image 「津波防災の日」チラシより - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と

災害は忘れるからやって来る 防災訓練に欠かせない想像力

「何としても災害犠牲者ゼロをめざす志」があれば――
防災訓練はマンネリ化し得ない

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●11月5日は「津波防災の日」「世界津波の日」
 2022年度「津波防災の日」スペシャルイベント(講演会ほか)

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 2011年3月11日に発生した東日本大震災の大津波災害を教訓として、同年6月に津波対策を総合的に推進することを目的とした「津波対策の推進に関する法律」が制定され、その中で、国民の間に広く津波対策についての理解と関心を深めるために、11月5日を「津波防災の日」とすることが定められた。

 11月5日(旧暦)は、安政元年(1854年)に、「稲むらの火」のモデルとなった安政南海地震が発生した日で、さらに、2015年の国連総会では11月5日を「世界津波の日」とすることが採択され、津波防災の新たな取組みが国際的に始まっている。ちなみに「稲むらの火」とは、海辺の村(現在の和歌山県広川町)を大津波が襲った際、村の郷士が積み上げられた稲束の「稲むら」に火を放ち、暗闇の中で多くの村人を高台に導いて救ったという史実に基づく物語で、戦前の国語教科書に掲載され、現在も津波防災教材として国内外で高く評価されている。

稲むらの火の館(濱口梧陵記念館・津波防災教育センター)

 国(内閣府)は「11月5日・津波防災の日」に向けて、11月5日やその前後の期間に、津波防災の意識の向上と適切な避難行動の定着に向けて、「津波防災の日」スペシャルイベントを開催するとともに、地方公共団体と連携した地震・津波防災訓練を実施する。また、国、地方公共団体、民間企業等が実施する津波防災に関する取組みの計画についてとりまとめた概要を下記リンクで公表している。

内閣府(防災担当):2022年度「津波防災の日」・「世界津波の日」に関する取組み

 2022年度「津波防災の日」スペシャルイベントは、11月5日(13:00〜15:00)開催の講演会に注目したい。メイン会場は東京都千代田区のBASE Q(東京ミッドタウン日比谷6階)で、サブ会場を北海道根室市と和歌山県那智勝浦町として、オンラインで結びディスカッションを実施する(メイン会場=東京とオンライン視聴のハイブリッド開催)。

P1 「津波防災の日」チラシより - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
11月5日は「津波防災の日」(2011年6月制定)、「世界津波の日」(2015年12月国連総会で採択)。国は11月5日前後の期間に、津波防災の意識の向上と適切な避難行動の定着に向けて、「津波防災の日」スペシャルイベントを開催し、地方公共団体と連携した地震・津波防災訓練を実施する。こうした防災イベント・訓練、あるいは災害周年イベント・訓練の最大の“敵”は、慣れ=マンネリ化であることは言をまたないが、想像力を駆使すれば、災害に立ち向かう参加者の意識啓発を図る大きなチャンスでもある。防災訓練の想像力による“持続的バージョンアップ”に期待!

 第1部では「津波防災を進化させる〜津波避難訓練等でタブーへも挑戦」と題した今村文彦・東北大学災害科学国際研究所所長による基調講演、第2部はパネルディスカッションでテーマは「各地の津波防災に関する取組みの紹介と意見交換」。ファシリテーターに阪本真由美・兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科教授、登壇者は佐藤健一・アジア航測株式会社社会インフラマネジメント事業部地域創生部技師長(前東日本大震災遺構・伝承館館長、元気仙沼市危機管理監)、村上威夫・内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(普及啓発・連携担当)に、今村文彦氏が加わる。

 今村氏は、「津波防災地域づくりに関する法律が制定され、各地で津波の浸水想定や避難計画の検討などが実施されている。考えられる最大規模も含めて事前に準備することが不可欠だが、想定外の事象も起こる。今年1月15日にトンガ噴火による潮位変化が発生したが、当時の津波情報と避難実態について紹介したい。だれでもいつでもできる避難だが、盲点もたくさんあった。課題の1つが津波避難訓練で、その必要性と重要性は変わらないが、その内容や参加率はどうか? マンネリ化していないか? 誰のための何のための企画なのか、改めて検討してもらいたい」と語る。

 パネルディスカッションのサブ会場となる北海道根室市は、「津波防災の取組みとして、町会単位の地区ごとに「地域版津波避難計画」を策定して津波避難訓練などを実施してきた。昨年7月に北海道から新たな津波浸水想定が公表され、最大波到達時間は最短で24分、最大津波高21.7mと示され、本年7月には市町村別の被害想定で死者数が最悪2300人という衝撃的な数字が示され、これを何としてもゼロに近づけるため、現在「根室市津波防災地域づくり推進計画」の策定を進めており、ハード・ソフト両面から、多重防御のあり方を検討している」としている。

 また、和歌山県那智勝浦町は「海」と密接に関わり合いをもつまちとして成り立っているが、「想定される南海トラフ地震では、沿岸部で大規模な津波被害が想定され、津波避難施設等の整備による避難対策が進められているものの、景観への配慮等、津波防災と産業の両立といった点で課題を抱えている。また、津波の到達時間も地震発生後10分以内に沿岸部の広い範囲で津波浸水が予測されており、迅速・安全に避難を完了し、命を守るためには、『自助・共助・公助』の連携が不可欠で、防災訓練や学習会を実施し、住民の防災意識の醸成に取り組んでいる」としている。

P2 1 内閣府と地方公共団体が共催で実施する地震・津波防災訓練 - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
内閣府と地方公共団体が共催で実施する地震・津波防災訓練
P2 2 内閣府と地方公共団体が共催で実施する地震・津波防災訓練より - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
内閣府と地方公共団体が共催で実施する地震・津波防災訓練より北海道根室市の訓練概要
P2 3 内閣府と地方公共団体が共催で実施する地震・津波防災訓練より - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
内閣府と地方公共団体が共催で実施する地震・津波防災訓練より和歌山県那智勝浦町の訓練概要
P2 4 「津波防災の日」・「世界津波の日」について - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
「津波防災の日」・「世界津波の日」について

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●南海トラフ地震を想定した大規模地震時医療活動訓練(終了)
 静岡県、愛知県、三重県、和歌山県を訓練実施エリアに

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 政府主催による「南海トラフ地震を想定した大規模地震時医療活動訓練」が去る10月1日実施された。同訓練は例年実施しているもので、災害派遣医療チーム(DMAT)の参集、活動、広域医療搬送等の訓練を中心としている。今年度は静岡県、愛知県、三重県、和歌山県での甚大な被害発生を想定(訓練実施エリア)。想定震源は和歌山県南方沖、地震規模はマグニチュード(M)9クラス、最大想定震度は、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県いずれも7とした。

 参加機関は、「全体訓練」には、内閣官房、内閣府、警察庁、消防庁、厚生労働省(DMAT事務局含む)、国土交通省、海上保安庁、防衛省、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構、日本赤十字社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、北海道、富山県、鳥取県等となっている。

 以下、三重県での訓練を例にあげると、県内医療機関(災害拠点病院等)、消防本部、姫路医療センター、広島大学病院、島根県立中央病院が参加。協力機関として、三重大学、三重県立看護大学、鈴鹿医療科学大学、三重中央看護学校、株式会社NTTドコモ東海支社三重支店、KDDI株式会社中部総支社、ソフトバンク株式会社、楽天モバイル株式会社となっている。

 三重県内の主な訓練会場は本部を三重県松阪庁舎に置き、DMAT活動拠点本部として三重県立総合医療センター、三重中央医療センター、松阪中央総合病院、市立伊勢総合病院。広域搬送拠点臨時医療施設(SCU:Staging Care Unit)として四日市市伊坂ダム運動広場。ほかに鈴鹿中央総合病院、鈴鹿回生病院、三重大学医学部附属病院、こころの医療センター、榊原病院、伊賀市立上野総合市民病院、済生会松阪総合病院、県立志摩病院、志摩市民病院、尾鷲総合病院、紀南病院が参加。

三重県:2022年度大規模地震時医療活動訓練を実施

 ちなみに、三重大学医学部附属病院が訓練参加リポートを公表している――同院では、特定機能病院かつ災害拠点病院として、どんなときにも医療体制を継続できるよう災害時のBCPをはじめとする災害対策の導入および運用に力を入れ、大小の防災訓練を定期的に実施している。今回の訓練では、「南海トラフ地震の津波被害による病院孤立を想定した大規模防災訓練」を実施した。

 この訓練では、孤立により診療活動を制限せざるを得ない中で、同院の入院患者のトリアージ(搬送が必要な患者の振り分け)を行い、外部の診療可能な病院に搬送したり、比較的軽症な人を水陸両用バギーで搬送する訓練を行った。また、内閣府訓練として、生後2週で、人工呼吸器管理を必要とする乳児をクベース(運搬用保育器)に入れて防災へりで四日市総合医療センターへ搬送する訓練も初めて実施。さらに、藤田医科大学(愛知県)、浜松医科大学(静岡県)、三重大学で締結する大規模災害時の医療連携協定に基づき、それぞれのリソースや災害状況を共有し、連携方針を決定する訓練にも初めて取り組んだという。

P3 1a 外部医療機関へ搬送が必要な患者の確認(二次トリアージ)(三重大学医学部附属病院提供) - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
P3 1b 藤田医科大学病院、浜松医科大学病院とのオンライン会議(三重大学医学部附属病院提供) - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
P3 1c 人工呼吸器を必要とする赤ちゃんの防災ヘリ搬送訓練(三重大学医学部附属病院提供) - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
三重大学医学部附属病院の訓練状況。写真上から、外部医療機関へ搬送が必要な患者の確認(二次トリアージ)、(中)藤田医科大学病院、浜松医科大学病院とのオンライン会議、(下)人工呼吸器を必要とする赤ちゃんの防災ヘリ搬送訓練
P3 2 津市消防本部から水陸両用バギーの出動(三重大学医学部附属病院提供) - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
津市消防本部から水陸両用バギーの出動(三重大学医学部附属病院提供)

 三重大学医学部附属病院の訓練には、職員、医学部生、津北消防署の職員など約300人が参加。災害対策本部長として訓練を指揮した池田智明院長は、「当院にとって、災害時にもいかに患者さんの不安に寄り添い、安全な医療を継続するかは重要な課題。そのために、地域内外の医療連携は欠かせない」とコメントしている。

三重大学医学部附属病院:南海トラフ地震の津波被害による病院孤立を想定した大規模防災訓練を実施

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●9月1日「防災の日」 岸田首相、避難所開設体験も
 政府総合防災訓練と9都県市防災訓練(終了)

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 政府による2022年度総合防災訓練が去る9月1日「防災の日」、岸田文雄首相、全閣僚参加のもと行われた。午前7時10分頃、和歌山県南方沖を震源とするマグニチュード(M)9.1の地震発生という想定で行われ、岸田首相は徒歩で官邸へ参集、第1回緊急災害対策本部会議・臨時閣議を開催し、記者会見で政府の対応状況を説明、「安全な場所に避難し落ち着いて行動するよう」国民への呼びかけを行った。

 その後首相は、政府調査団としてヘリコプターで千葉市の九都県市合同防災訓練会場へ移動。会場では、救出救助、応急救護訓練を視察し、続いて展示・体験会場でVR起震車体験、災害ボランティア活動を視察し、避難所開設体験を行った。その後、救出救助訓練、火災防御訓練を視察した。ちなみに「九都県市」は、東京都、埼玉県・千葉県・神奈川県・横浜市・川崎市・千葉市・さいたま市・相模原市で構成され、わが国総人口の約4分の1に当たる約3500万人の人口を擁する首都圏。

P3 3a 九都県市合同防災訓練で挨拶する岸田総理(首相官邸HPより) - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
P3 3b VR起震車を実地体験する岸田総理(九都県市合同防災訓練/首相官邸HPより) - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
P3 3c 総合防災訓練・避難所開設訓練区画でダンボールベッドを試す岸田総理(九都県市合同防災訓練/首相官邸HPより) - 22 秋の大規模災害への備え - <br>訓練と啓発と
首相官邸HPより、(上)九都県市合同防災訓練で挨拶する岸田首相、(中)VR起震車を実地体験、(下)避難所開設訓練区画でダンボールベッドを試す岸田首相

 訓練閉会式の挨拶で岸田首相は、「近年、災害は激甚化・頻発化し、近い将来には首都直下地震や南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の発生も懸念されている。政府としては、国民の生命・財産を守るため、今後とも、様々な災害への対策に万全を期していく。同時に、国民一人一人が、平素から万一への備えをしっかり整えておくとともに、実践的な防災訓練を重ねていくことが、非常に重要。本日の訓練はこうした観点からも、非常に有意義な訓練になったと思う」と述べた。

首相官邸:総理の一日 令和4年度総合防災訓練

〈2022. 11. 01. by Bosai Plus

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