在宅避難の「情報弱者」には情報が行き届かない
 「紙」ベースでの情報提供も有効と心得るべし

●「情報弱者」が存在し、同時に「災害弱者」も存在することを直視

 季節はこれから出水期を迎える。防災においては再び、災害の季節を迎えることになる。
「災害犠牲者ゼロ」をめざす本紙として、コロナ禍のさなか、気象情報の大雨予報ごとに、また地震が起こるごとに緊張感にとらわれる思いだが、単に災害の発生、災害からの被災を恐れるだけではない。人の命がかかわる防災情報においては、自然ハザードから身をかわすこと、避難も重要なテーマであり、本紙にとっては、防災情報をいかにして得るか、どのように発信するかも大きなテーマとなる。

 近年は、IT、デジタル化の急速な進展で防災も「DX化」が急だ。本紙もできるだけその動向を追うことに努めている。しかし、いったん目を転じて、いわゆる「情報弱者」の存在という視点で防災情報DX化を概観すると、「情報弱者=災害弱者」が浮上する。パソコンやスマホを持たない・使えない高齢者や、在宅介護を受ける人たちは、文字どおり「災害弱者」だと言って間違いではないだろう。ここで、あえて「災害弱者」という用語を使うのは、情報弱者の用語の“対”の用語として際立つからだ。

 「災害弱者」という用語は現在、防災行政上は使われていないが、その背景としては、災害に弱い特定の人が存在するかのように固定概念で受けとめられ、差別につながるおそれがあるから、また災害に弱い人でも自ら防災意識を高める意欲を持つことで、“弱者”を脱することも可能だから、ともされる。ちなみに、NHKなどでの「放送用語」をめぐる議論では、「”弱者”は相手の存在を弱い者として決めつけてしまう表現」で抵抗感があり、いっぽう、行政用語の「要援護者、要支援者」などは「耳で聞いてわかりにくい」ので、NHKでは「災害のときにとくに助けが必要な人」などへの言い換えをするという。

 しかし、厳に「情報弱者」は存在し、「災害弱者」も存在する。この現実を直視したほうが、より具体的な対応・対策が講じられるのではないか――例えば、「在宅避難」の“一人暮らし高齢者”、“老老介護”、“ヤングケアラー”のような人たちはまさに「災害弱者」であり、こうし
た弱者を直視し、どう助けるかは、防災の大きな課題となる。

車椅子に装着できるスマホ・タブレットスタンド例 - 在宅避難が勧められるいま、<br>「情報弱者=災害弱者」の現実
VR革新機構プレスリリース画像より。ストリートビューの技術を駆使した車椅子目線の「VR避難訓練」が登場した。一般社団法人VR革新機構が提供するサービスで、台風や大雨の水害を想定した避難準備・高齢者等避難開始を想定、避難行動要支援者とその援助者にパノラマビューを使いスマホやゴーグルで事前に避難経路の確認をするバーチャル避難訓練が行える

>>VR革新機構

●全民児連の“情報&災害弱者としての在宅避難者”への対応

 全国民生委員児童委員連合会(全民児連)が2019年3月にまとめた「災害に備える民生委員・児童委員活動に関する指針」のなかで、「支援が必要な人に、支援が届くようにする」という項目を立て、「在宅避難者」について、次のように記しているので、参考に供したい。なお、ここでは「災害弱者」は「要援護者」と表記されている(以下、要約)。

〈在宅避難者への支援〉
○ 要援護者には、自宅の被害が軽微であることや、心身の状況から集団での避難生活は困難と考え、電気・ガス・水道といったライフラインが停止した状態でも、在宅や自家用車のなかなどで生活せざるを得ない要援護者も存在する
○ 在宅避難者のなかには、介護サービスや医療サービスが必要な人、また食料や飲料水等、生活必需品の支援が必要な世帯も少なくない
○ 東日本大震災では、避難所に届けられた救援物資が在宅避難者には提供されなかったケースも報告されており、在宅避難者への支援は重要な課題
○こうした在宅避難者への支援に関しても、民生委員に一定の役割が期待される
○ ただし、それは民生委員が自ら物資を届けるということではなく、安否確認とあわせてニーズ把握を行い、具体的支援につなげるという役割である(行政や社協、ボランティア等による食料や生活物資の継続的な提供など)
○ 在宅避難の長期化のなかで体調悪化を招くケースもあることから、保健師等の専門職と連携し、「福祉避難所」への避難等も検討し、その調整の役割を担う
○ そのためには、民生委員に加え、医療、福祉の専門職による訪問を定期的に実現するよう関係者に情報提供を行い、調整していくことも大切

>>全民児連:災害に備える民生委員・児童委員活動に関する指針

〈2021. 04. 19. by Bosai Plus

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