関東大震災100年の本年の夏休み、その発災日がわが国の「防災の日」となった9月1日を前に、近刊・2冊の関東大震災関連本を紹介する。それぞれ大震災について、異なる視点からの興味深い分析と教訓が得られるに違いない――
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武村雅之・著
『関東大震災がつくった東京 首都直下地震へどう備えるか』
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武村雅之氏と言えば、地震学者で名古屋大学教授。大正関東地震(関東大震災)の地震波形記録の解析などで知られるが、武村氏を語るときに忘れてならないことは、資料により異なっていた関東大震災の人的被害を再調査し、理科年表の数値を80年ぶりに改訂させたことだ。
関東大震災の被害者数は、従来、震災2年後に当時の東京大学地震学教室の今村明恒が発表した死者9万9331人、行方不明者4万3476人とされていたが、当時、鹿島(建設)小堀研究室に所属していた武村氏と諸井孝文氏は共同研究で、関東大震災資料の再調査研究を続けてきて、その死者・行方不明者数と住家全潰、半潰、焼失数に関する従来の数字が大きく異なり、行方不明者と身元不明の死者が3万~4万人重複している可能性が高いことを突き止めた。
その結果の人的被害の数値・10万5千人が学界でも認められ、様々な分野で引用される理科年表「日本付近の被害地震年代表」の2006年度版が人的被害数を書き変えることになったのである。
関東大震災から100年の本年、武村氏は新たに『関東大震災がつくった東京 首都直下地震へどう備えるか』を著した。同書は関東大震災の実情を地震記録や被災情報など多彩なデータを元に浮き彫りにしたうえで、甚大な被害を出すに至った当時の東京の姿、そして震災復興事業の意義と現在の東京の問題にも課題を提起している。
武村氏の感慨も深いだろうことを想い、まさにいま読まれるべき一冊としてお薦めする。
・ 武村雅之・著 『関東大震災がつくった東京 首都直下地震へどう備えるか』(中公選書)
・定価:1980円 *電子版もある
武村雅之・著『関東大震災がつくった東京 首都直下地震へどう備えるか』
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●新井勝紘・著
『関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』
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関東大震災から99年の昨年(2022年)刊行された新井勝紘・著『関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』は、震災時、東京、関東周辺で軍隊・警察及び自警団によって6000人以上と言われる朝鮮人が虐殺されたとし、その混乱のなかで、この事実を絵筆で克明に描いた画家たちの絵と、新発見の画家・淇谷(きこく)による「関東大震災絵巻」を公開、そこから現代の私たちに問いかけられた課題を提起している。
中央防災会議「災害教訓の継承専門調査会」は、「関東大震災」での人為的殺傷行為の結果として、多数の朝鮮人が虐殺された可能性をとりまとめた。報告書の「関東大震災での朝鮮人虐殺」は「1923 関東大震災(第2編 第4章)『混乱による被害の拡大』」(2008年3月)に掲載され、殺傷事件被害者は「震災による死者数の1~数パーセントにあたり」とした。同震災では10万5千人にのぼる死者が確定されていて、その1%でも1千人にのぼる。
虐殺犠牲者数は、各種調査によって2613余名、2607余名、3459余名、推定5000名、6661名(ないし6644名)などのばらつきがあるが、報告書はそのばらつきの事実をそのまま紹介している。
報告書は、「自然災害がこれほどの規模で人為的な殺傷行為を誘発した例は日本の災害史上、他に確認できず、大規模災害時に発生した最悪の事態として、今後の防災活動においても念頭に置く必要がある」と重い指摘を銘記している。
東京都慰霊協会が催行する関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼式典(墨田区・横網町公園)が1974年以降、9月1日に行われていて、これに毎年、歴代東京都知事が追悼文を送っていた。しかし、小池百合子知事が就任して2年目の2017年から追悼文を送らないとの決定をし、昨年(2022年)も追悼文を送らなかった。その理由は明言されず、「虐殺の犠牲者に対する特別な追悼をやめる」とした。小池知事は虐殺の有無への認識を問われ、「様々な見方があると捉えている」とし「歴史家がひもとくものだ」とも述べている。
都知事は”政治家”であり、各種・各方面への忖度があるやもしれない。ただ、関東大震災100年の本年は特別ではないのか。百歩譲って都知事の追悼文は”慣例化”したとして「なし」として、都庁防災部の「虐殺の認識」について見解はどうだろう。
想定首都直下地震での流言被害対策に「関東大震災での朝鮮人虐殺」を教訓として扱えないという首長への忖度はあり得るだろうか、注目したい。
WEB防災情報新聞:関東大震災から99年 わが国災害史上最悪の教訓
・新井勝紘・著『 関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』(新日本出版社1870円)
新井勝紘・著『関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』
〈2023. 07. 18. by Bosai Plus〉