image 流域治水の自分ごと化(国土技術研究センター資料より) - 5月は「水防月間」<br>〜流域治水の「自分ごと化」を~

出水期、水害・水防を自分ごと化
「助かる」防災の3ステップとは

「リスクを知る」→「リスクを自分ごと化する」
→「リスク軽減・防災に向けて行動する」の3段階

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●毎年5月は「水防月間」(北海道は6月) 「自分ごと化」が課題
 浸水リスクエリアの人口が “逆に”増えているという現実を前に
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 国土交通省では毎年5月(北海道は6月)を「水防月間」と定めている。気候変動の影響により頻発・激甚化する自然災害に対し、流域全体を俯瞰し、あらゆる関係者が協働して治水対策に取り組む「流域治水」の実効性を高める重要な取組みの一つとなる。また、出水期=梅雨や台風の時期を迎えるにあたり、国民一人ひとりが水防の意義と重要性について理解を深められるよう、防災・減災の取組みの一環としてこの期間、全国各地域で総合水防演習などの水防訓練や水防団などと河川管理者による共同巡視ほか、様々な取組みが行われる。

国土交通省:水防月間(5月1日~31日)~洪水から守ろうみんなの地域~

P2 3 毎年のように全国各地で自然災害が頻発(国土交通省資料より) - 5月は「水防月間」<br>〜流域治水の「自分ごと化」を~
毎年のように全国各地で自然災害が頻発(国土交通省資料より)
P2 2 気候変動等による災害の激化(氾濫危険水位を超過河川の発生状況/国土交通省資料より) - 5月は「水防月間」<br>〜流域治水の「自分ごと化」を~
気候変動等による災害の激化(氾濫危険水位を超過河川の発生状況/国土交通省資料より)

 本紙はこれまで繰り返し、毎年水害による犠牲者が出ている日本で、浸水リスクがある地域で人口が増えていることを、防災・減災に逆行するものとして取り上げてきた。
 その背景には、自治体の少子高齢化対策としての「規制緩和」がある。つまり、かつては水田が広がっていた地域に、いまは全国各地で多くの住宅が建ち並んでいるが、そうした地域の多くは「市街化調整区域」と呼ばれる場所で、例えば埼玉県幸手市では「市街化調整区域」全体で人口が約1600人増えたいっぽう、市全体の人口は20年間に5万8172人から5万2524人へ、約5600人減っているという。
 市全体では人口が減っているにもかかわらず、浸水リスクの高い一部の市街化調整区域では人口が増えた。

 「市街化調整区域」は、都市計画法では「農地などを守り、無秩序な市街化の拡大を抑制するため、宅地開発を規制するエリア」とされていたが、地方分権の流れや経済対策に伴って規制緩和が相次いで行われるなかで都市計画法が改正され、自治体が規制緩和すれば市街化調整区域でも宅地開発が可能になった。
 これがきっかけとなり、各地で市街化調整区域の開発が進んできた。市街化調整区域の開発で、住民は敷地の広い住宅を安く手に入れられ、都市計画税という税金がかからない。自治体は住宅開発により人口が増え、固定資産税などの税収が増える。不動産事業者は、宅地開発・販売で利益がでる――しかし、そこに居住する市民の災害リスクは確実に高まったのだ。

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●「流域治水」の取組みを あらゆる関係者の「自分ごと化」へ
 住民は「助かる」防災に向けて、「自分ごと化」の3ステップ
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 いっぽう国土交通省では、気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化に適応していくため、流域のあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う「流域治水」の取組みを推進する。水害から命を守り、被害を最小化するためには、住民の意識に働きかけ、水害の恐ろしさや流域治水の取組みを知り、自分ごととして理解し、行動に移すなど、流域治水に主体的に取り組む住民や民間企業等を拡大していく必要があるとする。

P2 1 氾濫をできるだけ防ぐための対策(国土交通省資料より) - 5月は「水防月間」<br>〜流域治水の「自分ごと化」を~
国土交通省資料「氾濫をできるだけ防ぐための対策」より。河川は上流から下流に向かって流れることから、その根本的な氾濫対策は「流域」で考えることになる。流域の土地利用に関わる方策と同時に、流域で生活する人びと、防災・減災活動をする人びとにも関わる方策も重要だ。「自分ごと化」はまず「リスクを知る」、「そのリスクを自分ごと化する」、そして「リスク軽減・防災に向けて行動する」という3段階のプロセスが必要となる

 その一環として国土交通省は去る4月28日、住民や民間企業等が流域治水の取組み推進策を検討する第1回「水害リスクを自分事化し、流域治水に取り組む主体を増やす流域治水の自分事化検討会」を、同省会議室とWeb会議(一般傍聴可)併用で開催した(同会議資料・議事要旨は、 後日国土交通省ウェブサイトに掲載する予定)。

国土交通省:流域治水を自分事として理解してもらうための取組みの検討会

 ここで言う流域治水の「自分ごと化」とはなにか(*編集部注:検討会の「自分事」の表記は本紙では「自分ごと」としています)。河川は上流から下流に向かって流れることから、その根本的な氾濫対策はその河川の「流域」で考えなければならない。そこには流域の土地利用に関わる方策と同時に、流域で生活する人びと、防災・減災活動をする人びとにも関わる方策が重要になってくる。

 「自分ごと化」のきっかけはまず「リスクを知る」ことに始まり、「そのリスクを自分ごと化する」、そして「リスク軽減・防災に向けて行動する」という3段階を合理的に設計する必要がある。つまり、災害や気候変動にともなうリスクについての情報を「知る」機会を増やし、そのリスクと教訓を自分の生活環境に即した学びで「自分ごと化」し、事前の、そしていざという時の「行動」につなげるのだ。こうした住民レベルでの自助・共助の体系的な仕組みを国の「流域治水」施策においても確立してほしいところだ。

P2 4 流域治水の自分ごと化(国土技術研究センター資料より) - 5月は「水防月間」<br>〜流域治水の「自分ごと化」を~
広島県坂町小屋浦地区での行方不明者の捜索(大阪府警察撮影)。写真右に災害伝承碑「水害碑」がある。国土技術研究センター・徳山日出男氏「自分ごと化する力」より)

 「自分ごと化」の3段階とは、具体的には――(国土技術研究センター・徳山日出男:「自分ごと化する力」を参考にとりまとめ/下記リンク参照)
▼リスクを知る ⇒そのリスクを自分ごと化する
 災害は繰り返し起こる。自分が生活する土地・環境の災害履歴を知る。自然災害伝承碑を調べる。災害伝承館などを訪ねる。得られた災害教訓を“想像力で”疑似体験する。
▼リスク軽減・防災に向けて行動する
 わがまちのハザードマップ確認。備蓄確認。避難路・避難場所の確認。わが家の「防災タイムライン(行動計画)」の策定。気象情報、河川水位情報の取得・取得法を知る。

 災害リスクの「自分ごと化」とは、別な視点から言えば、「行政が住民を助ける」あるいは「住民が行政に助けてもらう」から、住民自らが「助かる」という、住民の主体性を活かす防災の可能性を模索することにもなるだろう。

国土技術研究センター 徳山日出男:「自分ごと化する力」

〈2023. 05. 01. by Bosai Plus

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