出雲そば

Photo by くにろく

文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 島根県では梅雨前線がもたらす豪雨によって過去に大きな水害が複数回発生しています。特に被害が甚大だったのは「昭和47年7月豪雨」と「昭和58年7月豪雨」です。昭和47年(1972年)7月豪雨は、島根県はもとより日本全国で河川氾濫や土砂災害が相次ぎ、全国の犠牲者数は421名、行方不明者26名、負傷者1056名と各地に大きな爪痕を残しました(気象庁ホームページ、以下HP 「災害をもたらした気象事例 昭和47年7月豪雨」参照。被害者数は「消防白書」参照)。
 始まりは7月3日~6日の九州・四国での大雨と大規模な山のがけ崩れでした。7日~9日には北日本で大雨となって青森県と秋田県で河川氾濫が発生し、さらに9日~13日には梅雨前線が南下して本州南岸から四国、九州北部付近に停滞しました。
 同時期に日本の南海上にあった台風第6号、7号、8号の影響で梅雨前線の活動が一層活発化したこともあり、多量の雨を降らせています。この時に中国地方を流れる一級河川「江(ごう)の川」の氾濫で流域全体の死者・行方不明者は28名、家屋全半壊・一部破損3960戸、床上浸水6202戸、床下浸水7861戸の被害が出ています(国土交通省HP 水管理・国土保全「江の川の主な災害 過去の水害」参照)。島根県では9日~14日の間に死者26名、公共土木施設被害は約326億円にも上りました(島根県HP「島根県の災害の歴史」参照)。

  一方、昭和58年(1983年)7月豪雨は、島根県に記録的な大雨が降ったために土砂災害、水害が続発して多数の犠牲者が出た災害です。当時の気象情報によれば1983年7月20日~21日に低気圧が梅雨前線を活発化させ、23日には島根県の浜田で1時間降水量91mm、日降水量331.5mmを記録しました(気象庁HP「災害をもたらした気象事例 昭和58年7月豪雨」参照)。益田川、三隅川、小谷川、出羽川流域では浸水・洪水が起こり、土石流も発生して大量の流木や土砂が家屋に流れ込み、死者・行方不明者は107名、負傷者159名、全壊・半壊3041棟、浸水住宅被害は1万3996棟など、被害総額は4020億円にも膨れ上がりました(災害年表 島根県PDF参照)。

 島根県は1972年の豪雨の三隅川氾濫を受けて翌年からダム建設に着手しましたが、1983年の豪雨で再び三隅川が氾濫したため計画の一部見直しを強いられています。その後、1990年(平成2年)に完成した御部(おんべ)ダムによって下流では121㎝の水位低下が実現しました(ふるさと知事ネットワーク 島根県資料「住民同士の助け合い、支え合いに向けて」参照)。

出雲そば
出雲そば

●料理名:出雲そば(島根県)

 生めん類の製造業者団体である全国製麺協同組合連合会(全麺連)の「各地の名産・特産 出雲そば」によれば、「出雲そば」の発祥は江戸時代に松平直政(1601年~66年)が信州松本藩から改易で松江藩となった際にそば職人を連れていったことが始まりだったそうです。直政は徳川家康の孫に当たり、近江(滋賀県)で生まれ越前(福井県)に育ち、14歳だった1614年(慶長19年)に大坂冬の陣で初陣を飾ります。その際に敵である真田幸村から勇猛果敢さを称えられて軍扇を送られたエピソードが残っています(島根県HP「勇将松平直政初陣の記憶」参照)。
 さて、そんな直政が持ち込んだそばですが、島根県の郷土料理にまでなった背景には、同県が平安時代から自然災害が多く、そばが荒れ地でも短期間で収穫が可能な穀物だったからだとも考えられています。8月に播種をして10月から11月には収穫とその期間はわずか2カ月。梅雨時期に災害が多発する島根県では梅雨明けの夏の8月に植えて、すぐに食べることができる非常に貴重な食糧でした。

 出雲そばの特徴の一つは、あの黒っぽい色です。東京の「江戸そば」と比較すると色の違いがはっきりしています。島根県HP「出雲そばを極める」によれば、出雲そばは殻や甘皮がついたままのそばの実を石臼で挽くから黒く、江戸そばは殻をむいて挽くから白いのだそうです。そのため出雲そばは、そば本来の香りを堪能できる腰が強い麺となります。
 「割子(わりご)」と呼ばれる丸い器で食べるのも出雲そばの特徴で「割子そば」と呼ばれています。割子は元々江戸時代の松江の人々がそばを入れて持っていったお弁当箱のことでした。当時は四角でしたが昭和になり現在の丸い器になったそうです。そばをお弁当に持っていくというあたりが島根のそばの普及率の高さを物語っています。
 食べ方も江戸そばとは異なり、江戸そばがそばつゆの入った器に浸して食すのに対し、出雲そばはつゆを上からかけて食べるのです。割子そばのほかに「釜揚げそば」も出雲そばの特徴的な食べ方で、江戸そばがゆで上げたそばを一度水洗いしてから出すのに対し、釜揚げそばは釜でゆでたそばを直に器に入れて出すスタイルです。そばの香りがそのままで味わえる、そば好きにはたまらない食べ方と言えるでしょう。

出雲そばと呼べるのは島根県内製造のものだけ

 出雲そばと銘打ってある島根県で作られたそばを探して購入しました。写真は釜揚げそばのように作ったシンプルなものです。全麺連の出雲そばのページによると、出雲そばと呼ぶには以下の基準を満たす必要があるそうです。
①島根県内で製造されたもの
②一本挽のそば粉が原料
③そば粉の使用量は水分を除く全重量の50%以上
④加水量は原料粉重量に対して38%以上(夏)、40%以上(冬)
⑤熟成期間 夏は常温で混練後約20分、冬は約2時間
 ちなみに一本挽とは甘皮まで挽きこんだものを指します。

 ところで、そばに含まれる栄養といえば、タンパク質、ルチン、ビタミンB1、B2です。ルチンはポリフェノールの一種で毛細血管を強くして動脈硬化や高血圧を防ぎ、抗酸化作用もあるとされています。またビタミンB1は炭水化物(糖質)の代謝を助け、B2は皮膚や粘膜、髪の毛の細胞の再生を助けてくれます。
 カップラーメンやスナック菓子など糖質が多くビタミンB群が不足している食べ物を摂取することが多い方は、そばを積極的に食べると効果的なのではないでしょうか。特に出雲そばは栄養価が高く、これらの栄養素がたっぷり入っています。夏は割子で、冬は釜揚げでぜひ食卓に登場させてみてください。

〈2020.3.07.〉

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