パネルディスカッション「全体」

避難情報の細分化・多様化、
高度化から新しい避難情報へ

「令和時代の避難」――
タイムリーなテーマ設定と深い俯瞰で、「令和の新しい防災」

【 避難の現代史を俯瞰、「令和の新しい防災」に向けて展望を切り開く 】

 令和防災研究所(東京都千代田区。青山 佾(やすし)所長。以下、「令和防研」)は、「防災に関する研究」、「防災に関する情報の収集と提供」、「防災に関する啓発」、「防災士制度および防災士活動の強化に資する活動」の4つを事業の柱として2019(令和元)年5月に設立された。令和防研は昨年(2019年)9月23日に第1回設立記念シンポジウム「平成災害史の教訓と令和に向けた課題」を東京・千代田区で開催した。

>>WEB防災情報新聞(2019.10.01):令和防災研 第1回シンポ 平成の災害・防災を見直す

 それから1年の去る9月22日、令和防研第2回シンポジウム「令和時代の避難を考える~昭和・平成の災害を越えて」が、新型コロナウイルス感染症が蔓延するなかで感染防止対策を施し、 人数制限による会場参加とオンライン映像配信で 行われた(同事務局によると会場参加者は89名、オンラインによる参加者は90名)。
 同研究所は設立初年度の研究テーマを「避難行動」とし、地震や津波など自然災害からの緊急避難について、近年の学術上の議論の変遷と知見、避難を取り巻く状況を分析、令和の時代に必要な避難行動や政策、法制度のあり方を議論してきた。第2回シンポジウムはその研究成果の発表の場とした。とくにこのところ毎年発生している大規模風水害での避難情報の課題、そして本年のコロナ禍での避難所運営、在宅避難をはじめとする避難先の多様化傾向の分析などタイムリーな課題が論じられた。

●廣井氏「避難情報の進化で、防災教育は変わるか、防災士の役割は…」

 本紙は同シンポジウムの映像配信を取材した。シンポジウムでは冒頭、青山 佾(やすし)・令和防研究所長が挨拶に立ち、「昭和・平成から令和へ、防災のあり方が変わってきた、あるいは変わるべきところは変えたほうがいいという趣旨で令和防研が誕生した。とくに『避難』を主な研究趣旨のひとつに据えており、今回のシンポジウムは直近の防災課題にタイムリーに連動する。会場とオンラインの併用での開催のその成否は、議論の内容にかかっている」と挨拶。

 続く基調講演は、廣井 悠・東京大学大学院准教授が登壇、「避難研究の経緯と情報の対象範囲に関する考察」と題して講演を行った。廣井氏は、令和防研内での「避難情報に関する研究会」の主査を務めている。廣井氏は「”緊急避難”の意味は『安全を確保すること』だ。テレビなどはすぐに避難所を映すが、避難所への避難だけではない。自分がいる場所が安全であることが避難。だから各人の避難行動は異なり、その人にとっての避難情報が重要になる」とし、避難につながる情報の歴史的な変遷を紹介。

P1b 廣井 悠氏 - 令和防災研究所――<br>第2回シンポ「令和の避難」を開催
廣井 悠・東京大学大学院准教授による「避難研究の経緯と情報の対象範囲に関する考察」と題した基調講演で

 「避難情報が細分化・多様化・高度化した結果、これからはよりわかりやすい情報の個々人への提供が可能となり得る。そのとき、防災教育はどうあるべきか、防災士の役割は変わるのか、想定外の災害に対応できるか。これまでの”避難常識”が変わるかもしれない」とした。また、台風19号(令和元年東日本台風)での行政の避難情報と住民の避難行動の関連性の分析結果を示し、今後の情報提供のあり方を探った。

●パネルディスカッション――

 続いて令和防研研究者・研究テーマによる各研究の紹介が下記の研究員と各テーマに沿って行われた(研究員名と題目のみ掲載)。
 加藤孝明・東京大学生産技術研究所教授「避難+避難+避難について思うこと」、早坂義弘・東京都議会議員「いつ・どこへ・どうやって」、橋本 茂・日本防災士機構事務総長「感染症拡大期における防災士の活動について」、中林啓修(ひろのぶ)・国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授「ポスト避難の重要性」、成澤廣修(ひろのぶ)・東京都文京区長「新時代に求められる避難所の3密回避」、玉田太郎・防災士研修センター代表取締役「避難所の停電時に備える事前対策」、河上牧子・令和防災研究所事務局長・主任研究員「マンション防災のトレンド~風水害対策」、青山 佾・令和防災研究所長「避難行動と住民・行政・メディアそしてインフラ整備の課題」

P2 2 加藤プレゼン「避難場所と避難所」 - 令和防災研究所――<br>第2回シンポ「令和の避難」を開催
加藤孝明・東京大学生産技術研究所教授の研究発表「避難十避難十避難について思うこと」で
P2 3 中林プレゼン「ポスト避難」 - 令和防災研究所――<br>第2回シンポ「令和の避難」を開催
中林啓修(ひろのぶ)・国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授の研究発表「ポスト避難の重要性」で

 パネルディスカッションには、上記8名(河上牧子氏を除く)の研究員が登壇、休憩時間中に募った聴講者からの質問・意見に応えるかたちで行われた。コーティネータを務めた青山氏は、質問・意見のなかからまず「広域避難」のテーマを取り上げた。その一部を以下、抜粋要約――廣井氏は「コロナ禍にかかわらず、いまいるところが安全であれば在宅避難、不安があれば知人宅などへの”遠地避難”が基本」、加藤氏は「避難所が避難者を収容しきれないという問題については、これまでの避難常識を見直して新しい避難のあり方をつくっていくことが重要」とした。

P1b パネル登壇者 - 令和防災研究所――<br>第2回シンポ「令和の避難」を開催
(写真左から)青山 佾(やすし)所長、廣井 悠・東京大学大学院准教授、加藤孝明・東京大学生産技術研究所教授、早坂義弘・東京都議会議員、橋本 茂・日本防災士機構事務総長、中林啓修(ひろのぶ)・国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授、成澤廣修(ひろのぶ)・東京都文京区長、玉田太郎・防災士研修センター代表取締役(河上牧子・令和防災研究所事務局長・主任研究員はパネルディスカッションは欠席)

 中林氏は国民保護の視点から「広域避難で重要なのは、避難者の規模感をつかむことと避難生活の長期化への対策」、早坂氏は「これまでは避難行動をしてくれないことが防災の課題だった。コロナ禍で逆に在宅避難など(安全であれば)動かないでとなったのはいいことではないか。必要がない人は動かなくていいというのは新しい避難行動になる」と述べた。
 橋本氏は「学校は避難者に一般教室を開放して」と訴え、また、「大規模災害では、避難所施設管理者が避難所を開設する前に、すでに避難者が施設に入っている。行政はコロナ禍でのこの事態への対応策を示せ」などの課題を指摘した。

 令和防研は発足1年半で、昭和・平成から令和へという防災の現代史をタイムリーにかつ深く俯瞰して、「令和の新しい防災」に向けて展望を切り開きつつある。今後、さらに研究テーマを深め、設立趣旨の柱のひとつ「防災士制度および防災士活動の強化に資する活動」についても、具体的な研究・行動計画が打ち出されることを期待したい。

>>令和防災研究所

〈2020. 10. 01. by Bosai Plus

コメントを残す