image 東京電力報告書より「福島第一原子力発電所に襲来した津波の状況(5、6号機海沿い/固体廃棄物貯蔵所東側)」 - 原発事故で国 免責<br>⇒ 災害検証を考える

旧原子力安全・保安院の広報(当時)では、
何年も自宅に戻れない原発事故は想定外

福島原発事故発災から1カ月半後の保安院HPに、”安全神話の残影”
―「国は原発事故レベル7」をこそ想定外としていた!

【「 津波は想定を超えた―防潮堤があっても事故は防げなかった」(?) 】

 東京電力福島第1原発事故の避難者らが国と東電に損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁第2小法廷は去る6月17日、初めて国の責任を認めない判決を言い渡した。「現実の地震・津波は想定よりはるかに大規模で、防潮堤を設置させても事故は防げなかった」と判断したもので、裁判官4人のうち3人の多数意見。1人は国の責任を認める反対意見を述べた。

 同種の訴訟は全国で約30件あり、今回の判決は福島、千葉、群馬、愛媛の4訴訟について最高裁が統一判断を示したもの。国が巨大津波による事故を予見し、対策を講じていれば防げたか――事故から11年、訴訟はこの判決で大きな節目を迎えたとされる。
 賠償総額は4件で計約14億5000万円。原発政策は「国策民営」で進められてきたが、東電の賠償責任は本年3月に確定していて、国の責任を認めなかったことで、賠償義務はこれまでどおり東電だけが負う。

 今回の最高裁の判断は、同種の集団訴訟や7月に判決を控える株主代表訴訟、旧経営陣の刑事責任を問う強制起訴控訴審などにも影響を与える(国の責任は否定されていく)ものとみられている。

BJS 東京電力報告書より「福島第一原子力発電所に襲来した津波の状況(5、6号機海沿い/固体廃棄物貯蔵所東側)」 - 原発事故で国 免責<br>⇒ 災害検証を考える
東京電力報告書より「福島第一原子力発電所に襲来した津波の状況(5、6号機海沿い/固体廃棄物貯蔵所東側)」

●「『想定外』で、すべての想定がなかったことにはならない」

 本記事はこの最高裁判断の是非を論じるものではない。サブタイトルに付した「災害検証を考える」が主題だ。とは言え、災害犠牲者ゼロをめざす本紙としては、この原発事故の責任について判決への反対意見を述べた1裁判官の主張を、共感をもって銘記しておかなければならない。すなわち――
 「『想定外』という言葉によって、すべての想定がなかったことにはならない。長期評価を前提とする事態に即応し、保安院や東電が法令に従って真摯な検討をしていれば、事故を回避できた可能性が高い。地震や津波の規模にとらわれて、問題を見失ってはならない」、「国の規制権限は『原発事故が万が一にも起こらないようにするために行使されるべきもの』だ。信頼性が担保された長期評価を元に事故は予見でき、浸水対策も講じさせれば事故は防げた。国は東電と連帯して賠償義務を負うべき」――

P1 復興庁資料より「福島県外避難者に係る所在確認結果」(2022年6月14日公表より、一部トリミング) - 原発事故で国 免責<br>⇒ 災害検証を考える
上表は復興庁資料より「福島県外避難者に係る所在確認結果」(2022年6月14日公表より、一部トリミング加工)。東京電力福島第1原発事故の避難者が起こした集団訴訟で、去る6月17日、最高裁は国の賠償責任を否定した。原発事故(東日本大震災)から11年余、被災者の生活再建は依然として大きな課題となっている。原発の「国策民営」方式には、常に責任の所在の曖昧さがつきまとう。原発から出る「核のゴミ」処理、今後も起こり得る事故への想像力……まさに、地殻変動帯上のわが国の原発稼働は、国運を賭けた根源的な難しさを抱えていると言える。(画像クリックで情報源へリンク)
P2 1 「避難所生活者の推移(東日本大震災、阪神・淡路大震災及び中越地震の比較)」(復興庁資料) - 原発事故で国 免責<br>⇒ 災害検証を考える
「避難所生活者の推移(東日本大震災、阪神・淡路大震災及び中越地震の比較)」(復興庁資料)(画像クリックで情報源へリンク)
P2 2 避難指示区域の概念図(福島県「福島復興ステーション」HPより) - 原発事故で国 免責<br>⇒ 災害検証を考える
避難指示区域の概念図(福島県「福島復興ステーション」HPより)(画像クリックで情報源へリンク)

 本紙・提携紙である防災ニュースレター「防災プラス」は東日本大震災発災から1カ月半後に発行した2011年5月1日号(No. 17)「正しく恐れる。原発災害と向き合う」の記事内で、次のように指摘した――

 ――原子力安全・保安院ホームページにいまもある「原子力災害発生時の住民としての対応」の冒頭はこうだ。「実際には、多重の防護設備や万一の事故時における教育を十分に受けた運転員等の的確な対応などにより、そのような事態(*編集部注:国際原子力事象評価尺度(INES)の「レベル7=深刻な事故、放射性物質の重大な外部放出、原子炉や放射性物質障壁が壊滅、再建不能」)に至ることはほとんど考えられません。万々が一、事故が発生して、放射性物質が放出されるような事態になったと想定した場合でも、住民の皆さんの健康に影響を与え得るほどの量が放出されるまでにはかなりの時間があります」。
 そして「避難措置が出された場合の注意事項」には、「避難場所は地域ごとに決まっていますので、テレビ・ラジオ・防災行政無線等の指示に注意し、事前に確認しておくことが重要です」にとどまる。
 「レベル7」の想定、それこそ何カ月(何年?)にわたって自宅に戻れないケースはまったく想定にない。――

《Bosai Plus》2011年5月1日号(No. 017):原発災害と向き合う

P2 3 旧・原子力安全・保安院による「原子力の安全・防災対策」(パンフレット/2005年1月発行)より - 原発事故で国 免責<br>⇒ 災害検証を考える
旧・原子力安全・保安院による「原子力の安全・防災対策」(パンフレット/2005年1月発行)より

●NZの「ACC(無過失補償)」 訴訟なし、究極の被災者救済システム

 前段の福島原発事故訴訟はもとより、東日本大震災では津波訴訟など幾例も訴訟が起こされた――もちろん直近でも、静岡県熱海市の大規模土石流災害(2021年7月3日)、北海道斜里町の観光船「KAZU 1(カズワン)」海難事故(本年4月23日)など、災害・事故犠牲者の発生に係るその原因、責任の所在追及、あるいは再発防止(防災)に向けた”訴訟・検証”の事案はいとまもない。
 訴訟はわが国の被災者にとって、災害・事故の実相・事実関係、背景、責任の所在を明らかにする唯一の手段だからだ。しかし、訴訟には膨大なコストと労力を要し、また、防災や事故の再発防止という観点からは、責任追及で必ずしも事実が明らかになるとは限らない。わが国では”免責”の仕組みが整備されておらず、責任を問われる側の事実関係の解明・情報開示への及び腰が指摘される所以(ゆえん)ともなる。

 そこであくまで参考事例だが、ニュージーランド(NZ)で1974年に制度化された「無過失補償=ACC (Accident Compensation Corporation)」を取り上げたい。同国ではこの制度によって、国内の災害・事故による死亡・傷害を、加害者の存在の有無に関わらず、補償する。これにより、NZ国内で受けた災害や事故での被災(外国人も含めて)に対し、治療費や補償金が支払われていて、国民生活に欠かせないというのだ。

P2 4 ACCのロゴ「Te Kaporeihana Awhina Hunga Whara」 - 原発事故で国 免責<br>⇒ 災害検証を考える
ACCのロゴ。マウリ語で事故補償公社を意味する「Te Kaporeihana Āwhina Hunga Whara」とある

 この制度では、無過失補償の理念にのっとり、補償を受ける災害・事故の被害者は傷害・損害に対する賠償責任を問う訴訟を起こすことは禁じられる。例えば、東日本大震災発災の直前、2011年2月のNZ・カンタベリー地震(死者185人)でクライストチャーチ市のビルが倒壊、その死者115人には28人の日本人も含まれていたが、ACCが適用されたことで訴訟は起こされることはなく、犠牲となった日本人にも補償が行われた。
 そしてこれとは別に「カンタベリー地震・建築物崩壊に関する王立事故調査委員会」が設置され、原因究明と再発防止を目的とした検証が行われている。

 ACCは、訴訟制度の時間的・経済的コストを大幅に削減し、原因・責任追及よりも被災者の早期救済を図る制度で、世界で最も徹底した”究極のノーフォルト(無過失)制度”とされる。わが国でその理念と制度導入の可能性はないのだろうか。

ヤスミン・バタチャリヤ:ニュージーランドにおける災害に伴う補償と検証

〈2022. 07. 07. by Bosai Plus

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