津波避難「早く、遠く、高くが大原則」への想像力を
“究極の避難場所”「津波避難施設」の活用法
「津波避難タワー」「津波避難ビル」とは、津波浸水が想定される地域において、地震発生時に住民が一時的、または緊急に避難・退避するための人工施設を言う。これら施設の整備は、内閣府が2005年に策定した「津波避難ビル等に係るガイドライン」に沿って進められ、2011年の東日本大震災の発生を受け、「津波防災地域づくりに関する法律」によって津波防災対策が制度化され、現在に至っている。
津波避難施設は、2021年4月時点の内閣府集計によると、「津波避難タワー」は23都道府県で502棟と東日本大震災前の11倍、「津波避難ビル」は37都道府県で1万5304棟が登録され、震災前の8倍に増えている。
津波避難施設は、海岸線を有する市区町村と、海岸線を有しないが津波の遡上で被害が想定される市区町村に設置され、とくに南海トラフ地震防災対策推進地域(南海トラフ地震により震度6弱以上が想定、または高さ3m以上の津波が想定される海岸堤防が低い地域)の占める割合が大きい。
「津波避難タワー」の場合、建設費は、国が2分の1を自治体に補助するが、それでも自治体負担は億単位にのぼることから、整備が進まないところも少なくない。2014年に南海トラフ巨大地震の被害想定地域で補助率が3分の2に上がって整備が加速、最多は静岡県の139棟、次いで高知県の115棟となっている。
いっぽう、国の補助が2分の1の地域では建設費用が課題で、千島海溝地震で最大波高23mの津波想定の北海道浜中町では、タワーの必要性は高いが、自己負担分の捻出がむずかしいという。岩手県久慈市は、復興交付金約2億円で高さ約9mのタワーを建てたが、国の日本海溝地震想定で津波は最大16mとされ、改めて対策を検討中だ。
●津波避難施設 いろいろ――「タワー」、「ビル」、歩道、高速道路も……
「津波避難タワー」は緊急時にすぐに利用可の必要があるが、治安上、常時開放がむずかしいことから、非常時に容易に壊せる素材でできたドアの施設がある。また、震度5以上の揺れを感知すると自動解錠される鍵の保管ボックスを設置したり、施設の扉自体に自動解錠機能を持たせ「震度5以上の揺れ」や、「緊急地震速報の発表」「大津波警報・津波警報の発表」などの条件下で施設運用開始が可能な施設もある。
いっぽう、浸水状態が続き、一定時間(日数)避難タワーで孤立することもあり得ることから必要最低限の備蓄を整備したり、ガス発電機での電源を確保するケースもある。
また、歩道橋タイプの津波避難タワーは、平常時は横断歩道橋として利用、非常時は津波避難施設として、相互に効用を兼ねる。静岡県吉田町の例では、歩道橋上部に収容人数1200名程度を想定した避難スペースを設けている。
国土交通省は「防災・減災、国土強靭化5か年加速化対策」の一環として、高速道路や国道の高台655カ所を津波や洪水時の緊急避難場所に整備・活用する方針だ。
津波避難ビルでは、非常時以外の用途を兼ね備えていることが多く、行政との協定で設置費用を節約することも可能だ。立体駐車場を津波避難ビルとする例もある。
●リアリティチェック――津波避難は「早く、遠く、高くが大原則」
非常時に津波避難施設に向かうべきか否か、その判断のために、平時のいまこそ津波ハザードマップをチェックして、自分のいる場所(自宅など)と津波避難施設、そして海岸線の位置関係を確認し、さらに、緊急避難への“想像力”を駆使したい。
――自分がいる場所より、津波避難施設が海岸寄りに立地するとき、あえて施設をめざすか、海岸を背にして避難すべきか/自分がいる場所から避難施設に向かうときに、海岸線と平行に移動するとしたら、そこは避難先として適切か/津波避難施設の定員を超過する避難者が押し寄せる可能性はないか、そのときあふれた自分はどうするか――
想像力と地域の避難訓練が重要だ。津波避難施設は、緊急時は「一人でも多く助かる」ための“究極の避難場所”となるだけに、そのときこそ、冷静な判断が求められる。
内閣府(防災担当):津波避難ビル及び津波避難タワー等の整備数(2021年4月時点)
〈2022. 04. 19. by Bosai Plus〉