政府CIO「全国医療機関の医療提供体制の状況(β版)」より

医療崩壊に 当面、情報で備える。
感染症流行下の避難所運営は…

「緊急事態宣言」下の都府県、
いま大地震、豪雨、土砂災害が起こったら避難所をどうする?

【 地域防災は、医療提供体制を踏まえて備える、避難所運営に備える 】

●パンデミックでは津波のように、2波、3波が世界をめぐる――長期戦を想定せよ

 COVID-19感染症の世界的流行――パンデミックは世界を席巻しており、日本ではこれからが正念場になりそうな状況だ。世界の感染者数は累計200万人を超え、死者数は12万人に迫っている(米国ジョンズ・ホプキンス大学まとめ、4月14日現在)。
 日本では、厚生労働省のまとめで、4月13日12時時点で感染者数は累計7255例、内訳は患者4552例、無症状病原体保有者531例、陽性確定例(症状有無確認中)2172例、国内の死亡者は102名(国内での退院者799名)――海外での感染症の急増状況(オーバーシュート)や数字と、わが国のそれとはこれまで大きな違いが出ていて、表面上わが国での”深刻度の濃度”はまだ薄いと言えそうだ。
 とは言え、わが国で「緊急事態宣言」(4月7日)が出されて1週間、とくに行政・医療機関のあいだに「医療崩壊」への危機感が急速に高まりつつあり、その危機感が徐々に国民のなかにも伝わりつつある。

 COVID-19感染症は、特徴的に急激に感染が広がり、逆に減衰・収束に向かう曲線はなだらかで、かつ津波のように2波、3波が世界をめぐるために収束は長期に及ぶと想定されている。つまり、この感染症との闘いは長期戦を覚悟しなければならないが、罹患しても約8割は軽症で経過し、治癒する例が多いことが報告されている。それでもいったん発症すれば肺炎症状を起こす。
 とくに東京では若い年代層で発症率が高い傾向があり、”大病”となるリスクも高まることから、若年層にも危機意識は高まってきているようだ。もちろん、高齢者や基礎疾患を持つ人は、重症化するリスクが高いことが報告されている。

P1 政府CIO「全国医療機関の医療提供体制の状況(β版)」より - 『COVID-19』長期戦下、医療崩壊、複合災害に備える
政府CIO「全国医療機関の医療提供体制の状況(β版)」より、東京都の例。厚生労働省が内閣官房と連携して全国の入院病床を有する病院(20床以上/調査対象医療機関は日々追加中)の医療提供状況(各病院の外来・入院・救急等の各機能等)を毎日確認、「政府CIO」(本文参照)がその現状をまとめ公開している。4月12日時点では「医療制限または停止」状況はほとんどないが、「赤」色が増えると事態悪化を示すことになる

 こうした知識が国民に徐々に浸透しつつあるいっぽう、「3密(密集、密室、密接)の回避」から、病院での定期受診や一般的な受診、さらには入院の可否などについて、情報を求めるニーズが高まってきた。また、病院側でも、院内感染の事例が増えてきたことから、院内感染を防ぐ目的で、かぜなどの症状での新規の外来受入れなどを制限する病院がみられるようになってきた。
 そこで、厚生労働省は内閣官房と連携して、全国の入院病床を有する病院(20床以上/調査対象医療機関は日々追加中)の医療提供状況(各病院の外来・入院・救急等の各機能等)を毎日確認し、「政府CIO」(後述)がその現状をまとめ、同ポータルサイトでの公開を4月8日から始めている(本紙P.1トップ画像参照、下記にリンク)。

>>政府CIO:全国医療機関の医療提供体制の状況を公開(β版)

 余談だが、「政府CIO」とは、2000年に内閣官房に設置された組織で、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)の事務局の役割を果たすとともに、ITの活用による国民の利便性の向上と行政運営の改善についての総合調整を行っている。ちなみに「CIO」は企業経営のシステム部門の役員職の肩書で、「Chief Intelligence Officer」の頭文字から来ている。Intelligenceの“I”はさらにInnovation、Information、Information Systemも兼ねることから、「CIO」は、IT戦略・ITガバナンス、IS実行管理分野だけでなく、経営戦略、情報活用戦略、業務・プロセス改革分野の知識・資質が求められるという。このCIOを付した「政府CIO」は、日本語では「内閣情報通信政策監」となっている。

P2 1 厚生労働省が作成した啓発アイコン「知らないうちに、拡めちゃうから。」 - 『COVID-19』長期戦下、医療崩壊、複合災害に備える
厚生労働省が若年層に向けてCOVID-19感染症予防対策の普及啓発に向けて制作した啓発アイコン「知らないうちに、拡めちゃうから。」。疫病から人びとを守るとされる妖怪「アマビエ」がモチーフ。若年層への啓発が狙いだ
P2 2 「東京ガールズコレクション」の出演モデルが登場する啓発動画のイメージタイトル - 『COVID-19』長期戦下、医療崩壊、複合災害に備える
COVID-19感染症予防対策の若年層への普及啓発に向けて制作した「東京ガールズコレクション」の出演モデルが登場するメッセージ動画のイメージタイトルより

●国の「通知」と鴨川市の感染症流行下での避難所開設――先進事例として注目

 本紙発行2日前の4月13日、関東地方を低気圧が通過して強い雨が降りだし、昨年の台風15号などで大きな被害を出した千葉県南部の鴨川市や南房総市に土砂災害警戒情報が発表され、大雨警戒レベル4の避難勧告も出された(結果的に大きな被害は出なかった)。しかし、鴨川市が避難所を市内3カ所に開設したことで、COVID-19感染拡大を防ぐための異例の対応が取られている。
 避難所では受付で全員の体温を計測し、37度5分以上の熱がある場合は、保健師と相談したうえ受入れが可能かを判断したり、大勢が1部屋に集まらないように避難する部屋を事前に分けて態勢をとったという。また、避難所に消毒液を設置し、避難者に配布するマスクも準備したという(4月13日付けNHKニュースより)。

 こうした対応は評価されるものだ。この周到な対応は、国からの「通知」を受けてのことと思われる。国(内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(避難生活担当))は4月1日、「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応について」、都道府県、保健所設置市に対して通知を発出、続いて、東京都など7都府県に緊急事態宣言が発令された4月7日にも、「避難所における新型コロナウイルス感染症への更なる対応について」を発出している。

>>内閣府(防災担当):避難所における新型コロナウイルス感染症への更なる対応について(4月7日)

 避難所での感染症対策は、これまでも阪神・淡路大震災や東日本大震災時に大きな課題になった。避難所では、狭い空間に多くの人が集まって生活することを強いられる。水・トイレ問題をはじめ汚泥・がれきなど、生活衛生環境の悪化から二次災害としての感染症の発生が起こり得た。そこで、東日本大震災直後に、その教訓を踏まえた研究者グループ(主任研究者:切替照雄)による対策マニュアル「避難所における感染対策マニュアル」(2011年3月24日版)が策定された。

>>「避難所における感染対策マニュアル」(2011年3月24日版)

P2 3 「避難所における感染対策マニュアル (2011年3月版)」より - 『COVID-19』長期戦下、医療崩壊、複合災害に備える
東日本大震災直後に、その教訓を踏まえた研究者グループ(主任研究者:切替照雄)によって作成された対策マニュアル「避難所における感染対策マニュアル」(2011年3月24日版)より

 その後も、内閣府(防災担当)による「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(2013年8月、2016年4月改定))や「避難所運営ガイドライン」(2016年4月)が策定されているが、いずれも災害時の避難所での感染症発生・流行への対策方針だった。
 逆に、感染症が蔓延するなかで災害が発生し、避難所運営を迫られるときにどのように対応すべきかについては、明確なガイドラインはこれまで策定されていないのだ。ちなみに、防災情報新聞は、2009年の春からおよそ1年間続いた新型インフルエンザ流行時に特集記事をシリーズで打ち、そのなかで「新型インフルエンザ流行下での避難所運営」(奥田和子氏寄稿)を取り上げている。

>>防災情報新聞:奥田和子先生の「新型インフルエンザ流行下での避難所運営」どうする?

 国の「通知」は、これから梅雨や台風で水害が起きやすい「出水期」を迎えるのにあたり、感染症流行下で災害が発生して、避難所などでの集団感染の同時発生を危惧したものだ。鴨川市の事例は、感染症流行下での大雨による避難所開設という意味で“先進事例”となった。

●COVID-19感染症流行と避難所運営 防災士など地域防災の担い手も備えて

 国の「通知」は、自治体担当者に向けたもので、次のような留意事項(編集部が抜粋、要約)を掲載している。本紙読者には地域で防災活動を実践する人びとが多いことを踏まえ、この留意事項はまさに「避難所開設・運営」に大いに参考になるとみられるので、ぜひ同「通知」の全文をあたってほしい。

○可能な限り多くの避難所の開設
・発災した災害や被災者の状況等によっては、避難所の収容人数を考慮し、あらかじめ指定した指定避難所以外の避難所を開設するなど、通常の災害発生時よりも可能な限り多くの避難所の開設を図るとともに、ホテルや旅館等の活用等も検討
○親戚や友人の家等への避難の検討
・災害時に避難生活が必要な人に対しては、避難所が過密状態になることを防ぐため、可能な場合は親戚や友人の家等への避難を検討してもらうことを周知
○自宅療養者等の避難の検討
・自宅療養等を行っている新型コロナウイルス感染症の軽症者等への対応については、保健福祉部局と十分に連携の上で、適切な対応を事前に検討
○避難者の健康状態の確認
・避難者の健康状態の確認について、保健福祉部局と適切な対応を事前に検討の上、症候群サーベイランス(継続的監視)も参考として、避難所への到着時に行うことが望ましい
・避難生活開始後も、定期的に健康状態について確認
○十分な換気の実施、スペースの確保等
○発熱、咳等の症状が出た者のための専用のスペースの確保
・同じ兆候・症状のある人びとを同室にすることは望ましくない。やむを得ず同室にする場合は、パーティションで区切るなどの工夫をすること
・症状が出た者の専用のスペースやトイレは、一般の避難者とはゾーン、動線を分ける

P3 1 首相官邸HPより、新型コロナウイルス感染防止啓発用ロゴ類 - 『COVID-19』長期戦下、医療崩壊、複合災害に備える
新型コロナウイルス感染防止啓発用ロゴ類。各ロゴはダウンロードして啓発用に使える(首相官邸HPより)

 ほかに、「手洗い、咳エチケット等の基本的な対策の徹底」など、COVID-19感染症に関する厚生労働省の特設ページを参照して、対応することとしている。なお、左欄に掲載した啓発用ロゴは下記から自由にダウンロードして使用可となっている。

>>厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について(随時更新)

〈2020. 04. 15. by Bosai Plus

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