福祉支援は初動期から拡充期へ
災害派遣福祉チーム活動本格化
国が災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)の管制塔
「災害福祉支援ネットワーク中央センター」の創設へ
広域大規模災害が想定されるわが国で、平時のいまこそ、被災者支援制度を拡充させる機会である。その認識のもと本紙は、”フェーズフリー福祉防災”構築のキーワードとして、本年3月1日付け(号(No. 277))で『フェーズフリー福祉防災 ~福祉なくして防災なし~』として第1弾「個別避難支援計画(災害時ケアプラン)」の普及促進を取り上げ、その全国展開を図る立木(たつき)茂雄氏インタビューを特集、読者から大きな反響をいただいた。そして第2弾として、4月15日付けで、被災者の個別支援によって生活再建につなげる取組み「災害ケースマネジメント(DCM)」に焦点を当てた。
本紙:フェーズフリー化する「福祉防災」――個別支援計画(災害時ケアプラン)はいま
本紙:個別支援計画はいま 「福祉と防災の連携」〜立木茂雄氏に聞く
本項ではさらに第3弾として、「災害派遣福祉チーム」(*DWAT/DCAT)を取り上げる。
折しも、国(厚生労働省)は先ごろ、災害時の要援護者を支援する「災害派遣福祉チーム」の取組みを集約する「災害福祉支援ネットワーク中央センター」を2022年度内に創設することを明らかにし、福祉防災の新たなフェーズを開こうとしている。
なお、「災害派遣福祉チーム」の略称は都道府県によって「DWAT:Disaster Welfare Assistance Team」と「DCAT:Disaster Care Assistance Team」が混在する状況があるため、本紙ではその略称を「DWAT/DCAT」とすることとした。
●着実に進展、福祉と防災の連携 さらにネットワークの実効性を高める
東日本大震災を経て、近年の相次ぐ大規模災害の発生とそれによる関連死など二次被害防止への意識の高まりで、災害時の応急的対応・生活支援から復旧・復興期を支える福祉支援体制の構築など、福祉と防災の連携の動きは着実に進んできた。
国の調査研究事業を請けた富士通総研のリポートによれば、2020年1月末時点で、都道府県内で災害福祉支援ネットワークの構築を完了していると回答した団体は37団体、2019年度中もしくは2020年度に構築とするのは4団体、検討中が6団体と、ほぼ全都道府県が福祉支援体制を整えつつある。
また、災害時に支援活動を行う災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)も半数以上の団体において設置され、2016年熊本地震、同年の台風第10号災害、2018年7月豪雨災害、2019年東日本台風災害、2020年7月豪雨災害ではこれらの災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)が支援活動を行っている。
国(厚生労働省)は2018年5月に「災害時の福祉支援体制の整備に向けたガイドライン」を策定、2019年度に実施した「災害派遣福祉チームの育成に関する調査研究事業」で開発した導入研修等が活用され、全国で災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)のチーム員確保や育成は進んでいる。また、都道府県間でもガイドラインに沿った意識の統一、知識や手順の共通化も図られつつあるという。
2019年東日本台風災害においても、災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)の活動経験がなかった県において県内派遣による支援活動、県外からの災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)の応援・受入れが行われており、近い将来発生するとされている南海トラフ地震、首都直下地震のような大規模災害時の災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)の県内派遣、広域派遣の活動も想定できる状況となりつつある。
富士通総研:災害福祉支援ネットワーク、DWATの実態把握、課題分析及び運営の標準化に関する調査研究事業 報告書
同報告はしかし、現在は災害時に活動するチーム員として最低限の要件が確保された状態であり、災害時に災害派遣福祉チームの活動の実効性を高めるには次の課題があるとし、これらの課題に共通するのは、災害福祉支援ネットワークの運営を担うネットワーク事務局(災害時にはネットワーク本部)の機能強化の問題だとしている。
▼発災時における災害福祉支援ネットワーク本部の確実な稼働と災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)の派遣の実施
▼保健・医療分野との連携
▼災害福祉支援ネットワークと市町村との関係性の強化
▼災害派遣福祉チーム(DWAT/DCAT)の平時の活動との連動
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Key Words
【福祉防災―災害派遣関連 用語のリマインダー(備忘録)】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●災害派遣福祉チーム DWAT/DCAT
DWAT: Disaster Welfare Assistance Team
DCAT:Disaster Care Assistance Team
災害時における長期避難者の生活機能の低下や要介護度の重度化など二次被害防止のため、一般避難所で災害時要配慮者(高齢者や障がい者、子ども等)に対する福祉支援を行う民間の福祉専門職で構成するチーム。
災害発生直後に社会福祉士や介護福祉士、看護師、理学療法士などの介護スタッフがリフトバス(車いす用昇降機を備えたバス)などで被災地へ駆けつけて福祉施設や避難所などで介護を行う。
被災地のニーズに合わせて順次交代し、中長期にわたり被災地の介護を支援する。今後、全国の都道府県に拠点を置く災害福祉広域支援ネットワークを構築して、災害直後から中長期にわたる被災地ニーズ把握と派遣チームの調整などを行う予定だ。
わが国では東日本大震災以降、岩手県などでいち早く創設(DCAT)された。
●災害派遣医療チーム DMAT
DMAT:Disaster Medical Assistance Team
医師、看護師、業務調整員で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期(おおむね48時間以内)に活動できる機動性を持った専門的な訓練を受けた医療チーム。阪神・淡路大震災で初期医療体制の遅れから「避けられた災害死」が約500名あったという反省から、この教訓を生かし、各行政機関、消防、警察、自衛隊と連携しての救助活動と並行して、医師が災害現場で医療を行う必要性が認識され、厚生労働省が所轄する「日本DMAT」が2005年4月に発足した。
これに続いて、東京都が「東京DMAT」を創設したことを機に、都道府県が管轄する「地域DMAT」が次つぎと誕生した。これによりDMATは、広域大規模災害の発生時に全国のDMATが参集する「日本DMAT」と、局地災害に対して活動する「地域DMAT」の2種に分類されている。なお、JMATは「日本医師会災害医療チーム」を言う。
●災害派遣精神医療チーム DPAT
DPAT:Disaster Psychiatric Assistance Team
自然災害や犯罪事件・航空機・列車事故等の集団災害が発生した場合、被災地域の精神保健医療機能が一時的に低下し、さらに災害ストレス等により新たに精神的問題が生じるなど、精神保健医療への需要が拡大する。このような被災地域の精神保健医療ニーズの把握、他の保健医療体制との連携、各種関係機関等とのマネジメント、専門性の高い精神科医療の提供と精神保健活動の支援を行う。DPATは精神科医師、看護師、業務調整員で構成される。
●災害時健康危機管理支援チーム DHEAT
DHEAT:Disaster Health Emergency Assistance Team
DHEATは、都道府県・指定都市の専門的な研修を受けた医師や薬剤師、保健師など(主に保健所職員)1班5名程度で編成することを基本とし、災害発生時に1週間から数カ月程度、被災都道府県の保健医療調整本部と保健所が行う保健医療行政の指揮調整機能等を応援する専門チーム。
●大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会 JRAT
JRAT:Japan Disaster Rehabilitation Assistance Team
東日本大震災をきっかけに発足。 JRATは、関東・東北豪雨災害、熊本地震災害をはじめとして、災害のフェーズに合わせたリハビリテーション支援を実施している。
https://www.jrat.jp/JRAT(大規模災害リバビリテーション支援関連団体協議会)
●日本栄養士会・災害栄養支援チーム JDA-DAT
JDA-DAT:Japan Dietetic Association-Disaster Assistance Team
JDA-DATは日本栄養士会・災害栄養支援チームの略で、大規模な自然災害が発生した場合に、被災害地内の医療・福祉・行政栄養部門等と協力して迅速に緊急栄養補給物資等の支援を担う専門的知識と技術を持った日本栄養士会・管理栄養士による支援チームを言う。
●公衆衛生版DMAT
公衆衛生版DMATは、都道府県等で事前に公衆衛生医師、保健師、管理栄養士、衛生課関係職員、事務職、運転手などを登録・訓練し、災害規模に応じて同一ブロック、全国の都道府県から派遣しようというもの。保健所単独による同様のチームは大分県が日本で初めて設置した。また、広島県では、これまでの医療救護班、心のケア活動(DPAT=前項)等を統合し、民間の職能団体を含む「広島県災害時公衆衛生チーム」
を設置。
〈2022. 05. 08. by Bosai Plus〉