコト煮て摺って……と準備には時間がかかる料理です。
 私はすり鉢で摺ってペースト状になったものを鍋に移し、水で薄めて煮たててから自家製味噌を入れました。さらにさっと煮たててネギを散らして上に輪切りの唐辛子を乗せました。自家製の味噌の色が濃いため、見た目は味噌汁みたいになりましたが、味は濃厚でこってり。出汁がなく豆だけとは思えないようなクリーミーな美味しさです。ほのかな大豆の甘みも感じ、お椀一杯を飲めばお腹もいっぱいになって、体もホカホカになります。雪国の福井県で愛されている郷土料理だということが納得できました。

 精進料理は野菜や穀類が中心なのでさっぱりヘルシーな料理ばかりだと思われがちですが、呉汁や胡麻豆腐など豆を使用した献立はたんぱく質も摂取できてコクがあり、食べ応えもあります。ひな祭りは過ぎましたがまだ寒く、本格的な春はもう少し先。呉汁を飲んで体を芯から温め、体調を整えて過ごしましょう。

〈2022. 03. 07.〉

 

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