COP28の「健康の日」気候変動に健康リスク

近年注目のキーワード
“エマージング・リスク”（浮上するリスク）、
COP28に「健康の日」

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●COP28 議長国UAEの最終合意案採択難航中
　本紙着眼点は、「健康の日」の初設定―気候変動の健康影響とは
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　アラブ首長国連邦（UAE）で開催中の「第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議」（以下、「COP28」）は、議長国UAEが12月11日に公表した最終合意案が、化石燃料の「段階的廃止」から「削減」へと表現が後退したことから、書きぶりを巡って調整が続き、12月13日、会期を延長して交渉が続いている。その結果、13日に、「化石燃料からの脱却」を盛り込んだ最終合意案が公表されたが、同案が採択に十分な支持を得られるかどうかは依然として不明となっている（12月13日現在）。

　COP28で本紙がとくに注目したのは、12月3日に「健康の日（Health Day）」がCOP28に初めて設定されたことだ。気候変動の健康影響について光を当て、各国の環境大臣と保健大臣による議論が行われた。「気候変動と健康リスク」とはなにか――近年“エマージング・リスク（” Emerging Risk）として危機管理分野のキーワードになった新たな危機要因とはなにか、以下、見てみよう。

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●エマージング・リスクとは「人類持続可能性への新たなリスク」
　気候変動が与える健康への影響とは…
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　エマージング・リスクとは、その国際規格ISO31050の定義では――①組織が経験したこともないようなリスク、②新たな、馴染みのない状況におけるリスク、③著しく進化するリスク、④システミック・リスク（連鎖リスク）、⑤上記新興リスクの組み合わせ―例えば新型コロナウイルス感染症、あるいは「生成AI」のような急激なイノベーション、そして国際政治上の地政学的リスクも含まれるが、ここでは、「気候変動」もそのひとつとなる。

P2 1 「The Lancet Countdown on Health and Climate Change：2023 report」（YouTube動画タイトルより） - COP28の「健康の日」<br>気候変動に健康リスク — 「The Lancet Countdown on Health and Climate Change：2023 report」（「気候変動と健康に関するLancet Countdownリポート2023年版」より）。「Lancet Countdown」は気候変動が人類の健康に与える影響をモニターする独立組織の国際協力プロジェクト

　気候変動とは、地球の平均気温や降水量、風向きなどが長期的に変化すること。主な原因は、化石燃料の燃焼などによって排出される温室効果ガスは太陽からの熱を地球の大気中に閉じ込めることで、地球の温度を上昇させる。この温度上昇は、気候システムに様々な影響を及ぼし、自然環境や人間の生活にも深刻な影響を与え得る。

P1 気候変動により想定される影響の概略図（健康分野） - COP28の「健康の日」<br>気候変動に健康リスク — 環境省「気候変動影響評価報告書（総説）」に掲載されている「気候変動と健康リスクについての概略図」より。気候変動は3つの健康リスクをもたらす。第1に、温度上昇によって熱中症や睡眠不足などのリスクが高まる。第2に温暖・熱帯地帯に限られていた感染症が世界的にまん延するリスク。第3に海面上昇や異常気象によって自然災害が起こって生活環境が悪くなり、健康に悪影響を与えるリスク

▼直接的な影響：気候変動によって増加する熱波、洪水、干ばつ、台風、山火事などの自然災害は、人々の命や健康を直接的に脅かす。熱波による熱中症や熱射病、洪水による溺死や感染症、山火事による火傷や呼吸器障害などがその例だ。また、自然災害は、住居やインフラの破壊、食料や水の不足、医療サービスの中断などを引き起こし、健康への間接的な影響ももたらす。

▼間接的な影響：気候変動は、自然環境や生態系にも影響を与える。これによって、感染症の流行や食料の安全保障の危機などの健康リスクが増加する。例えば、気温の上昇や降水量の変化は、蚊やネズミなどの媒介動物や宿主の分布や活動を変えることで、マラリアやデング熱、ライム病などの感染症の発生や拡散に影響を与える。また、気温の上昇や乾燥は、農作物の生育や収穫に悪影響を及ぼし、食料の不足や価格の高騰を引き起こす可能性がある。これは、栄養不良や飢餓などの健康問題を引き起こすだけでなく、社会的な不安や紛争の原因にもなる。

▼長期的な影響：気候変動は、海面上昇や氷河の融解などによって、長期的な地形や地域の変化をもたらす。これによって、沿岸部や低地の住民が強制的に移住する必要が生じる可能性がある。強制移住は、人々の精神的なストレスやトラウマ、社会的な緊張や差別、生活習慣の変化などを引き起こし、健康に悪影響を与える。

P2 2 年次別男女別熱中症死亡数（1972～2020年／提供：国立環境研究所小野雅司氏） - COP28の「健康の日」<br>気候変動に健康リスク — 年次別男女別熱中症死亡数（1972～2020年／提供：国立環境研究所小野雅司氏）

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●「気候変動は人類が直面する最大の健康上の脅威」
　COP28の議論、国際協力の進展に注目を
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　こうした気候変動の健康影響に対処するためには、以下のような対策が必要となる。

○緩和策：気候変動の原因である温室効果ガスの排出を削減することで、気候変動の進行を抑制することが最も重要。化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーの利用を増やすことや、エネルギー効率の高い技術や機器の導入や普及を促進する。緩和策は、気候変動だけでなく、大気汚染や環境破壊などの問題にも対処することができ、健康にとっても多くの利益をもたらす。

○適応策：気候変動に適応する能力を高める。気候変動の影響を予測し、早期警戒や緊急対応のシステムを強化することや、気候変動に強い農作物や住居の開発や普及を促進する。適応策は、気候変動の影響による健康被害を軽減するだけでなく、社会的なレジリエンスや持続可能な発展にも貢献する。

○国際協力：気候変動は、国境を越えて影響を及ぼす地球規模の問題。気候変動と健康に関する科学的な知識や情報の共有や交流、技術や資金の提供や移転、政策や制度の調整や協調などの国際協力が不可欠。国際協力は、気候変動の影響に対処する能力が低い途上国や島嶼国などの脆弱な国や地域の支援にも重要。