夏休み・お盆帰省中の臨時情報
統計上の“万が一”にも備えて!
南海トラフ地震臨時情報が初めて発表された
―なにをすればいいの? とまどいと備えが錯綜
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●初めての「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」 !
1週間は、地震への備えの再確認と、避難の準備を
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8月8日16時43分頃の日向灘の地震はマグニチュード(M)7.1(気象庁速報値)で、最大震度6弱を宮崎県日南市で観測、津波注意報が16時52分に愛媛県宇和海沿岸、高知県、大分県豊後水道沿岸、宮崎県、鹿児島県東部、種子島・屋久島地方に発表されたが(宮崎港で50cmの津波を観測)、同日22時までにすべて解除された。そして同日、19時15分に「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されている。
「南海トラフ地震臨時情報」は、南海トラフ沿いで異常な現象が観測されたり、地震発生の可能性が高まったと評価された場合に気象庁から発表される情報で、住民や自治体に対して防災対応を促すものだ。2019年5月から運用が始まっている。
「南海トラフ地震臨時情報」には、以下のようなキーワードと手順が含まれる。
【調査中】 観測された異常な現象が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連するかどうか調査を開始した場合、または調査を継続している場合に発表
【巨大地震注意】 モーメントマグニチュード(Mw)7.0以上の地震が発生したと評価された場合、または通常と異なるゆっくりすべりが発生したと評価された場合に発表。この場合、事前の避難は伴わないが、地震への備えを再確認する必要がある
*モーメントマグニチュード:断層の面積と断層すべり量の積に比例する量で、物理的な意味が明確、巨大な地震の規模を求めることが可能
【巨大地震警戒】 南海トラフ想定震源域内のプレート境界において、モーメントマグニチュード8.0以上の地震が発生したと評価された場合に発表。この場合、住民は事前避難を行う必要がある
【調査終了】 巨大地震警戒や巨大地震注意のいずれにも当てはまらない現象と評価された場合に発表
内閣府によると、今回発表された「南海トラフ地震臨時情報」(以下、「臨時情報」)では、国は1週間程度の備えの確認を要請しているが、大雨警報などのように「発表/解除」といった仕組みではなく、”巨大地震注意”について解除されるものではないこと、このまま特段の変化がなければ、発表から1週間経過する15日には、臨時情報の『呼びかけ』が終了する見込みである(8月14日現在、8月15日午後5時で“呼びかけ終了予定”)。
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●「いつ起こっても不思議はない」と「1週間の備えを」の差は?
懸念されるのは「臨時情報」の“オオカミ少年”化…
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今回の「臨時情報」初運用について、一般国民でその内容を具体的に説明できる人は少ないだろう。南海トラフ地震は、初期の被害想定で人的被害が最悪32万人と示されて、そのイメージが席巻して津波避難をあきらめるという人もいた。今回の「臨時情報」は「巨大地震注意」で、“平常より数倍起きやすい”のに、その確率は“数百回に1回”とされては、わかりにくさは否めない。しかも、警戒が求められるのは1週間――その根拠はなにか。
数百回に1回の計算の元は、世界で過去に起きた地震の統計に基づく。M7級以上の地震が起きて、1週間以内にM8級以上の巨大地震が起きたケースを数えると、1904年から2014年まで1437事例のうち、6事例あるという。
東日本大震災をもたした東北地方太平洋沖地震はこのうちの一つで、2011年3月9日にM7.3の地震が発生、その2日後にM9.0の超巨大地震が起きた。3月9日のM7.3は、後から見れば前震だったのだが、後発地震は予知できず、この時点で巨大地震への警戒が呼びかけられることはなかった。
大地震が起こった震源域付近では後発の大地震が起こり得る――この教訓、あるいは反省から、「南海トラフ臨時情報」が生まれたのだが、さりとて、「1437分の6は、平時の南海トラフと比べると、巨大地震の起きやすさが数倍高まった状態にあたる」という解説は、感覚的にはわかりにくい。あくまで「相対的」であり、政府の地震本部が、南海トラフでM8~9クラスの地震が30年以内発生確率を70~80%とし、いつ起こっても不思議はないとするのと変わりないとも言える。
しかも、1週間以内に起こったM8級地震を除いた残り1431事例では、1週間を経過しても巨大地震が起きていない。つまり、起きないケースのほうがはるかに多い。
いっぽう、南海トラフの震源域では、M7級地震が15年に1回ほどの頻度で起きている。今後も(統計的には15年置きに?)臨時情報が発表され、「1週間の備えを」が繰り返され、“空振り”は受け入れるとしても、またか……と“オオカミ少年化”する可能性のほうが統計的には高いのだ。
もちろん、それでも、なにも呼びかけないわけにはいかないという事情が「臨時情報」の背景にある。ちなみに「1週間の備えを」の1週間は、大地震のあと気象庁が解説する「1週間の余震への備えを」とほぼ同義だ。もちろん、「社会的な受忍の限度」への勘案もある。
要は、「臨時情報」は、国民に防災への備えの再確認を求めるものと理解すべきだろう。その意味で、夏休み・お盆の時期の南海トラフ西端(日向灘震源)での大地震「臨時情報」という社会的実験は、大きな効果があったと言えるのではないか。
気象庁:南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)について(8月8日19時45分発表)
〈2024. 08. 15. by Bosai Plus〉