第45徳島県かきまぜ

Photo by くにろく

文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 山並みが雄大に広がる徳島県には、西日本でも2番目に高い剣山(つるぎさん 標高1955m)がそびえ立っています。ハイキング用の緩やかな初心者向けコースや、山岳信仰の霊山ならではの修行用の難所「行場」を歩くコースなど登山レベルに応じて整備されています。山には約1200種の植物や90種の鳥類、50種の獣類、さらに1300種の昆虫類が共生し、生物の多様性も実感出来る山なのです(林野庁ホームページ、以下HP参照)。
 また水流が四国四県にまたがり、激流で「四国三郎」の異名を持つ吉野川には2億年の時を経て形成された8kmの渓谷「大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)」があります。県南部の海にいたってはその美しさと波の高さからサーフィンのメッカとなっており、アウトドアやマリンスポーツを楽しむ観光客が全国から訪れています。

 山地が県面積の8割を占め、海にも面した徳島県の顕著な自然災害は土砂災害、そして津波です。特に南海トラフ巨大地震とそれに伴う津波被害をいかに減少させるかが重要な課題となっています。1605年(慶長9年)の「慶長地震」(マグニチュード以下M 7.9)は揺れによる被害は少なかったものの大津波が発生して阿波鞆浦は高さ約30m(死者約100人)、宍喰は約 6m(死者約1500人)と記録されています(徳島気象地方台HP 「南海地震の県内被害記録」参照)。
 また日本の地震史上最大級と言われる1707年(宝永4年)の「宝永地震」(M8.6、最大震度7)では全国の死者が5000人~2万人以上(資料により大きなバラつき有)、全壊家屋約6万軒、流失家屋約2万軒の凄まじい被害となり、徳島県でも震度5~6、津波の高さは橘で3~4m、由岐、木岐や浅川で6~7m、牟岐では8m、記録上では死者420人、全壊家屋230軒、流失家屋700軒ですが津波で全滅した村もあり全貌はつかめず、被害はさらに大きかったと推定されています(防災情報のページ 1707 宝永地震 第3章 各地の津波災害 、地震調査推進研究本部 徳島県の地震活動の特徴 参照)。
 徳島県海部郡海陽町鞆浦には慶長地震と宝永地震に関する石碑「宝永津波碑」が現存し、町の有形文化財に指定されています。宝永碑の最後には「後世に大地震に遭遇する人たちは、あらかじめ海潮の変化を考慮して、これを避けなければならない」とする一文が残されています(とくしま歴史文化総合学習館 レキシルとくしま「大岩慶長・宝永地震津波碑」参照)。

第45徳島県かきまぜ - 〈 復興わがまちご当地ごはん! 〉<br>【第45回】 徳島県「かきまぜ」
かきまぜ(徳島県)

●料理名:かきまぜ(徳島県)

 三味線のリズムに合わせ「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ そんそん」と唄われ踊る徳島名物「阿波踊り」。元は江戸時代に徳島城下で踊った盆踊りで、熱狂的に支持されたため徳島藩から一揆につながると禁止令が出されるほどでした。400年の歴史がある踊りですが、阿波踊りという名称が使われ始めたのは大正時代で、それ以前はもっぱら徳島盆踊りと呼ばれていました(阿波踊り会館ホームページ、以下HP 阿波踊りの歴史参照)。
 ちなみに阿波踊りの「阿波」の名前の起源は食べ物の「粟」です。古代に宮廷祭祀を司った忌部氏が吉野川流域を開拓した頃、このあたりで粟がよく実ったことからその一帯を「粟の国」、南の勝浦・那賀、海部の地域を「長の国」と名付けました。その後、大化の改新(645年)でこれらの地域を合わせて「阿波の国」としました(徳島県HP 徳島県の歴史参照)。
 1585年(天正13年)に蜂須賀正勝、家政父子が阿波の国を与えられて徳島城を築き、家政が徳島藩主となりました。徳島県の名の由来はここにあります。

 阿波踊りにみる徳島の県民性は、お祭り好きのにぎやかなイメージです。そこで今回は祭りや祝いごとがある時に作る郷土料理「かきまぜ」(五目ずし)をご紹介します。徳島県では昔、祖谷地方などお米が収穫出来ない地域があり、全体的に米の収穫量が多くなかったため具をたくさん入れるかきまぜを作りました。
 この料理は「おすもじ」や「まぜくり」と呼ぶこともあります。海側の地域はひじきや魚の身をほぐしたもの、山側は山菜などの野菜を入れたかきまぜがあるそうです。レシピは徳島県HP とくしまの食育応援団を参考にしました。

★ゆず果汁と金時豆入りが特徴

 四国の他県にもかきまぜはありますが、徳島の特徴は全国でも生産量第二位の柚子を酢代わりにたっぷり使い、金時豆を入れる点です。とにかく具だくさんで、一般的なちらし寿司よりも具の種類も量も多めで糖質が低くヘルシーです。
 ネットでレシピを調べると、こんにゃく、ちくわ、高野豆腐、ごぼう、にんじん、干し椎茸、さといも、さつまいもなど様々な具に金時豆をプラスすることが分かりました。
 出来上がった酢飯の上には絹さやや錦糸卵を乗せます。今回私は干し椎茸、にんじん、高野豆腐、油揚げ、金時豆、錦糸卵で作ってみました。

 水で戻した干し椎茸と高野豆腐、にんじん、油揚げを細かく切り、砂糖、醤油、酒で汁気がなくなるまで煮詰めます。それとは別に金時豆は一晩水に浸けてから砂糖で甘く煮ておきます。白米を炊いてご飯が炊けたら酢とゆず果汁の合わせ酢を加えて混ぜ、煮詰めた具も一緒に混ぜ混みます。甘い酢飯が好きな方はこの時に砂糖を入れてください。私は甘い酢飯が苦手ですので塩を少々入れました。最後に甘く煮付けた金時豆も入れてさっと混ぜ、上から錦糸卵をふりかけて完成です。柚子果汁の爽やかなさっぱりとした味になりました。

 金時豆の甘さや高野豆腐のキュッとした噛み心地、椎茸にしみた醤油の香りなどが口の中で広がり、お祝いの席にぴったりの豪華な味ですし見た目も色とりどりで綺麗です。具を別々に煮ておいたり野菜を小さく刻んだりと下ごしらえがやや面倒ではありますが、昔のもてなし料理の際には村人の分や大家族用に大量に作っただろう苦労を想像すれば、家族数人分なんて大した手間ではないと感じました。お米は少な目でも旬の野菜や地元の食材を入れて丁寧に作ることは一番のおもてなしだったことでしょう。
 今年は新型コロナ肺炎のためにお花見は自粛気味ですが、来年のお花見にご馳走としてお重で出してみてはいかがでしょうか。

〈2020. 04. 07.〉

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