image 2023年版防災白書〈特集1 関東大震災と日本の災害対策 扉ページより〉 800x350 - 防災白書発行60年を振り返り<br> 関東大震災100年を総括する

1963年の防災白書発行開始から60年、
2023年版防災白書〈特集1〉は「関東大震災100年」…

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●防災白書の“還暦”―初発行(1963年)から60年
 〈特集1〉「関東大震災100年」で 近現代の災害対策を振り返り
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 「2023(令和5)年版防災白書」が去る6月16日、閣議決定・公表された。2023年は、1923(大正12)年関東大震災から100年の節目の年に当たる。白書は、この100年の災害対策の充実・強化の経緯や、わが国を取り巻く様々な環境の変化を俯瞰することは、今後の災害対策の大きな方向性を考えるうえで有意義であるとし、「特集1」とて、「関東大震災と日本の災害対策」をテーマに取り上げている(「特集2」は「2022年度に発生した主な災害について」)。

 ここで、防災白書とはなにか、“おさらい”的に概観してみよう。防災白書とは、政府が防災について行った施策の記録をとり、今後なにを行おうとしているかを国会に報告するための法定報告書で、1959年の伊勢湾台風をきっかけに、防災は政府が組織的・継続的に取り組むべき課題になり、1961年の災害対策基本法の制定時に、その規定に基づいて1963(昭和38)年から防災白書の発行が始まり、本年はその60年目にあたる。

 防災は、災害ごとではなく長期に安定的に対策を策定する必要があり、そのために政府として防災行政を毎年とりまとめて国会に報告することとした。
 防災白書はふたつの使命を帯びている。ひとつは正確な記録を残し、それを国会に報告すること。もうひとつは、その時々の防災行政の課題を示すこと。国民は防災白書を通じて国の災害対策の概要が把握でき、次の防災行動を起こすきっかけとなる情報を得ることができる。ちなみに2004(平成16)年の白書から、政府から国民へ向けた“防災キャッチフレーズ(” メッセージ)が打ち出されるようになり、2010(平成22)年にはそれが「特集」として独立した。しかし2011(平成23)年の東日本大震災発災を見て、それ以降、「特集」の構成は残したものの、キャッチフレーズは消えている。

 参考まで、2010年版までの“防災メッセージ”を順に並べてみよう。
・2004(平成16)年版: 新たな防災行政の視点
・2005(平成17)年版: 迫りくる巨大地震と『備え』を実践する国民運動の展開へ
・2006(平成18)年版: 災害から命と暮らしを守る〜足元から始める国民運動の継続
・2007(平成19)年版: 災害リスク認識を高め、多様な主体の行動により被害の軽減へ
・2008(平成20)年版: 災害に対する関心の高まりを『自助』『共助』につなげる
・2009(平成21)年版: 変化する災害リスクを正しく認識し、災害被害を軽減へ
・2010(平成22)年版:『 新しい公共』の力を活かした防災力の向上
 (コラムで「防災士」を初めて紹介)
・2011(平成23)年版: 東日本大震災
・2012(平成24)年版: 東日本大震災と災害対策
・2013(平成25)年版: 指標等からみる防災対策
・2014(平成26)年版: 地域防災力の強化
・2015(平成27)年版: 国連防災世界会議
・2016(平成28)年版: 未来の防災
・2017(平成29)年版: 熊本地震を踏まえた防災体制の見直し
・2018(平成30)年版: 気象災害の脅威〜九州北部豪雨災害等を中心に〜
・2019(令和元)年版: 連続する災害〜防災意識社会の構築に向けて〜
・2020(令和2)年版: 激甚化・頻発化する豪雨災害
・2021(令和3)年版: 新型コロナウイルス感染症の影響下における災害対策
・2022(令和4)年版: 大規模災害から命を守るために

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●災害教訓の“ショーケース”としての関東大震災
 次なるリスクと備え―人口大都市集中・高齢化、国際化化に伴う外国人増加
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 2023(令和5)年版防災白書で〈特集1〉として取り上げられた関東大震災は、1923(大正12)年9月1日に発生したマグニチュード(M)7.9の巨大地震で、死者・行方不明者約10万5千人、被災者約200万人、被災家屋約50万戸に及ぶ大災害だった。関東一円での地震による倒壊や火災、土砂崩れ、津波発生だけではなく、風評や偏見による虐殺や暴動も発生した。政府は、応急対策として救護所や炊き出しを設置し、治安維持や復旧工事を行い、復興に向けては、関東大震災復興院を設置し、都市計画や防火対策などを盛り込んだ復興計画を策定したが、復興計画の実現には多くの困難が伴った。

P2 1 関東大震災の震度分布と住家全壊率(2023年版防災白書より) - 防災白書発行60年を振り返り<br> 関東大震災100年を総括する
関東大震災の震度分布と住家全壊率(2023年版防災白書より)
P2 2 関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災の被害状況等の比較(2023年版防災白書より) - 防災白書発行60年を振り返り<br> 関東大震災100年を総括する
関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災の被害状況等の比較(2023年版防災白書より)
P2 3 東京市における震災直後の主な避難場所と避難人口(2023年版防災白書より) - 防災白書発行60年を振り返り<br> 関東大震災100年を総括する
東京市における震災直後の主な避難場所と避難人口(2023年版防災白書より)
P2 4 神奈川県庁と税関焼失の光景(横浜開港資料館蔵) - 防災白書発行60年を振り返り<br> 関東大震災100年を総括する
関東大震災では横浜市も壊滅的な打撃を受け、犠牲者数も推定2万6623人にのぼった。記録として残された写真・絵葉書類は飛ぶように売れたが、過剰な演出がなされて加工が加えられた写真も多いという。上写真は横浜市の神奈川県庁と税関「焼失の光景」の絵葉書だが、炎を書き加えた上で着色したもので、下の元の写真が加工されたという(横浜開港資料館HPより)

 関東大震災はわが国の近代から現代にかけての災害史において特筆すべき災害であり、今日に至るわが国の災害対策の出発点とも言える大災禍だった。その発生日である9月1日は閣議了解により「防災の日」と定められ、当日とその前後の「防災週間」(8月30日から9月5日)の期間を中心に、政府の総合防災訓練をはじめとする防災訓練や各種啓発行事等が毎年各地で行われる。

 なお、2023(令和5)年版防災白書は、わが国を取り巻く環境の変化と課題についても分析、自然災害の激甚化・頻発化や対策としての防災・減災インフラの整備などをあげている。また、人口の大都市集中と高齢化、そしてグローバル化に伴う外国人の増加、情報発信の多言語化や防災におけるデジタル技術の活用などを指摘。首都直下地震など切迫する大規模地震への対策や気候変動に対応した風水害対策などの推進とともに、国土強靱化や被災者支援体制の充実などを図る必要があるとしている。

内閣府(防災情報のページ):防災白書

〈2023. 07. 01. by Bosai Plus

コメントを残す