Googleの「緊急地震速報システム」広報ページより

「インターネット・オブ・シングス(IoT)」を背景に、
地震警報システムに大きな可能性

小型の地震計としてのスマホ

 米国グーグル社(Google LLC)は去る8月11日、米国地質調査所(USGS)などと連携して、同社の携帯向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」(Android)スマートフォンに加速度センサーを搭載して揺れを検出、地震発生を捉え、大きな揺れ(S波)の到着前に知らせる警告システム「Android Earthquake Alerts System」を構築したと発表した。

 日本が導入する緊急地震速報システムでは、大規模な地震観測網を整備する必要があり、構築コストが膨大なものとなるが、グーグルは、世界各地で大量に使われているアンドロイド・スマートフォンに加速度センサーを搭載して地震計のように利用することで、一挙に地震観測網を世界規模で張り巡らそうというもの。当面、カリフォルニア州限定で、USGSと同州危機管理局(Cal OES)の協力を得て、地震警報システム・USGS「ShakeAlert」の事前アラートをアンドロイド・スマートフォンに配信する取組みを始めた。

>>Google:Earthquake detection and early alerts, on your Android phone(英語サイト)

P5 1 グーグルHPより - グーグル、<br>スマホで緊急地震速報 構築へ
グーグルHPより、「Android Earthquake Alerts System」イメージ画像

 地震検知・警報システムの公的機関による整備は、地震大国である日本が世界の最先端を走っていると考えられているが、中国やトルコ、メキシコなどでも行われている。米国も西部を中⼼に地震が多く発生することから、地震検知システムは早くから研究・開発されており、現在、カリフォルニア大学バークレー校、カリフォルニア工科大学、ワシントン大学、米国地質調査所(USGS)が共同開発したUSGS「ShakeAlert」というものがある。

>>USGS ShakeAlert(英語サイト)

 同システムは、警報をスマートフォン、タブレット、TV、コネクテッド・カーなどに届けることをめざしているが、非営利団体としての運営であるため、予算不足により普及が進んでおらず、民間企業による警報システムの開発に期待せざるを得ない状態にあるという。しかし、地震警報システムから民間企業がどのようにして利益を上げるかが大きな課題となっていた。
 ところが近年、「インターネット・オブ・シングス(IoT)」への注目度が高まっていることを背景に、地震警報システムに連動したアプリに目を向けるテクノロジー企業が増えた。例えば、スマートフォンを使って外から家電を操作するアプリ、またホームセキュリティやコネクテッドカーなどと地震センサとの連動など、地震を検出したら、各種IoTへ警報を発信するアプリの開発が進められているという。

P5 2 米国「ShakeAlert」の啓発資料より - グーグル、<br>スマホで緊急地震速報 構築へ
米国「ShakeAlert」の啓発資料より。地震時の高齢者や障害者の身の守り方にまで気くばりしていることに注目!

地震に限らずあらゆる「振動」を検知――「IoT」時代のビジネスアイデアも

 グーグルの「Android Earthquake Alerts System」では、スマートフォンが地震と思われる振動を検知すると、そのデータはサーバーへ送信され、サーバーは膨大な数のスマートフォンから集めたデータを解析し、地震が起きたかどうか判断する。現時点では、サーバーで解析した地震発生の情報を検索サービス「Google Search」に反映させ、「earthquake」(地震)、「earthquake near me」(近くで地震)といったキーワードに対する検索結果として表⽰、2021年には、地震が多発するすべての国や地域でAndroidスマートフォンによる地震警報を提供したい考えだ。

 MIT TECHNOLOGY REVIEWという科学技術誌によると、新型コロナ・パンデミックによって世界中の都市機能が止まった3月から5月にかけて、「世界は静寂に包まれた。世界中の地震観測所と市民科学者が測定した地震ノイズのデータからもその事実が裏づけられた」とのことである。つまり、ロックダウンによって街から人が消え、公園からジョギング愛好家や家族連れの姿が消え、建設プロジェクトは凍結され、店は一斉に閉まった――その結果、世界中の地震観測所のネットワークが、この静寂期間を数値化することができたという。この「地震の静寂」に関する研究は、人間が環境にどれだけ騒音(ノイズ)をもたらしているかを⽰し、「ロックダウンは、人類の足元の地球内部で起きている活動に耳を傾ける貴重な機会を科学者に与えた」とした。

 そう考えると、グーグルの地震感知システムは地震被害の軽減にとどまらず、あらゆる「振動」の検知に役立てられそうだ。日本の気象庁は気象情報のビジネス活用を推進しているが、緊急地震速報の利活用についても、受動的(防災、減災)な利活用だけではなく、IoT時代にふさわしい「システム・データの利活用」を本格的に検討してみてはどうだろう。

〈2020. 08. 16. by Bosai Plus

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