大規模集客施設での避難体験 客席構造の複雑さを踏まえて
南海トラフ臨時情報、神奈川県西部地震直後の
東京都八王子市「避難訓練コンサート」に参加
取材・リポート: 本紙特約記者 関町佳寛(文・写真)
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●「南トラ臨時情報」、「神奈川県西部地震(震度5弱)」を受けて…
巨大地震対応が他人事(ひとごと)ではない 自分事に
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8月8日の日向灘地震により「南海トラフ臨時情報」で「巨大地震注意」が発表され、その翌日、9日には神奈川県西部で震度5弱の地震が発生、現実に起こり得る巨大地震にいかに対応するかが、他人事(ひとごと)ではなく自分事(じぶんごと)になってきた。
「巨大地震注意」は8月15日17時で解除されたが、ゲリラ雷雨、連発する台風接近・対策で、9月1日「防災の日」を前に各地で防災訓練、避難訓練が行われている。そして、全国的に大規模施設でのイベント時の避難訓練も真剣味を増して、活発に行われている。
東京消防庁によれば、「東日本大震災で、劇場等観覧施設関係者の危機管理意識が喚起されたことをきっかけに、 近年、観客参加型の避難訓練を実施する劇場等観覧施設が多くなった。 従来の避難訓練では、観覧施設の関係者のみで実施することが多く、多数の観客を想定した誘導方法や避難動線に関する課題が見つけづらかった。そこで無料コンサート等を開催して避難訓練の参加者を集め、地震やその後の火災等を想定したスタッフの初期消火訓練、観客の身を守る行動の呼びかけ、客席から安全な場所へ避難誘導する訓練等が実施されるようになった」とのことである。
そこで、J:COMホール八王子(東京都八王子市)で8月27日に実施された「避難訓練体験コンサート」に本紙特約記者・関町佳寛が参加した。その模様をレポートする。
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●音楽バンドの軽快な演奏のさなか、突然の大地震!(想定)
シェイクアウト(訓練)で対応 臨場感・緊張感があふれる避難訓練
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映画・演劇・コンサートなどの観劇中に大地震、火災が発生した際に、観客をいかに安全安心な場所に避難誘導するか――そのコンサート版となる「避難訓練体験コンサート」が東京都八王子市のサザンスカイタワー八王子にあるJ:COMホールで、8月27日13:30〜15:30、開催された。
同イベントは第11回とあるように、近年毎年、この時期に開催されている。訓練体験内容は毎回変更改善・深化しており、最新の避難誘導対応をホールスタッフ関係者がいかに実施できるか、避難誘導訓練と参加者の施設、ホールでの大地震遭遇の際の対応体験を兼ねた避難訓練となっている。
主催は八王子市民会館共同事業体 (J:COMホール八王子指定管理者)、後援は八王子市、 サザンスカイタワー八王子。協力は八王子消防署、八王子防火防災協会、米国空軍太平洋音楽隊。また、早稲田大学人間科学部 佐野友紀研究室、東北工業大学ライフデザイン学部 生活デザイン学科 畠山雄豪研究室との連携企画だ。
コンサートには米国空軍太平洋音楽隊「パシフィック・ショーケース」が出演・演奏し、事前に観客として応募した350人が参加する大規模実地訓練である。
訓練開始は、コンサート演奏途中に突然大地震発生を知らせる大音響の効果音に始まり、聴衆(訓練参加者)は緊張する。続けて場内アナウンスがあり、「このビルは耐震性が高く安全です、身体を低くし、頭を守り、椅子につかまって身を守る姿勢をとるように」との指示。
これには、地震の揺れと頭上からの落下物から身を守る「シェイクアウト」訓練の基本態勢――①ドロップ(姿勢を低く)、②カバー(体と頭を守って)、③ホールドオン(揺れが収まるまでじっとして)をとることになる。
その後、演奏が再開され、その終了時には地震による火災の発生を想定したホールからの脱出避難訓練が行われた。
スタッフ関係者の誘導に従い避難階段から屋外へ避難したところで「避難訓練体験コンサート」は無事故で終了、参加者は訓練についての感想アンケートを記入して、解散となった。
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●「大規模集客施設の避難誘導」 備えと対応のポイントとは
坂井誠治・J:COMホール館長があげた 10項目の要点
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最新の耐震基準で建てられたサザンスカイタワー八王子(2010年竣工)のJ:COMホールは、八王子市の想定地震である多摩東部直下地震での想定震度6強に十分耐えられるはずだが、体験したことのない揺れや停電、火災、煙、漏水などが同時発生した場合、高層ビル内の企業、住民避難とも重なる。さらに屋外避難後も駅直結ビルなので、駅利用・乗降客との接触による混乱も想定される。
さらには、ビルの自営消防隊との連携も重要で、課題は多い。そこで、坂井誠治・J:COMホール館長に災害時の備えと対応について聞き、下記のように要点をまとめてみた。
①訓練関係者数:ホールスタッフ15名/イベント主催者10名。ホールスタッフは全員上級救命講習修了者で防災介助士、自衛消防技術認定者も複数名
②スタッフ、館長との情報共有方法:無線(モトローラ製)および内線が主な連絡手段で不可の場合、伝令(人)
③館内の非常用電源:非常灯は停電と同時に点灯し、サザンスカイタワー八王子全体は、約30秒停電が続くと自家発電が作動し、基本インフラ設備のみ電気が供給される。
④ホールの耐震内容(建物・付属物):ビルの竣工が2010年で2011年3月11日の東日本大震災も異常なし
⑤平時の訓練や防災知識:ビル全体の避難訓練(年2回)、協議会、ホール独自で机上防災訓練(年1回)。さらに「避難訓練体験コンサート」の実施、また他のホール施設と情報連携を定期的に実施中
⑥ビルの自衛消防隊(ビル内企業)との連携:ビルの防災センターと常に連携体制、ホールはビルの地区隊の位置づけで、今回の避難訓練体験コンサートにおいても、手順や全館放送のタイミング等確認している。
⑦昨年の参加者数:約300名
⑧支援団体との連携内容: 今回は消防と防火防災協会が開場前に展示および体験コーナーを開設。早稲田大学と東北工業大学の研究室と連携して、非常時の来場者の行動調査を行い、後日報告会を実施し今後の課題を洗い出す。
⑨平時のイベント対応:各催事の主催者と事前に非常時対応の説明をし、誘導員の名簿と避難経路図の提出の義務付け
⑩J:COMホールとしての安全性について:ビルの中にあるホール、駅と直結等の立地状況を踏まえ、ビル防災センターおよび八王子駅との連携を特に心がけている。
記者(関町)からの特記事項としては、一般来場者(市民)には、ホールという場所は「不特定多数の人が集まる、頭上に照明器具や吊りものがある、館内照明が暗くなる、段差がある」など、完全に安全な場所ではないということを知ってもらい、いざというときの状況を冷静にイメージしておくこと、また、このような実地訓練をぜひ体験してほしいと感じた。
〈2024. 09. 02. by Bosai Plus〉