平時〜災害時〜被災地支援 包括協力に向かう防災士活動
事前防災としての「災害時応援協定」、
社会的信認性を獲得した防災士のさらなる参入
【 災害時応援協定のおさらい 防災士の協力協定も事例に… 】
● 大規模災害の“事前防災”としての「災害時応援協定」
「災害時応援協定」という言葉をよく聞く。一般的には、阪神・淡路大震災や東日本大震災大規模災害のような大規模な災害が発生したとき、いわゆる「公助」による対応には限界があることから、自治体が被災自治体となることを事前に想定して、物資の供給、医療救護活動、緊急輸送活動などの各種応急復旧活動について、民間事業者や関係機関・団体との間で応援協定を締結し、応急復旧活動にあたろうというものだ。
![「災害時応援協定」と防災士 P2 1 市区町村の民間機関等との応援協定等の締結状況(2021年版防災白書より) - 「災害時応援協定」と防災士](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2021/09/P2-1_%E5%B8%82%E5%8C%BA%E7%94%BA%E6%9D%91%E3%81%AE%E6%B0%91%E9%96%93%E6%A9%9F%E9%96%A2%E7%AD%89%E3%81%A8%E3%81%AE%E5%BF%9C%E6%8F%B4%E5%8D%94%E5%AE%9A%E7%AD%89%E3%81%AE%E7%B7%A0%E7%B5%90%E7%8A%B6%E6%B3%81%EF%BC%882021%E5%B9%B4%E7%89%88%E9%98%B2%E7%81%BD%E7%99%BD%E6%9B%B8%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
応援協定は自治体間でも広域的な相互応援協定のかたちで全国的に締結が進んでいる。これとはやや趣を異にするのがいわゆる「カウンターパート方式」で、東日本大震災で関西広域連合がこれを実践し、高く評価された。これは被災自治体それぞれに対してペアとなる自治体を決め(カウンターパート)、その自治体が責任をもって継続的に担当の被災自治体への支援を行うという方式で、具体的には、関西広域連合構成府県のうち大阪府と和歌山県は岩手県を、兵庫・徳島・鳥取県は宮城県を、滋賀県と京都府は福島県をそれぞれ担当して継続的な支援を行った。
もちろん応援協定の当事者の組み合わせは自治体と民間事業者・関係機関に限らず、例えば都道府県間、大都市間、姉妹都市関係にある市区町村同士もある。そしてそれぞれ、「受援計画」(応援の受け入れを前提とした人的・物的支援の受入れ体制を地域防災計画等に位置づけ)の策定も進められるようになっている。ただ、応援協定を締結した当事者も被災し得ることから、協定の実効性の検証や拡充も課題となる。
応援協定は、自治体が民間事業者とのあいだで結ぶものとしては例えば、物資供給では食品業者、建設・土木業者ほか、緊急輸送ではトラック業界、避難・帰宅困難では大規模小売業、ガソリンスタンドほか多種・多様だ。ちなみに災害情報の収集・連絡体制関連では、無人航空機(ドローン)利用や地図情報支援に関する協定が最新技術、デジタル技術を活用して増えている。
![「災害時応援協定」と防災士 P2 2 自主防災組織の推移(2021年版防災白書より) - 「災害時応援協定」と防災士](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2021/09/P2-2_%E8%87%AA%E4%B8%BB%E9%98%B2%E7%81%BD%E7%B5%84%E7%B9%94%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%A7%BB%EF%BC%882021%E5%B9%B4%E7%89%88%E9%98%B2%E7%81%BD%E7%99%BD%E6%9B%B8%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
また、「包括的連携」というカテゴリもあって、これは災害時に限らず平時も市民生活に役立つ連携をめざすもので、大学などとも連携するケースが増えている。自治体との協定締結により、自治体は報道機関を通じて住民に向けて広報するので、民間業者はCSR(企業の社会的責任)の一環として企業イメージの向上につなげられるメリットがある。
また協定の実施にあたっての費用負担については、応援者負担、受援者負担、双方協議のうえ負担割合を決定するなど、それぞれ協定書に明記されることが多い。なお、「応援協定」研究はいま途上にあるようだが、その参考資料として下記をあげておく。
寅屋敷哲也:民間企業における自治体との災害時応援協定の締結実態
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災害時協力協定でプレゼンス高まる――日本防災士会
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●防災士 自治体をはじめ、NHK、「Yahoo! 防災速報」などと応援協定
防災士制度を推進する日本防災士機構によれば、防災士資格取得者は全国で21万3千人(累計、2021年8月末現在)を数える。その防災士養成の研修を実施する自治体は32府県、市区町村は65にのぼっていて、国立大学などを含む教育機関も35校となっている(2021年8月現在)。
防災士の資格を有する有志が組織する「NPO法人日本防災士会」(会員数約1万人)では、各地の会員が日本防災士会「支部」を結成し、地域貢献活動を進めている。日本防災士会は国が推進する「地区防災計画」策定への参画を地域活動の重要課題として位置づけ、その推進に当たっては、県・市町村と緊密に連携しており、自治体・市区町村との防災協力協定を結ぶ事例が右肩上がりで増えている。
それというのも、そもそも自治体が防災士養成機関となって防災士を輩出していることを背景に、各地の自主防災組織のレベルアップにつながるという自治体にとっても政策効果が大きいからだ。
こうした社会の信認性の高まりを背景に、日本防災士会の各地支部ではNHK(日本放送協会)の各地方放送局との連携も積極的に進めており、情報提供などの協力協定締結は46道府県に及んでいる(2021年4月現在)。
これは防災士がもともと日常活動で地域防災に尽力していて地域のリスクやコミュニティを熟知していることから、非常時に防災・減災に向けた情報提供が期待できるからにほかならない。
![「災害時応援協定」と防災士 P2 3 日本防災士会県支部とNHKとの協定締結状況 - 「災害時応援協定」と防災士](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2021/09/P2-3_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%98%B2%E7%81%BD%E5%A3%AB%E4%BC%9A%E7%9C%8C%E6%94%AF%E9%83%A8%E3%81%A8NHK%E3%81%A8%E3%81%AE%E5%8D%94%E5%AE%9A%E7%B7%A0%E7%B5%90%E7%8A%B6%E6%B3%81.jpg)
また、日本防災士会は先ごろ、ヤフー株式会社の「Yahoo! 防災速報」と防災協定を締結した。これによりヤフーの防災通知アプリ「Yahoo! 防災速報」の利用者は、「災害マップ」で防災士による危険箇所の投稿情報が見られ、防災士がプロの視点で投稿する危険箇所を参考に、避難時にとるべき行動に役立てることができる。
Yahoo! 防災速報アプリ「災害マップ」:防災士による“危険箇所”の投稿受付開始
![「災害時応援協定」と防災士 P1 防災士による危険箇所投稿のイメージ(ヤフー広報資料より) - 「災害時応援協定」と防災士](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2021/09/P1_%E9%98%B2%E7%81%BD%E5%A3%AB%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%8D%B1%E9%99%BA%E7%AE%87%E6%89%80%E6%8A%95%E7%A8%BF%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8%EF%BC%88%E3%83%A4%E3%83%95%E3%83%BC%E5%BA%83%E5%A0%B1%E8%B3%87%E6%96%99%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
防災士は、平時は地域の自主防災力向上のために啓発活動に従事し、災害時は被災者の避難誘導や避難所運営、復旧復興支援などを通じて社会貢献を果たすという“志”に立つ。「公助」と共助し、“新しい公共”の創出という大義に向かって歩みを進めている。
〈2021. 09. 16. by Bosai Plus〉