P2 1 新北市に設置された中央災害対策センターで指示する蔡英文総統(台湾總理府資料より) 640x350 - 台湾東部地震―<br>環太平洋造山帯リスク 目の当りに

地殻変動=造山運動リスクを共有
 一衣帯水、プレート上の台湾/日本

巨視的に見れば、原発足元の活断層ある・なしは、
原発新設・再稼働是非の議論上あまりにも瑣末

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●台湾で25年ぶりの大地震―この10年足らずで4つの大地震も
 もうひとつの「“地震大国”・台湾」 一衣帯水、津波影響は日本にも
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 4月3日に中華民国・台湾東部沖で発生した地震(以下、本稿では「台湾東部地震」)の概要は次のようだ――

 台湾中央気象局によると、地震は4月3日午前7時58分(日本時間8時58分)に台湾東海岸沖で発生。震源の深さ15.5km、マグニチュード(M)は7.2(日本の気象庁発表ではM7.7)。震源は花蓮県沖およそ25km、震源の深さ約15kmと推定。
 地震のメカニズムは逆断層型で、フィリピン海プレートが台湾の東側から沈み込んでいる場所で発生。この地震は、台湾では25年前の1999年9月21日に発生した「921大地震(集集 (チチ)地震)」(台湾中部南投県集集鎮付近を震源として発生)以降、もっとも大きな地震となった。

 921大地震では台湾当局の発表で死者2415人、行方不明者29人という大きな被害が出た。この10年だけを見ても、2016年台湾南部地震(M6.6)、2018年花蓮地震(M6.4)、2022年花蓮地震(M6.7)、2022年台東地震(M6.9)と4つの被害地震が発生している。

 このたびの台湾東部地震で震度6強を観測した花蓮県では、市街地で多数の建物の損壊被害や、大規模な土砂崩れ・落石などの被害が報告され、死者は少なくとも13人、このうち3人は花蓮県の太魯閣(たろこ)国家公園の観光客で、落石により犠牲になった。

P1 半倒壊した10階建てビルの近くで救助活動を行う救急隊員たち - 台湾東部地震―<br>環太平洋造山帯リスク 目の当りに
台湾・花蓮市宣源路にある半倒壊した10階建てビルの近くで救助活動を行う救急隊員たち(台湾總理府資料よりOfficial Photo by Shufu Liu / Office of the President)。台湾東部・花蓮市周辺を震源とするM7.2(台湾当局による速報値)の大地震は、わが国と同様、環太平洋“造山帯”に位置する台湾での震災として、多くの教訓を示す。この地震はわが国にも津波影響を及ぼしたが、まさに“一衣帯水”――造山運動という地殻変動を共有している
P2 1 新北市に設置された中央災害対策センターで指示する蔡英文総統(台湾總理府資料より) - 台湾東部地震―<br>環太平洋造山帯リスク 目の当りに
蔡英文(さいえいぶん)総統(写真中央)は4月3日午前10時、新北市の中央災害対策センターに到着。被害状況の報告を聞き取り、人命救助最優先を指示(台湾總理府資料より)

 日本の気象庁は9時1分(日本時間)に沖縄県の沖縄本島地方、宮古島・八重山地方に津波警報を発表、同県与那国町久部良で9時18分に、宮古島市平良で10時50分にそれぞれ0.3m、石垣市石垣港で10時42分に0.2mの津波を観測。津波警報は10時40分に津波注意報に切り替えられ、12時に津波注意報は解除された。沖縄県の沿岸に津波警報が発表されたのは、2011年の東北地方太平洋沖地震以来13年ぶりとなった。

P2 2 今回の地震の震央位置、想定される地震の対象領域 - 台湾東部地震―<br>環太平洋造山帯リスク 目の当りに
南西諸島周辺、与那国島周辺で想定されている海溝型地震の対象領域(気象庁資料より)
P2 3 台湾交通部中央気象署(Central Weather Administration)の有感地震リポートより - 台湾東部地震―<br>環太平洋造山帯リスク 目の当りに
台湾交通部中央気象署の有感地震リポート

 台湾における地震対策は、「921大地震」がきっかけで建物耐震化が大きく進展したが、それでも今回の地震で建物の損壊被害やトンネル付近での大規模な土砂崩れ・落石などの被害が発生した。しかし、結果的に家屋倒壊による死傷者が10人程度だったことで、耐震化の実効性も評価されている。また、震源に近い花蓮地域で一部鉄道や道路の損壊が発生したが、国内の各主要空港、港湾、交通機関の平常運行への回復は早かった。

 被災者・避難所対応については、台湾では地震後3時間で避難所が設けられ、冷房完備、温水シャワー、仮設トイレ完備、プライバシーが保たれる個室様式のスペースが提供され、これに対して、能登半島地震でわが国では地震後3カ月を経ても断水地区があり、数千人が避難生活を送っている状況に、被災者支援の課題を指摘する声が多い。

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●プレートテクトニクス―地球儀的俯瞰で災害リスクに備える
 フィリピン海プレート境界上の台湾と日本列島 地震リスク“呉越同舟”
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P2 4 台湾周辺のプレートテクトニクス模式図(Wikipediaより) - 台湾東部地震―<br>環太平洋造山帯リスク 目の当りに
台湾周辺のプレート立体配置図プレートテクトニクス模式図(Wikipediaより)

 台湾と日本はいずれも環太平洋造山帯(地殻変動帯)に位置しており、地震が多い地域だ。その主な理由は、プレートテクトニクス=地球の表面を覆うプレートの動きによる。台湾は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界部分に位置し、フィリピン海プレートは、台湾の東側から沈み込んでいて、これが跳ね上がって地震が起こる。台湾内陸部にも地震を引き起こす「活断層」が多数存在する。

 ちなみに、日本列島には、このフィリピン海プレートとユーラシアプレートに乗っている国土が広くあり、西日本側がほぼ全部この上に乗っている。千葉県、神奈川県沖合から、太平洋沿いの南海トラフ周縁、九州南部、沖縄、南西諸島は、台湾と同じくフィリピン海プレートとユーラシアプレートとの境界に位置している。
 そして、マグナフォッサ地溝帯に、フィリピン海プレート上の島が衝突した部分が伊豆半島であり、その地殻変動を誘因として富士山の火山活動が起きているというのが定説となっている。

 要するに、伊豆半島と台湾は呉越同舟ならぬ、“一衣帯水”の関係にあると言える。台湾東部・東海岸の花蓮から台東にわたって横たわる海岸山脈は、プレートテクトニクスによる“造山運動”でできた山脈であり、その周縁(沖合)で今回の大地震が起こった。

 このたびの台湾東部地震の大きな教訓として、地球儀的な俯瞰で環太平洋造山帯(地殻変動帯)に台湾と日本は乗っかっているという事実(リスク)を、改めて認識すべきことがある。
 ひるがえって、原子力発電の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(「核のゴミ」)の処分地選びをめぐり、地球科学の専門家有志300名余が昨年(2023年)10月30日、「日本に適地はない」とする声明を公表した。地殻変動帯に位置する日本の国土では、廃棄物を10万年にわたって地下に閉じ込められる場所を選ぶのは不可能と指摘し、開かれた検討機関を設置したうえでの処分の抜本的な見直しを求めた。

P3 4 世界の震源分布と主な火山(防災白書より) - 台湾東部地震―<br>環太平洋造山帯リスク 目の当りに
世界の震源分布と主な火山(防災白書より)

 こうした巨視的な見方をすれば、原発の足元に活断層のある・なしが原発新設・再稼働の条件とする議論はあまりにも瑣末に見える。日本列島が地球のプレートの変動・造山運動で盛り上がってできて、いまも足元のプレートが沈み込みを続けているのであれば、日本での原発の存在自体があり得ないことではないか。

P2 5 日本地震学会広報紙『なゐふる』2000年3月号「特集:台湾集集(チーチー)地震」より - 台湾東部地震―<br>環太平洋造山帯リスク 目の当りに
日本地震学会広報紙『なゐふる』2000年3月号「特集:台湾集集(チーチー)地震」より

〈2024. 04. 15. by Bosai Plus

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