民生委員・児童委員が連携・協働する関係機関(全民児連資料より)

要援護者の命・尊厳をどう守るか
地域協働に活路…

全民児連、「災害時一人も見逃さない運動」と
東日本大震災を経て、地域協働・連携へ
――20万防災士との協働は?

「民生委員・児童委員活動10か条」――改めて、身の安全ファースト

『災害時一人も見逃さない』と『危険を顧みない支援』の相克

 朝日新聞7月26日付け「声」欄に「美談にしないで、民生委員の支援」という投稿があった。
>>朝日新聞:(声)美談にしないで、民生委員の支援

 投稿者は自身が民生・児童委員(70)で、投稿内容は次のようなものだ(全文引用)――
 「熊本県などに大被害をもたらした豪雨災害。被災者支援で奮闘した民生委員についての本紙記事に違和感を覚えた。
 記事によると、民生委員は、腰の高さまで水が来ていながらも、被災者を自宅2階へあげて助けるなど、救援の様子は臨場感にあふれる。避難を促すことになっている要支援者は約20人だったとのことだが、見出しは「家訪ねたのは6人『精いっぱい』」。これを読んだ民生委員たちが、「危険を顧みず最後の一人まで支援することが役割だ」と誤解することを危惧する。民生委員は高い使命感を持つ。東日本大震災では、高齢者などの安否確認をしていた民生委員が岩手、宮城、福島の3県で56人犠牲になった。
 震災の前に民生委員の間で『災害時一人も見逃さない運動』が行われ、その名称にとらわれたからでは、との声があがった。昨年には、災害に備えての民生委員の『活動10か条』が作られ、第1条で「自分自身と家族の安全を最優先」とうたう。災害弱者の生命や人間としての尊厳をどうやって守るか。実情を踏まえた冷静な議論が必要である」――

P4 1 全民児連 第2次「災害時一人も見逃さない運動」キャンペーン・リーフレットの表紙 - 災害に備える<br>民生委員・児童委員
民生委員・児童委員制度100周年記念事業時のパンフレットより(2017年)

 全国の民生委員・児童委員約23万人で組織する全国民生委員児童委員連合会(以下、「全民児連」)は、2007年の民生委員制度創設90周年に際して、災害時要援護者支援に備える防災キャンペーン「民生委員・児童委員発 災害時一人も見逃さない運動」を提唱・展開し、地域防災と福祉の連携を担う一大勢力の浮上として防災関係者に注目された。
 「災害時一人も見逃さない運動」キャンペーンは2006年4月から始まり、07年9月までの18カ月間を「第1次運動」として、約7割を超える民生委員児童委員協議会(法定単位民児協とその連合組織「連合民児協」がある)で運動が実施された(07年3月全民児連「推進状況調査」より)。
 運動期間中の07年3月に「能登半島地震」、7月に「新潟県中越沖地震」が発生、民生委員・児童委員が、日常の相談・支援活動のなかで整備してきた「要援護者台帳」、「災害福祉マップ」が活用され、被災地のひとり暮らし高齢者等の安否確認が迅速に進んだことが社会的に高い評価を得た。

 この運動の実績を高く評価した国は、災害時の要援護者支援について、「民生委員・児童委員と連携して必要な情報の共有化に取り組むこと」を市町村に求め、関係機関・団体においても、民生委員・児童委員ならではの災害時のきめ細やかな地域住民支援活動の重要性が認識された。これを踏まえて全民児連は、「災害時一人も見逃さない運動」を引き続き継続することとし、07年10月1日から2010年11月末日までの3年以上にわたる「第2次運動」を展開した。

 「第2次運動」で全国の民生委員および民児協は、次のような課題に取り組んだ。(注:民生委員は児童委員を兼任し、正式名称は「民生委員・児童委員」となる。以下、本記事では「民生委員」と略す)。
▼民生委員「第2次運動」の取組み
1.災害発生時、民生委員自身および家族の安全確保
2.民生委員自身の家庭での防災環境の整備
3.緊急時の連絡方法の確認
4.地域の要援護者台帳を整備し、要援護者の状況やニーズを把握

 後段で触れるが、第2次運動の課題の筆頭に「災害発生時、民生委員自身および家族の安全確保」があげられていたことが注目される。災害時の自らの安全確保が第一とされたにもかかわらず、“一人も見逃さない”という志に殉じざるを得なかった民生委員がいたのだ。

東日本大震災で民生委員が多く犠牲に
 委員の役割・委員の支援に課題が

 「第2次運動」の取組みも全国的に成果が定着・発揮されつつあったとき、未曾有の被害をもたらした東日本大震災が発生。この大震災・大津波で、56人の民生委員が犠牲になり、多くの民生委員も被災するなど、民生委員の安全確保、災害時の委員の役割、避難生活の長期化のなかでの民生委員に対する支援など、多くの課題が明らかになった。
 こうした課題を受け、全民児連では、災害時の委員活動のあり方についての具体的な考え方や留意点を整理し、「民生委員・児童委員による災害時要援護者支援活動に関する指針」を2013年4月にとりまとめた。
 その後、改正災害対策基本法(同年6月)で、市町村に避難行動要支援者名簿の作成が義務づけられ、その提供先のひとつとして民生委員があげられたことを受けて、災害対策基本法と委員活動の関係などについて加筆を行い、第2版を発行した(同年11月)。

 第2版の発行から5年が経過し、東日本大震災被災地では復興に向かうなかで新たな課題が明らかになっていること、各地で災害が相次ぎ、災害時の委員活動のあり方を改めて整理する必要があること、避難行動要支援者名簿の作成がほぼ全ての市町村で完了するなか、名簿の共有方法や活用方法が課題になっていることなどから、全民児連は昨年(2019年)3月、第3版となる「災害に備える民生委員・児童委員活動に関する指針」を策定した。
 指針の名称が「災害時要援護者支援活動に関する指針」から「災害に備える民生委員・児童委員活動に関する指針」へと変更されたのは、「民生委員も地域住民のひとりであり、自らの安全が最優先」、「災害時要援護者の支援は委員だけが担うのではなく地域ぐるみの取組みが必要」、「災害時に円滑な対応を行うためには平常時の取組みが重要」であることを、委員だけではなく、行政はじめ支援関係者にも伝えていくという主旨に基づく。

「災害に備える活動指針/10か条」
 ――要援護者の支援は地域ぐるみで

 全民児連は新指針(第3版)の策定にあたり、今後すべての民生委員、民児協事務局等の関係者が災害に備える取組みの実践において、日頃から意識し、再確認すべき基本的な考え方として「災害に備える民生委員・児童委員活動10か条」を以下、まとめている。

〈心がけ〉
第1条 自分自身と家族の安全を最優先に考える
第2条 無理のない活動を心がける〈平常時の取組み〉
第3条 地域住民や地域の団体とつながり、協働して取り組む
第4条 災害時の活動は日頃の委員活動の延長線上にあることを意識する
第5条 民児協の方針を組織として決めておく〈行政と協議しておくこと〉
第6条 名簿の保管方法、更新方法を決めておく
第7条 行政と協議し、情報共有のあり方を決めておく〈避難生活において・復旧復興に向けて〉
第8条 支援が必要な人に、支援が届くように配慮する
第9条 孤立を防ぎ、地域の再構築を働きかける
第10条 民生委員・児童委員同士の支え合い、民児協による委員支援を重視する

P5 1 民生委員「活動10か条」より - 災害に備える<br>民生委員・児童委員
民生委員「活動10か条」より

全国23万の民生委員 地域ぐるみの協働を求めている
 20万防災士はどう動く?

 「超高齢化社会」とともに「災害の世紀」に突入したわが国の防災戦略上、かつての防災と福祉の縦割りは、わが国の災害脆弱性の象徴だった。民生委員による「第1次・第2次」災害時要援護者支援キャンペーンは、その垣根を一挙に取り払う象徴的な動きでもあった。そして東日本大震災後、全国約23万人の民生委員の存在は、改めてこれから立ち向かうべき災害に備えて、地域防災力を基幹的に支える一翼となっている。

P4 2 民生委員・児童委員が連携・協働する関係機関(全民児連資料より) 1 - 災害に備える<br>民生委員・児童委員
民生委員・児童委員が連携・協働する関係機関 (全民児連資料より)

 本紙として、全民児連の「活動10か条」に触発されることがある。それは、ボリュームとしても同レベルの全国20万人(累計)の防災士との類似性だ。防災士数は今後もさらに増えることが想定されるが、あくまで個人の資格で、その活動は多分野にわたってそれぞれ多彩で自由な活動ではある。しかし、その志は高いものがあり、民生委員の「活動10か条」と共感・共有できる考え方が少なくないと思われる。

 防災士と民生委員の協働・連携はもとより、とくに「活動10か条」の「第3条」をキーワードとして、地域防災の「核」づくりを進めてほしいという期待はある。

>>全民児連:災害に備える民生委員・児童委員活動に関する指針

P6 1 民生委員・児童委員の魅力を伝えるフリーペーパー「民SAY!」より - 災害に備える<br>民生委員・児童委員
民生委員・児童委員の魅力を伝えるフリーペーパー「民SAY!」より

キーワード
◎民生委員・児童委員(制度)とは
 民生委員制度の起源は、1917(大正6)年に岡山県で発足した「済世顧問制度」や1918(大正7)年に大阪府に創設された「方面委員制度」にさかのぼる。1948(昭和23)年に民生委員法が施行され、2000(平成12)年改正、「常に住民の立場に立った活動を行うこと」が明記された。
 民生委員は、民生委員法・児童福祉法により児童委員を兼任し、正式名称は『民生委員・児童委員』。都道府県知事の推薦により厚生労働大臣が委嘱。その任は「社会奉仕の精神をもって、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、福祉事務所等関係行政機関の業務に協力するなどして社会福祉を増進する」。
 任期は3年(再任可)、守秘義務があり、無給(交通費などの実費支給)。全国の民生委員数(定数制)は23万8416人(2018年3月31日現在/児童福祉を専門に活動する『主任児童委員』約2万1899人を含む)。
 近年の民生委員の活動は、地域生活全般の相談から、高齢者の孤独死や虐待、詐欺被害、児童虐待、配偶者等からの暴力(DV)など、新しい社会課題への取り組みも増えている。高齢者・障害者への声かけ、安否確認などの見守り、ボランティアとの連携などを通じて、地域コミュニティ再生に大きな役割を担う。
 なお、全民児連は毎年、5月12日を「民生委員・児童委員の日」、この日からの1週間(5月12日~18日)を「活動強化週間」と定めている。

〈2020. 08. 09. by Bosai Plus

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