image えび豆 740x350 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第70回】<br> 滋賀県「えび豆」

Photo by くにろく

文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 滋賀県の第1回目は過去の水害に関する記事でした。今回は滋賀県付近で発生した地震について見ていきたいと思います。
 記録に残るもっとも古いものは貞元1年(976年)の山城(京都府南部)、近江(滋賀県)で発生したマグニチュード(以下、M)6.7以上の地震です。死者は50名以上で家屋全壊が多く、京都の寺社でも倒壊した所が多かったようです(彦根地方気象台 滋賀県に被害をもたらした地震参照)。文治1年(1185年)の地震はM7.4と規模が大きく、琵琶湖西岸断層帯の活動とされています。近江、山城、大和(奈良県)で死者多数、家屋全壊も多数で、特に琵琶湖の南西岸での被害が大きい地震でした(政府 地震調査研究推進本部 滋賀県の地震活動の特徴参照)。

 そして寛文2年(1662年)6月16日、「寛文近江・若狭地震」が発生します。被災地域は近畿地方北部一帯と広くM7.0~7.6、特に琵琶湖西岸地域や福井県南西部の被害が大きく、滋賀県は震度6~7でした。後年の活断層調査の結果、三方・花折断層帯で発生したと考えられており、犠牲者は800人以上、倒壊家屋約4000~4800軒と甚大な被害を及ぼした地震でした(内閣府防災情報のページ 1662 寛文近江・若狭地震 参照)。

 この地震では、安曇川(あどがわ)上流部の急峻な斜面が続く葛川谷(かつらがわだに)で山の斜面が崩落し、土石流が坊村(大津市葛川坊村町)の田畑を壊滅させ、大量の土砂が榎村(大津市葛川梅ノ木町)と町居村(大津市葛川町居町)を埋没させました。崩落土砂の堰き止め堤の高さは約218m、長さ約872mにも及び、榎村の家屋50軒の300人と、町居村の家屋50軒の260人、計560人が生き埋めになりました。これが「町居崩れ」と呼ばれる大規模な土砂崩れです。2、3日の間は家の中にいてそのまま生き埋めとなった人々の泣き声が聞こえていましたが、あまりの土砂の深さに掘り出して助けることが出来なかったそうです。

 近年の滋賀県に影響を及ぼした大地震と言えば、明治42年(1909年)8月14日の姉川地震(江濃地震とも呼ばれる)です。姉川付近を震源としたM6.8、最大震度6(長浜市)、滋賀県全域で震度4~5の地震でした(長浜市郷土資料 わたしたちの長浜 姉川地震参照)。中でも東浅井郡虎姫町(長浜市の一部)は震源から8㎞離れていたものの地盤が弱かったために被害が大きくなりました。
 全体の死者41名(滋賀県の死者35人、うち虎姫は17人)、重傷者133人(滋賀県115人、うち虎姫53人)、全壊家屋978戸(滋賀県972戸、うち虎姫284戸)でした。山崩れが70カ所発生したほか、琵琶湖では高さ1.8mの津波が起こりました。この地震以降、滋賀ではこれほどの大地震は発生していません。

●料理名:えび豆(滋賀県)

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滋賀県「えび豆」

 琵琶湖は古代湖の一つで400万年前から存在し、長い時間をかけて様々な生物が育まれてきました。最も多いのは鮎で漁獲量の4~5割を占めています。
 滋賀県HP 琵琶湖漁業を支える魚たち アユによれば、琵琶湖の鮎には2種類いて、春に川を遡上して上流で成長する鮎と、そのまま琵琶湖で過ごす小さな鮎「コアユ」になるものがいるそうです。琵琶湖の魚で有名なニゴロブナは、滋賀県の郷土料理「ふなずし」の材料となる魚です。
 ふなずしの歴史は古く、奈良時代にはすでに存在していました。ふなずしの作り方は、まず鱗やエラ、内臓、胆嚢などを取り2カ月以上塩漬けにします。塩漬けが完成したら流水で洗い水を切り、炊いたご飯を室温に冷まして桶の中に米とフナを交互に重ねます。2日ほど重石を乗せて水が上がってくるのを待ち、今度は桶に水を張って半年以上置いて発酵させれば骨まで柔らかいふなずしの出来上がりです(農林水産省HP ふなずし滋賀県参照)。

 他にもホンモロコ、ビワマス、セタシジミ、イサザ、ゴリなどが獲れます。そして、今回の郷土料理「えび豆」で使用した「スジエビ」も琵琶湖で獲れる海老です。名前の由来は胸に筋が見えるから。体長は2~4㎝と小ぶりですが海老の旨みがたっぷりです。生きているときは透明な飴色で、火を通すと赤い綺麗な色になります。旬は秋冬春で、ほぼ1年中獲れますが特に冬のスジエビは元気いっぱいだそうです。
 かき揚げにするとサクサク香ばしく、大豆と一緒に炊いてえび豆にすると海老の香りが大豆に浸みた料理になります。せっかくの郷土料理ですので、スジエビを使いたいと思い、滋賀県のアンテナショップで干したスジエビを買ってきました。レシピは農林水産省のえび豆を参考にしています。

★祝儀や祭にも出された「えび豆」

 お祝い事やお祭りの席にも出された料理「えび豆」。滋賀県では昔、大豆を田んぼの畔に植えていましたし、スジエビも琵琶湖でたくさん獲れたため気軽に作ることができた料理です。甘辛く煮て保存が利くのも喜ばれた理由でしょう。
 今回は、水煮大豆と干し海老を使用しました。最初に醤油や酢、砂糖、酒を沸騰させて殻のついたスジエビを入れます。私は干し海老を使いましたが、レシピでは生のスジエビを入れるため、ここで生臭さを取るのだと思います。大豆と一緒に20分ほど煮て、最後にみりんを足して完成です。みりんを加えることで味に深みが出て、艶やかに仕上がりました。

 出来上がってすぐ食べると、大豆がほくほくとしていました。また、翌日お弁当に入れたところ、しっとりした味わいのおかずになっていました。スジエビが入るから濃厚な美味しさになるのです。たくさん作って冷蔵庫に保存しておけば、お弁当やご飯の時の副菜として毎日活躍しそうです。
 滋賀県以外でも多くの人に愛されること請け合いのえび豆。殻ごと煮るためカルシウムが豊富なのも嬉しいポイントです。

〈2022. 09. 07.〉

 

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