国頭村辺土名漁港(左上)から奥間ビーチ(右下)の海岸(10月28日/産総研資料より)

「漂着軽石」の影響広がるか 原発もこれに備える

「漂着軽石」自体は日本列島では珍しくはない。
過去の大規模噴火噴出物の“二次的移動”でも発生している

 小笠原諸島の硫黄島の南方約60kmに位置する海底火山・福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)火山で2021年8月13~15日、高い噴煙が立ち上がり、多量の軽石を噴出する大規模な噴火が発生した。この噴火は、明治以降に発生した日本列島における噴火のなかでは最大級の噴火で、1914年の桜島火山大正噴火に次ぐ規模のものと推定された。

 火口近くに厚く堆積した噴出物によって新島が形成されたほか、多量の軽石が火山の周辺の海面を埋め尽くし、軽石(軽石いかだ)は海流によって引き延ばされながら西に移動、約2カ月をかけて1300kmほど離れた南西諸島に漂着し始めた。10月4日には沖縄県の北大東島・南大東島、同月10日には奄美群島喜界島、11日には奄美大島、13~14日には沖縄本島や久米島、鹿児島県与論島と、大東諸島や南西諸島に多量の軽石が次つぎと漂着。多量の軽石が漂流・漂着することにより、漁業やフェリーの航行、海上保安庁の巡視船の運航にも支障が生じた。

 11月12日に、この漂流する軽石の一部とみられる少量の軽石が、伊豆諸島の式根島(東京都新島村)に漂着した模様との報道があった。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の予測では、黒潮に乗って11月末ごろに関東地方の沖合にも到達するとしていた。

P3 1a 国頭村辺土名漁港(左上)から奥間ビーチ(右下)の海岸(10月28日/産総研資料より) - 「軽石の漂着」は初めてではない<br>――想定外に備える
国頭村辺土名漁港(左上)から奥間ビーチ(右下)の海岸(10月28日/産総研資料より)
隣接した地域でも、海岸に軽石が漂着している量は大きく異なる。上画像で黒矢印で示した海岸には多量の軽石が漂着しており灰色になっているが、赤矢印の海岸にはそれほど多く漂着していない。海岸の地形や風・海流などが組み合わさって、多くの軽石が漂着している海岸とそうでない場所に分かれる
P3 1b 沖縄県国頭村辺土名漁港(左)と国頭村奥漁港(右)内に滞留する軽石(産総研資料より) - 「軽石の漂着」は初めてではない<br>――想定外に備える
沖縄県国頭村辺土名漁港(左)と国頭村奥漁港(右)内に滞留する軽石(産総研資料より)

●「漂着軽石」は実は珍しくはない――過去の大規模噴火砕屑物が供給

 本紙は先の11月1日付け記事「想定内 vs. 想定外―温暖化抑止と海底火山軽石漂着」で、海底火山噴火による日本列島への軽石漂着は、地球史レベルで見れば想定外ではなく、繰り返されてきたはずとした。事実、35年前の1986年にも今回と同じ福徳岡ノ場で噴火が発生し、同様に、黒潮が南側に弧を描いて戻ってくる「黒潮反流」に乗って、噴火発生から約4カ月後に沖縄各地の海岸に軽石が大量に漂着した。
 また、1924年(大正13年)10月31日に西表島の北北東約20kmの沖合で海底噴火が起こり、付近の海面一帯に多量の軽石が漂流、その後黒潮の流れで日本各地に漂着した。

 火山砕屑物の一つである軽石は多孔質であるために水に浮くことが多く、海域での漂流を開始した軽石は海岸に打ち上げられるか、海底に沈むまで漂流し続けると考えられるが、それらの漂流・漂着に関わるプロセスは明らかになっていない。
 いっぽう、現在の日本列島の海岸には平穏時(海底火山の噴火の有無にかかわらず)軽石は漂着しており、これは噴火活動以外に海域へ軽石を供給する仕組みがあること示唆しているという。漂着軽石は、ほとんどの海岸で確認され、浮遊しやすい発泡スチロールやクルミなどが多く漂着する海岸では漂着軽石も多く見出されているのだ。

 直近の研究では、これら漂着軽石は、最近100年間に発生した海底噴火に伴うものと、1万年以上前の大規模噴火に伴うものが見出され、とくに1万年以上前の大規模噴火に伴うものは、陸域の火砕流台地の二次的な移動(海岸侵食や崩壊、土石流などによる)によって継続的に軽石が供給されていると考えられるという。

●「漂流軽石」を想定外にしてはならない――国、原発も軽石に備える

 国土交通省港湾局では、海底火山の噴火に伴う漂流軽石の効果的な回収技術を検討するため、11月16日に「漂流軽石回収技術検討ワーキンググループ(第2回)」を開催する。
 また、原子力規制庁は、海水で原子炉を冷やす原子力発電所に軽石が流れ着くことを懸念し、とくに鹿児島県の九州電力川内原発や、太平洋に面した静岡県の中部電力浜岡原発などに注意を促した。
 同庁は2019年にすでに、漂着軽石の対策例を公表している。原発は、原子炉を冷やしたり、蒸気を真水に戻したりするのに海水を使うことから、取水口が軽石で詰まって海水が取り込めないと原子炉が冷やせなくなる恐れがあるためだ。

P3 2 原発の漂着軽石対策例(川内1・2号炉の例) - 「軽石の漂着」は初めてではない<br>――想定外に備える
原子力規制庁では2019年に原発の漂着軽石対策例を公表している(九州電力川内1・2号炉の例)

 産総研地質調査総合センターによれば、軽石は潮の満ち引きや風・海流などの変化で漂着量が大きく変化するが、港湾内に滞留した軽石はなかなか出ていかず、比較的変化が少ないことがわかったという。港湾に滞留している軽石の厚さは、約10~20cmほどで、この値は港湾内などに浮遊する軽石の体積を計算する際に目安にもなるとしている。

産総研:沖縄本島に漂着した軽石の状況(第2報/2021年11月9日)

JAMSTEC:海底火山「福徳岡ノ場」の噴火に伴う軽石漂流に関する予測シミュレーション (最新版/11月15日更新)

〈2021. 11. 16. by Bosai Plus

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