直近7日間の世界の大雨(NOAA資料より)

わが国でも、世界でも、浸水エリアに住む人が増えている
――世界で約3億人、気候変動で加速か
――「備えに投資すべき」

● 世界的に「洪水発生地域に住む人口比率は高まりつつある」

 本紙はこれまで、山梨大学の秦(はだ)康範・准教授(地域防災)が2018年10月に日本災害情報学会で発表した調査研究結果「全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内人口の推移」を何度か取り上げてきた。
 秦氏の調査研究は、災害リスクの高い地域として浸水想定区域内の人口に着目したもので、その推移について社会的な背景とともに考察。国や都道府県が指定した全国の河川の洪水による浸水想定区域に住んでいる人は、2015年時点で約3540万人にのぼり、20年前の1995年と比べて4.4%増えていること、また、世帯数では約1530万世帯で、24.9%と大幅に増えたことを明らかにした。

P3 1 全国の浸水想定区域内世帯数の推移(秦康範・山梨大学准教授資料より) - 世界も災害リスクエリアに人口集中
全国の浸水想定区域内世帯数の推移(秦康範・山梨大学准教授資料より)

 秦氏は、区域内人口が減少している地域を含めて、郊外を中心に浸水想定区域の人口や世帯が増えたと指摘。要因を「浸水リスクの高い地域の宅地化」とし、「災害リスク地域に住んでいる住民の啓発、人口減少社会にあった災害リスクを踏まえた土地利用を推進する必要がある」とした。
 こうした動向を背景に、激甚化する風水害対策として国は「流域治水」の方針を新たに打ち出し、住宅地での水害リスクの情報共有や移転促進などを対策の目玉としている。

秦康範:全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内人口の推移

●増加率が高いのは、サハラ砂漠以南のアフリカと南アジア

 米国の科学誌「NATURE」は8月4日付けで、アリゾナ大学の研究者らが作成した2000年から2018年に世界で発生した900件の洪水被害の衛星による分布地図を掲載、気候変動や都市化で洪水の発生頻度が高まり、被害の深刻化が進んでいるにもかかわらず、洪水発生地域に住む人口比率は高まりつつあるとした。被災者総数は2億5500万人から2億9000万人にのぼるため、早急に対策を練るべきと警告している。

P3 2 1985~2010年の「洪水発生履歴図」(Dartmouth Flood Observatoryより) - 世界も災害リスクエリアに人口集中
1985~2010年の「洪水発生履歴図」(Dartmouth Flood Observatoryより)
P3 3 直近7日間の世界の大雨(NOAA資料より) - 世界も災害リスクエリアに人口集中
直近7日間の世界の大雨情報(NOAA資料より)。日本上空では停滞する前線により線状降水帯が発生している

 衛星で観測された浸水場所の総人口は、2000年から2015年にかけて5800万から8600万人増加したと推定。とくに増加率が高いのは、サハラ砂漠以南のアフリカと南アジア。また、洪水にさらされた世界の人口の割合が20〜24%増加し、それ以前の10倍になるとし、2030年の気候変動予測では、洪水にさらされる人口の割合がさらに増加するとする。
 同研究の主宰者は「洪水に対処する最善の対策は、洪水が来る数週間前、数カ月前、時として数年前に実行すべきもの。備えに投資すべき」と語っている。

NATURE:Satellite imaging reveals increased proportion of population exposed to
floods(英文サイト)

〈2021. 08. 15. by Bosai Plus

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