P6 2 2014年8月豪雨による広島市の土砂災害(国土地理院資料より) - 釜井俊孝教授の『宅地の防災学<br>ー都市と斜面の近現代ー』

人が暮らす場ではない谷や丘陵がいかにして宅地化されたか

P6 1 釜井俊孝・著「宅地の防災学 ー都市と斜面の近現代ー」(京都大学学術出版会刊) - 釜井俊孝教授の『宅地の防災学<br>ー都市と斜面の近現代ー』
釜井俊孝・著「宅地の防災学−都市と斜面の近現代−」(京都大学学術出版会刊)

 わが国では、山を背後に抱えた狭い平地が多くの人びとの暮らしの場となっており、特に都市部では山を切り開いて宅地が開発され、がけのすぐそばや谷の出口にまで住宅地が形成されている例が少なくない。このことが、わが国で土砂災害が多い大きな要因となっていて、しかも土砂災害のおそれのある箇所は増え続けている。
 そして、わが国の歴史には、水害や地震による「土地崩壊」と「人びとの営為」との、絶え間ない葛藤=防災の試行錯誤が埋め込まれている。現代の私たちが日常的に親しむ里山や都市の風景には、自然と日本人のせめぎ合いの歴史が反映されてもいるのだ。

 釜井俊孝・京都大学防災研究所教授は、こうした日本の国土と歴史を俯瞰し、「都市づくりと土砂災害の関係史をたどることこそが防災の基礎になる」と説き、『宅地の防災学 −都市と斜面の近現代−』(2020年04月。京都大学学術出版会 学術選書。定価:税込み 2200円)を上梓した。同書は、現代の私たちは自然の猛威に翻弄されているが、それは“人災”の脅威でもあるとし、「谷埋め盛土の緩い地盤、豪雨とともに頻発する地すべり――人の営みで変化した土地がいま牙を剥いている」とする。

 江戸から平成までの全国の災害地域史を追うことで、宅地のどこに地すべりの危険が潜んでいるのか、どのようにして斜面災害の芽は生み出されるのか。その考察は、近代以前の新地開発・江戸の都市計画(と斜面災害)に始まり、明治維新による地租改正以降の土地私有のあり方から近代的な宅地開発、戦後のGHQによる占領政策、そして高度経済成長期からバブル崩壊に至るなかで、人が暮らす場ではなかった谷や台地、丘陵が埋め立てられ宅地化されていく歴史を追う。

釜井俊孝:『宅地の防災学 ー都市と斜面の近現代ー』

●釜井教授の『宅地の未災学』――「財布に響く対策」で土砂災害対策を

 いっぽう釜井俊孝教授は『宅地の未災学』という初出用語も提唱している(日本建築総合試験所機関誌GBRC・4月号)。『未災学』とは、「確実に危険とまでは言えないが、安全であると太鼓判を押すこともできない地域(未災の場=土地)」の安全性を議論する学問」と定義。釜井教授は、地盤災害(宅地崩壊)の立場から見れば、世の中は「未災の場」だらけで、安全な土地にしていくには「財布に響く対策」が必要だとし、その一つの方法は「固定資産税の軽減」と「災害リスク税の創設」のセットだとする。

 例えば、固定資産税の算定根拠となる路線価は、自治体から委嘱された不動産鑑定士が更新するが、不動産鑑定士は地学の専門家ではないので、算定の際、宅地のリスクはほとんど考慮されない。しかし、土石流扇状地や谷埋め盛土、腹付盛土などの『未災の場』の価値は、安全な土地よりも相当低くあるべきで、こうした『未災の場』の固定資産税は路線価もしくは税率を下げて大幅に軽減する。

 いっぽう、『未災の場』は、将来、災害が起こって行政の負担となる可能性があるので、「災害リスク税」を創設し、その宅地所有者から徴収する。これは、将来の行政サービスの前払いであり、かつ被災リスクを認識してもらう。また、不動産業界などからの「宅地防災基金」と盛土造成地の住民による盛土造成地を健全に維持するための「宅地防災組合」を創設し、管理・修繕を請け負うことにするというもの。

P6 2 2014年8月豪雨による広島市の土砂災害(国土地理院資料より) - 釜井俊孝教授の『宅地の防災学<br>ー都市と斜面の近現代ー』
2014年8月豪雨による広島市の土砂災害(国土地理院資料より)

 釜井俊孝教授の著書にはほかに、『埋もれた都の防災学—都市と地盤災害の2000年』(京都大学学術出版会、2016年)、『宅地崩壊—なぜ都市で土砂災害が起こるのか』(NHK出版、2019年)などがあり、注目される“防災地学”の論客である。

〈2022. 06. 01. by Bosai Plus

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