津波避難タワーの一部に不適格タワー 緊急避難どうする?
「津波防災地域づくり法」が現状、“事前防災”として
津波に強い街づくりを進めるための柱
●津波避難に課題山積 究極の対策は浸水が及ばない高台移転だが……
12年前の3月11日14時46分、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生した。このとき、津波が最初に観測されたのが岩手県大船渡市で、15時14分に3mの津波が到達したと記録されている。地震発生から28分後のことだった。いっぽう、南海トラフ巨大地震想定では、地震発生後、津波が最短2分で到達する地域(静岡県)がある。東日本大震災での犠牲者の約9割が津波によるもので、到達時間に30分ほどの猶予しかなく、しかも1万4000人がその第1波で命を失った。南海トラフ被害想定での死者数は32万人、そのうち津波死者数は約7割の23万人――あくまで最悪想定だが、これに備える、命を守る有効な津波対策があるだろうか。
![津波避難タワー なう P4 2 南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域 - 津波避難タワー なう](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/03/P4-2_%E5%8D%97%E6%B5%B7%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%95%E5%9C%B0%E9%9C%87%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E9%81%BF%E9%9B%A3%E5%AF%BE%E7%AD%96%E7%89%B9%E5%88%A5%E5%BC%B7%E5%8C%96%E5%9C%B0%E5%9F%9F.jpg)
この想定(津波死者数や波高、到達時間など)が公表された当時、津波到達時間が短いとされた地域では避難が間に合わないということから“あきらめムード”が漂ったという。しかし、想定通りに地震津波が起こるわけでもなく、命を守るために最善の努力・備えをするのが防災の考え方であることに間違いはない。そこで、津波避難対策特別強化地域に指定された自治体では、防潮堤の増強(浸水到達時間・範囲対策)をはじめ、津波避難タワーの設置、津波避難ビル指定、さらにはそれらと組み合わせて津波シェルターや津波救命艇を設置するなどの津波対策を講じる自治体もある。
![津波避難タワー なう P4 1 津波避難施設の整備数 - 津波避難タワー なう](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/03/P4-1_%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E9%81%BF%E9%9B%A3%E6%96%BD%E8%A8%AD%E3%81%AE%E6%95%B4%E5%82%99%E6%95%B0.jpg)
現状、津波避難場所として以下のような対策がある。避難避難タワー(鋼鉄製の強固な塔。国内最大級のものは7階建て、高さ25m)、津波避難ビル(既存ビルの高層階への避難)、津波避難路(高架道や歩道橋、高台へ通じる階段、スロープ設置)、築山・津波避難マウント(人工的な高台造成)、津波シェルター(浮体式津波避難シェルター等)など。
ただ、いずれも万全な対策にはなり得ない。避難者が津波到達前に避難場所に物理的にたどり着けるか(とくに避難要支援者など)という最大の課題をはじめ、想定波高に応じた十分な高さ、収容人数などの条件次第という側面もある。さらには、南海トラフ巨大地震は周期的に発生するとされながらも、発生予測不能の“低頻度大災害”であり、住民の防災意識の持続的維持も大きな課題となる。
![津波避難タワー なう P4 3 高さ不足となった和歌山県串本町串本地区の津波避難タワー - 津波避難タワー なう](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/03/P4-3_%E9%AB%98%E3%81%95%E4%B8%8D%E8%B6%B3%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%92%8C%E6%AD%8C%E5%B1%B1%E7%9C%8C%E4%B8%B2%E6%9C%AC%E7%94%BA%E4%B8%B2%E6%9C%AC%E5%9C%B0%E5%8C%BA%E3%81%AE%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E9%81%BF%E9%9B%A3%E3%82%BF%E3%83%AF%E3%83%BC.jpg)
●「津波防災地域づくり法」 事前防災と多重防御で 沿岸地域の安全を守れ
最近の報道(静岡新聞23年1月8日付け)に、東日本大震災後に最大級の津波想定が見直され、太平洋沿岸の約400基の津波避難タワーのうち6県15市町の計21基で高さや強度が足りなくなったことが共同通信の全国アンケートでわかったというものがあった。大半は安全性に問題があるとして、災害対策基本法が定める緊急避難場所の指定を解除、使用を中止するなどしたが、和歌山、高知両県の3町では用地確保などが進まず計4基が指定されたままだという。
想定される最大級の津波に対し、串本、東洋両町の計3基は約0.8〜1m低く、白浜町の1基は町が強度不足と判断した。なお、和歌山県串本町では「最大級に及ばない津波には有効」と指定継続の理由を説明しているという。串本、白浜両町の一部のタワーは津波に流されることを見越して、屋上や隣接地に救命艇を設置した。
津波避難タワーの設置本数を増やすことは次善策として考えられるが、1基あたりのコストが億単位のため、財政難の自治体としては拡充しにくい。究極の津波避難は、恒常的に浸水が及ばない地域への移転だが、それもまた、現実的ではないか。
そこで、現在進行中の国の施策の拡充が現状、現実的に有効な対策となる。「津波防災地域づくり法」(津波防災地域づくりに関する法律)だ。
この法律は、将来起こり得る津波災害の防止・軽減のため、全国で活用可能な一般的な制度を創設し、ハード・ソフトの施策を組み合わせた「多重防御」による「津波防災地域づくり」を推進するため、東日本大震災の教訓を踏まえて、2011年12月に制定された。津波を想定する地域では、その着実な進展がいまもっとも現実的ということになりそうだ。
![津波避難タワー なう P4 4 津波防災住宅等建設区のイメージ(国土交通省資料より) - 津波避難タワー なう](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/03/P4-4_%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E9%98%B2%E7%81%BD%E4%BD%8F%E5%AE%85%E7%AD%89%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E5%8C%BA%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8%EF%BC%88%E5%9B%BD%E5%9C%9F%E4%BA%A4%E9%80%9A%E7%9C%81%E8%B3%87%E6%96%99%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
![津波避難タワー なう P4 5 津波浸水想定の設定、津波災害警戒区域の指定及び推進計画の作成状況(2022年12月20日現在) - 津波避難タワー なう](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/03/P4-5_%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E6%B5%B8%E6%B0%B4%E6%83%B3%E5%AE%9A%E3%81%AE%E8%A8%AD%E5%AE%9A%E3%80%81%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E7%81%BD%E5%AE%B3%E8%AD%A6%E6%88%92%E5%8C%BA%E5%9F%9F%E3%81%AE%E6%8C%87%E5%AE%9A%E5%8F%8A%E3%81%B3%E6%8E%A8%E9%80%B2%E8%A8%88%E7%94%BB%E3%81%AE%E4%BD%9C%E6%88%90%E7%8A%B6%E6%B3%81%EF%BC%882022%E5%B9%B412%E6%9C%8820%E6%97%A5%E7%8F%BE%E5%9C%A8%EF%BC%89.jpg)
〈2023. 02. 20. by Bosai Plus〉