エスカレーターの乗り方―群衆なだれは想定されているか
地震や火災・爆発などの避難時に、混んだエスカレーターでは
群衆なだれが起こる可能性
![エスカレーターの利用法と最悪想定 P5 1 名古屋市の「エスカレーター安全な利用促進条例」チラシより - エスカレーターの利用法と最悪想定](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/10/P5-1_%E5%90%8D%E5%8F%A4%E5%B1%8B%E5%B8%82%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%81%AA%E5%88%A9%E7%94%A8%E4%BF%83%E9%80%B2%E6%9D%A1%E4%BE%8B%E3%80%8D%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%82%88%E3%82%8A.jpg)
●エスカレーターで「左側に立って右側を空ける」のが“慣習化”(大阪は逆)
名古屋市が「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を制定し、本年10月1日に施行した。エスカレーターの安全な利用の促進を図り、もって市民が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することが目的、とある。
条例の主な内容としては、エスカレーターの利用者は、右側か左側かを問わず、エスカレーターの踏段上に立ち止まって利用しなければならない(義務)、エスカレーターの管理者等は、利用者に対して、立ち止まった状態でエスカレーターを利用するよう周知しなければならない(義務)、としている。
ちなみに埼玉県では2年前に、エスカレーター利用時は立ち止まることを求める条例ができている。
エスカレーターでの事故の事例としては、消費者庁や国民生活センターに、「エスカレーター利用中に転倒などによりけがをした」、「エスカレーターを歩いて上っていたところ、バランスを崩して転倒した」といった事故情報が寄せられているという。
現状、エスカレーターの利用方法として「普段は左側に立ち止まって右側を空け、急いでいる場合などは右側を歩く」という乗り方が慣習化している。ただ、東京から大阪を訪れると軽いカルチャーチョックを感じるように、大阪周辺では一転して右側立ちが主流となる。ある調査(オリコン調べ)によると、全国的には「左側に立って右側を開ける」が57.0%と優勢で、北海道(78.8%)、東北(61.1%)、関東(70.0%)、甲信越北陸(57.7%)、東海(62.3%)、中国(58.3%)、九州・沖縄(65.4%)と大多数の地域で「左立ち」優勢。しかし、大阪を中心とする関西だけは「右立ち」57.7%だったという。
この調査で、例えば「左側立ち」が6割だとして、その他4割の人は左・右関係なく、気の向くままの場所(中央も含めて)で立ち止まって利用しているということだろうか。
![エスカレーターの利用法と最悪想定 P5 2 名古屋市の「エスカレーターの安全利用」に向けたチラシ - エスカレーターの利用法と最悪想定](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/10/P5-2_%E5%90%8D%E5%8F%A4%E5%B1%8B%E5%B8%82%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%80%8D%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%9F%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B7.jpg)
●エスカレーターの踏段歩きは危険……「両側に立つ」に“群衆なだれ”のリスク?
エスカレーターの安全基準は立ち止まって利用することを前提としており、歩いて利用することで、振動や圧力により緊急停止したり、機器の劣化につながるおそれもあるので、「踏段(階段ではなく“踏み段”)歩きはやめて」は理解できる。いっぽう、名古屋市も埼玉県もエスカレーター利用安全条例は「左右両側に立ち止まろう」を推奨しているが、「左右両側立ち」に課題はないのだろうか。
本紙は、あえて、「左右両側立ち」のリスクを指摘しておきたい。“群衆なだれ”のリスクだ。帰社時間帯や大規模イベントではエスカレーターも混みあう。2008年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)での大規模イベントで、上りエスカレーターが逆回転して約50人が転倒、10人が負傷する事故が起きた。会場の混雑で1枚の踏段に3〜4名が載る過積載の状態とエスカレーター整備不良が重なったことが事故主因とされている。
しかし、地震発生時や火災での緊急避難時では、混んだエスカレーターでは利用者同士が衝突や押し合いを起こし、高齢者や子どもはもとより健常者・若者でも転倒や圧死の可能性がある。首都直下地震被害想定でも、帰宅困難者の殺到による群衆なだれでの人的被害発生のリスクは指摘されているところだ。
地震や火災避難など非常事態想定は、「平時(条例)のエスカレーター利用法」にはないのではないか。利用時に前後のスペースを空けるにしても、混雑時に利用者が踏段の両サイドに立つ状況の“息苦しさ(” あえて言えば逃げ口のない閉塞感への不安)を感じるのは本紙記者だけだろうか。「左側に立ち止まって右側を空ける」利用法が慣習化していれば、それはそれで一種の安心感にも通じるところがあるのだが。
![エスカレーターの利用法と最悪想定 P5 3 文京学院大学の「エスカレーター安全利用を推進する」シンポジウムポスターより - エスカレーターの利用法と最悪想定](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2023/10/P5-3_%E6%96%87%E4%BA%AC%E5%AD%A6%E9%99%A2%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%82%92%E6%8E%A8%E9%80%B2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%8D%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%88%E3%82%8A.jpg)
ちなみに「エスカレーター安全啓発活動」に取り組む文京学院大学(東京都文京区)は、啓発活動の今後を話し合う「未来の世代のために:エスカレーター安全利用を推進する」と題したシンポジウムを10月21日に開催する。
文京学院大学:「未来の世代のために:エスカレーター安全利用の推進」シンポ
〈2023. 10. 17. by Bosai Plus〉