令和防災研究所シンポジウムで

平成の災害・防災を見直す。
令和防災は、「温故創新」へ

地域防災の要は、災害環境の確認、マニュアル計画の作成、訓練の実施―防災士に期待

【 これまでの”物理的に死をもたらす災害”からの防災が変わる? 】

令和防災研究所――横断的な研究所を通じて防災研究を発展させる

 「令和防災研究所」(東京都千代田区。青山 佾(やすし)所長)が去る5月1日付けで設立され、本紙は設立記者会見の模様を6月1日付けでリポートした。
>>防災情報新聞 2019年6月1日付け:「令和防災研究所」 発進!
 同定款によれば、研究所の事業は「防災に関する研究」、「防災に関する情報の収集と提供」、「防災に関する啓発」、「防災士制度及び防災士活動の強化に資する活動」の4つを柱とする。設立趣意書には、平成の時代の災害をはじめ、過去の幾多の災害の克服と防災・減災に向けてのわが国の災害対策を踏まえつつ、「災害大国として、日本は”BOUSAI”において世界をリードしなければならない」とし、また、「平成の時代に誕生し、国民に支持され発展してきた防災士制度の推進の一翼を担ってきた有志が、横断的な研究所を通じて、防災研究を発展させ、防災士制度のさらなる発展に寄与する」とある。
 その設立からほぼ5カ月となる去る9月23日、令和防災研究所は設立記念シンポジウム「平成災害史の教訓と令和に向けた課題」を、東京・千代田区の全国都市会館に約300名の聴講者を集めて開催した。

P2 1 青山 やすし所長 - 令和防災研究所 第1回シンポジウムより
青山佾所長の冒頭挨拶

若手による新たな視点で防災の課題を洗い出し、実務的な検討を

 シンポジウムは青山佾所長(明治大学名誉教授、元東京都副知事)の挨拶に始まり、「1部:発表」(同研究所理事/研究員による研究ブリーフィング)のあと、ゲストスピーカーとして浦野 修・NPO日本防災士会会長による「日本防災士会の活動」の講演、「2部:パネルディスカッション」の構成。

 冒頭挨拶で青山氏は、「いまは災害対策基本法に明記されているように、災害対策は基礎自治体に大きな権限が委ねられ、区市町村第一主義となっている。いっぽうで避難情報が的確に出されているのか、先の台風15号に見られるように被害状況の把握ができているのかなど課題も多い。令和防災研究所ではそうした課題や問題意識を洗い出し、若手による新たな視点で実務的な検討を試みようという趣旨で研究所を立ち上げた」と述べ、「今回のシンポジウムでも、まずそうした課題・問題意識を各研究員に紹介してもらい、それらをまとめるかたちでパネルディスカッションを行うという通常とは異なる進行となっている」とした。

P2 3 パネルディスカッションの様子 - 令和防災研究所 第1回シンポジウムより
パネルディスカッションの様子

研究所・研究員8名の「テーマ」ブリーフィング “駆け足”でとりまとめ

 「1部:発表」では8名の理事・研究員が登壇し、それぞれ約10分間の研究テーマのブリーフィングを行った。
 まず、河上牧子事務局長/主任研究員から「平成時代の災害の概要と特徴」の説明があり、玉田太郎理事(防災士研修センター代表取締役)は防災士養成にかかわる立場から今後は「事前防災教育」が重要だとし、年に1回・3日間・72時間のライフラインの途絶状況を体験する”マイホーム・サバイバル・トレーニング”を提唱した。
 続いて早坂義弘理事(東京都議会議員)は、これまでの災害対策の抜本的な見直しを迫る問題として「災害関連死」を取り上げた。災害対策の目的はいのちを守ることだが、過去の災害の主な”死因”を顧みると、関東大震災では”火(焼死)”、阪神・淡路大震災では”建物(圧死・窒息死)”、東日本大震災では”水(水死)”で、いわば外科的な死因が多かったが、想定される首都直下地震ではこれらに加えて、”内科的な関連死”についても重大な関心を寄せていかなければならないとした。

 中林啓修(ひろのぶ)理事(人と防災未来センター主任研究員)は、「自衛隊・災害派遣と地域」をテーマに、自衛隊の災害派遣の要件や課題を分析。災害派遣の要件として「公共性(人命・財産の保護)・緊急性(直ちに対処)・非代替性(自衛隊の能力が必要)」の3つがあり、東日本大震災後は、その対応行動(通常業務範囲、状況に応じた拡張・拡大対応、緊急性の高い対応など)のパターン変化があること、今後は、提案型など被災地のニーズに応じて自衛隊災害派遣の新たなパターンが派生する可能性を指摘。
 成澤廣修(なりさわ・ひろのぶ)理事(文京区長)は、東京都文京区の「防災対策」をテーマに、妊産婦・乳児救護所設置の経緯、避難所ごとにカスタマイズした「避難所開設キット」を説明。防災士との連携を強化しているとした。  廣井 悠(ゆう)理事(東京大学准教授)は、「大都市と防災」をテーマに。災害をもたらす側から見ると”大都市ほどコストパフォーマンスがいい”としてその9つの理由を説明。災害対策としては、少子高齢化や自治体財政のひっ迫などこれからの防災の変化を見据え、これまでの”物理的に死をもたらす災害”からの防災を変え、新しい都市防災のかたち・視点・ビジョンを模索することになる、とした。

 橋本 茂理事(日本防災士機構事務総長)のテーマは、「地区防災計画の推進」。住民が行う地域防災の要は、災害環境の確認(リスクと教訓)、マニュアル計画の作成(役割分担)、訓練の実施の3つと考え、これを着実に、繰り返し実施することで地域の安全性は高まるとし、地区防災計画の推進、その策定はむずかしいことではないと訴えた。
 最後に加藤孝明理事(東京大学教授)は、「温故創新」を切り口にこれからの防災の方向性は、社会制度の慣性の法則からの脱却、縦割り・”昭和的”組織の限界を乗り越えることとし、これまでの防災はレシピ(全国一律のガイドライン)がないと料理がつくれなかったが、これからは地方の多様性、異なる災害特性を素材に個別の料理をつくるべきことなどを例にあげた。また現在の膨大な防災需要(多岐にわたる災害対策)のトリアージで過少な資源とバランスをとる考え方、例えば被災者が支援者になるという発想なども提言した。

 シンポジウムはこのあと、ゲストスピーカー・浦野 修・NPO日本防災士会会長の講演があり、日本防災士会の多彩な活動と広がりが紹介され、パネルディスカッションに移った。
 パネルディスカッションは、聴講者から事前(休憩時間中)に集めた質問メモを中心に展開、直近の台風15号での千葉県をはじめとする災害とその対応に関連した質問が多く、千葉県はじめ東京都などの対応が話題となった。

>>令和防災研究所

〈2019. 10. 01. by Bosai Plus

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