日本感染症学会 台風シーズンを前に
「インフルエンザ x COVID-19」対策を提言
「インフルエンザ x COVID-19(新型コロナ)」に備えを
インフルエンザ関連死は年間1万人にも
●やっかいな「新型コロナ」とインフルエンザの同時流行 今秋から要警戒
日本感染症学会(理事長:舘田一博・東邦大学医学部教授)は去る8月3日、今冬のインフルエンザ流行と「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症、以下「新型コロナ」)の「同時流行」に備えた提言「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」をまとめ公表した。
提言は専⾨的な診療についてではなく、一般のクリニックや病院での外来診療を対象としたものとしたうえで、症状だけで両方を見分けることはむずかしいとし、新型コロナの流行時には、両方の検査をすることを推奨している。また、新型コロナの状況は流動的であり、今後必要に応じて改訂を行っていくとしている。
わが国でのインフルエンザの感染者数は年間約1000万人、インフルエンザに関連する死亡者数は年間約1万人と推計されている。インフルエンザの流行シーズンは例年11月以降となるが、新型コロナの流行収束が当面見込めない現状であることから、防災の関係者においても、台風シーズンを前に、防災の観点(避難所運営、要援護者支援など)からも「新型コロナ x インフルエンザ」同時流行への基本的な対応法を知っておきたい。
厚生労働省では「インフルエンザの発生状況について」を毎年9月から翌年4月にかけて毎週1回、原則として金曜日に公表する。そのとりまとめを担う国立感染症研究所では、「流行入り」(原則、各シーズンにおいて全国約5千カ所の定点医療機関あたりの報告数が「1.00」を超えた週)や「流行のピーク」(原則、各シーズンにおいて全国の定点医療機関あたりの報告数が最大となった週)の時期を特定している。
昨シーズン(2019/20年)は流行入りは第45週(2019年11月4日~11月10日)としたが、ピーク週は特定されていない。昨シーズンはインフルエンザ(A(H1N1) pdm09 による)にかかった患者は全国で推計約730万人で、18~19年シーズンの約6割、流行がピークに達した第52週(2019年12月23日~29日)の患者数は過去12年で最も少なかった。
この背景について提言は、新型コロナ対策としての⾶沫感染対策や手洗いなどの予防策が、インフルエンザについても有効であったと⽰唆されるいっぽう、インフルエンザ患者減少は世界的に見られ、新型コロナウイルス感染症(ウイルス名「SARS-CoV-2」)の出現が、インフルエンザ流行になんらかの原因で⼲渉したとの説もあるとし、「同時流行」が起こるか、⼲渉がみられるかは、今年夏季の南半球の流行状況にも注目する必要があるとしている。
また、新型コロナとインフルエンザとの合併も入院患者に認められているとしている。
●両感染症の鑑別を原則に、強く疑う感染症の検査を優先
日本感染症学会の提言では、新型コロナ診療に関しては特別の注意が必要になってくるとし、検査の進め方に関しては、両感染症の鑑別を第一とする原則を重視しながらも、流行状況や感染者との接触、あるいは特徴的な臨床症状を考え、強く疑う感染症の検査を優先する考え方も提唱。検査キットのキャパシティを考慮しながら、臨床現場の実情にあった、医療の混乱を防ぐ診療のあり方について提案している。
外来診療の場において、確定患者と明らかな接触があった場合や、特徴的な症状(インフルエンザにおける突然の高熱発症、新型コロナにおける味覚障害や嗅覚障害など)がない場合、臨床症状のみで両者を鑑別することは困難としている。
また、新型コロナについては、地域により流行状況に大きな差異があるとして、新型コロナ患者に遭遇する可能性の高い地域で冬季に発熱患者や呼吸器症状を⽰す患者を診る場合は、インフルエンザと新型コロナの両方の可能性を考える必要があるとし、流行レベルを便宜上、左図のように定義するので、目安としてほしいとした。なお、都道府県で流行レベルのアセスメントがされているような場合には、それを参考とすることとしている。
ワクチンについては、今冬は、新型コロナとインフルエンザの同時流行を最大限に警戒すべきであり、医療関係者、高齢者、ハイリスク群の患者も含め、インフルエンザワクチン接種を強く推奨した。小児へのインフルエンザ・ワクチンについても、接種を強く推奨している。
新型コロナ(SARSCoV-2)のワクチンについては、臨床に導入されるようになれば、医療従事者、ハイリスク者を中⼼に、接種対象者を規定することが必要になるとしている。
>>日本感染症学会:提言「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」
〈付録〉
インフルエンザ おさらいキーワード
(国立感染症研究所資料より再編集)
▼「インフルエンザ」とは
インフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症で「一般のかぜ症候群」とは分けて考えるべき「重くなりやすい疾患」である。流行が周期的に現われてくるところから、16世紀のイタリアの占星家たちはこれを星や寒気の影響(influence)によるものと考え、これがインフルエンザの語源であると言われている。インフルエンザは、いまだ人類に残されている最大級の疫病である。
毎年世界各地で大なり小なりインフルエンザの流行がみられる。温帯地域より緯度の高い国々での流行は冬季にみられ、北半球では1~2月頃、南半球では7~8月頃が流行のピークとなる。熱帯・亜熱帯地域では、雨季を中⼼としてインフルエンザが発生する。
わが国のインフルエンザの発生は、毎年11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1~3月頃に患者数が増加し、4~5月にかけて減少していくパターンを⽰すが、流行の程度とピークの時期はその年によって異なる。
インフルエンザ流行の大きい年には、インフルエンザ死亡者数および肺炎死亡者数が顕著に増加し、さらには循環器疾患を始めとする各種の慢性基礎疾患を死因とする死亡者数も増加し、結果的に全体の死亡者数が増加することが明らかになっている(超過死亡。別項参照)。ことに高齢者がこの影響を受けやすい。
インフルエンザウイルスにはA,B,Cの3型があり、流行的な広がりを見せるのはA型とB型。A型とB型ウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、これらが感染防御免疫の標的抗原となっている。とくにA型では、HAには15種類、NAには9種類の抗原性の異なる亜型が存在し、これらの様々な組み合わせを持つウイルスが、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布している。
▼「インフルエンザ流行レベルマップ」とは
国立感染症研究所が毎週公表する「インフルエンザ流行レベルマップ」は、全国約5000のインフルエンザ定点医療機関を受診したインフルエンザ患者数にもとづいている。過去の患者発生状況をもとに基準値を設け、保健所ごとにその基準値を超えると注意報や警報が発生する仕組みだ。
「警報」は大きな流行の発生・継続が疑われることを⽰す一方、「注意報」は、流行の発生前であれば今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があることを、流行発生後であればその流行がまだ終わっていない可能性があることを⽰す。これらはあくまでも同研究所が公表する流行状況の指標であり、都道府県が発令する「警報」とは異なる。
▼「定点当たり報告数」とは
インフルエンザをはじめとする感染症の報道でよく使われるのが「定点当たり報告数」。
医療機関による感染症の報告には、感染症法によりすべての医療機関に報告が義務づけられている「全数把握」対象の疾患と、指定届出機関(定点医療機関)のみが報告する「定点把握」対象の疾患があり、インフルエンザはその後者にあたる。
「定点当たり報告数」とは、全国で約5000ある定点医療機関からの報告数を定点数で割った値。つまり1医療機関当たりの平均報告数のこと。都道府県など地域別の比較や時系列の推移など、全国的な流行状況を把握する指標として使われている。
▼超過死亡とは
超過死亡とは、インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを⽰す推定値。この値は、直接および間接に、インフルエンザの流行によって生じた死亡であり、仮にインフルエンザワクチンの有効率が100%なら、ワクチン接種によって回避できたであろう死亡数を意味する。
このインフルエンザの流行によってもたらされた死亡の不測の増加を、インフルエンザの「社会的インパクト」の指標とする手法について多くの研究がなされ、現在の国際的なインフルエンザ研究のひとつの流れとなっている。
わが国では、国立感染症研究所感染症情報センターが1998/99シーズンからインフルエンザの流行規模の指標として超過死亡の評価を導入、「感染研モデル」を公表している。
〈2020. 08. 21. by Bosai Plus〉