「災害時情報通信訓練」にも“厳冬期”のキーワードを
――南海トラフ、首都直下想定+“寒冷の上乗せリスク”
●都道府県医師会等との「情報共有システム活用」を主眼に実施
日本医師会が、災害対策基本法上の「指定公共機関」として、災害時における都道府県医師会等との連携およびJMAT(日本医師会災害医療チーム)による活動の充実を図るためとして、関係機関・団体や事業者の協力のもと、大規模災害を想定した防災訓練(災害時情報通信訓練)を11月16日、釧路で実施した。JMATは、被災者の生命・健康を守り、被災地の公衆衛生を回復し、地域医療の再生を支援することを目的とし、東日本大震災や熊本地震、今年発生した秋田県豪雨の際にも活躍している専門家集団だ。
![日本医師会 北海道での防災訓練、<br>厳冬期は想定外? P4 1 JMAT活動 大規模災害時の活動概念図(日本医師会資料より) - 日本医師会 北海道での防災訓練、<br>厳冬期は想定外?](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/12/P4-1_JMAT%E6%B4%BB%E5%8B%95-%E5%A4%A7%E8%A6%8F%E6%A8%A1%E7%81%BD%E5%AE%B3%E6%99%82%E3%81%AE%E6%B4%BB%E5%8B%95%E6%A6%82%E5%BF%B5%E5%9B%B3%EF%BC%88%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E4%BC%9A%E8%B3%87%E6%96%99%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
![日本医師会 北海道での防災訓練、<br>厳冬期は想定外? P4 2 災害時情報通信訓練の概念図(日本医師会資料より) - 日本医師会 北海道での防災訓練、<br>厳冬期は想定外?](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/12/P4-2_%E7%81%BD%E5%AE%B3%E6%99%82%E6%83%85%E5%A0%B1%E9%80%9A%E4%BF%A1%E8%A8%93%E7%B7%B4%E3%81%AE%E6%A6%82%E5%BF%B5%E5%9B%B3%EF%BC%88%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E4%BC%9A%E8%B3%87%E6%96%99%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
北海道・千島海溝地震を想定した同訓練は、地震やそれに続く大規模な津波などに医師会活動として対応することをめざしたもの。当日は通信衛星をはじめさまざまなハード・ソフトの情報共有手段を用いて、想定被災地の北海道医師会および釧路市医師会、被災地外の都府県医師会・日本医師会によるオンライン会議で実施した。被災状況や支援体制を確認・共有しつつ、全国の各医師会に対し、JMAT派遣要請を行ったほか、JMATを派遣する被災地外の各都府県医師会では、JMAT本部サイトでの派遣チーム登録や、J-SPEED(災害時診療概況報告システム)への入力訓練を実施。
同時に、JAXAの防災インタフェースシステムや、釧路市役所の先進的な防災への取組み、スターリンク、日本医師会医賠責保険医療通訳サービス、そして、J-SPEEDなどに関するプレゼンも行われた。さらに、日本小児神経科学会から、災害時における障害児の受け入れ、特別支援学校の指定福祉避難所としての活用について講演があった。
また、訓練では初の試みとして、避難所に派遣されたJMATの医師が、国籍不明で英語も日本語も話せない外国の患者に対応する訓練を行い、JMAT派遣医師役の日本医師会の役員が電話・ビデオによる医療通訳サービスを用いて患者の母語を特定し、医療通訳者を通して、模擬患者から情報収集と対処を行った。
日本医師会:北海道・釧路での大規模災害を想定した防災訓練を実施
●北海道舞台の大規模訓練に“厳冬期”というキーワードが抜けていないか
日本医師会の今回の大規模災害対応訓練は、とくに日本医師会間の「情報共有」を意識したものだが、釧路(北海道)を舞台の千島海溝地震を想定した大規模災害訓練であれば、“厳冬期”というキーワードが抜けていることが惜しまれる。想定される南海トラフ巨大地震、首都直下地震の被害想定に“寒冷という上乗せリスク”が付加されるのが千島海溝・日本海溝巨大地震であり、その発生の切迫性も指摘されている。
![日本医師会 北海道での防災訓練、<br>厳冬期は想定外? P4 3 冬期にも津波を伴う地震が発生 - 日本医師会 北海道での防災訓練、<br>厳冬期は想定外?](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/12/P4-3_%E5%86%AC%E6%9C%9F%E3%81%AB%E3%82%82%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E3%82%92%E4%BC%B4%E3%81%86%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%81%8C%E7%99%BA%E7%94%9F.jpg)
2021年12月、国は北海道から東北沖の巨大地震の発生に伴う被害想定を公表した。日本海溝・千島海溝の2つの地震によるもので、積雪で避難が遅れる冬の深夜に発生した場合、死者数は最大19万9千人とされ、東日本大震災の被害をはるかに上回る想定だ。
言うまでもなく、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震想定と異なるのは、「低体温症要対処者」や「凍結時における津波による死者」など、厳冬期ならではの発災が想定されている。東北・北海道は、10月下旬には最低気温がひとけたとなり、3月までその寒さが続く。すなわち1年の半分は、災害対策に寒さ対策が必要ということになる。
![日本医師会 北海道での防災訓練、<br>厳冬期は想定外? P4 4 ウォレット社HPより「厳冬期避難所展開・宿泊演習2020に今年も参加」 - 日本医師会 北海道での防災訓練、<br>厳冬期は想定外?](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/12/P4-4_%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E7%A4%BEHP%E3%82%88%E3%82%8A%E3%80%8C%E5%8E%B3%E5%86%AC%E6%9C%9F%E9%81%BF%E9%9B%A3%E6%89%80%E5%B1%95%E9%96%8B%E3%83%BB%E5%AE%BF%E6%B3%8A%E6%BC%94%E7%BF%922020%E3%81%AB%E4%BB%8A%E5%B9%B4%E3%82%82%E5%8F%82%E5%8A%A0%E3%80%8D.jpg)
日本海溝・千島海溝地震について2022年9月に防災対策推進基本計画が見直され、積雪寒冷地の課題への対応など内容が拡充され、道の地域防災計画も修正された。具体的には、冬季に巨大地震や津波が発生した場合に備えて、防寒機能を持つ避難所への2次避難も想定したハザードマップの作成や、緊急輸送道路、避難所へのアクセスの道路の優先的な除雪体制の確保、また厳しい寒さや大雪となった場合の高齢者や障害者など要援護者の安否確認や、除雪支援体制の整備などが盛り込まれている。
「災害時情報通信訓練」が主眼であったとはいえ、日本医師会の北海道を舞台とする今回の大規模災害想定訓練に、“厳冬期”というキーワードが抜けていることは、今後の課題としてもらいたいところではある。
〈2023. 12. 02. by Bosai Plus〉