宮古市約30mの津波高
最悪・最大想定に最大級の備えを
あらゆる想定を超えた東日本大震災の教訓はどこに…
浸水想定非公表の岩手被災3自治体首長の“忖度”に疑問
●千島海溝・日本海溝で、M9.3、M9.1の過去最大級の地震を想定
内閣府の「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」((以下「モデル検討会」。座長:佐竹健治・東京大学地震研究所教授)は去る4月21日、北海道から東日本の東北北部太平洋側に延びる日本海溝・千島海溝沿いで起こる海溝型地震について、過去最大級の地震が発生した場合の最大津波高の推計結果を公表した。
千島海溝と日本海溝で、それぞれマグニチュード(M)9.3、M9.1の過去最大級の地震を想定。その結果、市町村別で最も波高が高いのは岩手県宮古市の29.7m、次いで北海道えりも町の27.9m。日本海溝の地震は、東日本大震災の震源となった三陸沖より北側での地震としており、岩手県北部の一部では東日本大震災を超す津波高となっている。
![千島海溝・日本海溝<br>巨大地震の津波高推計を公表 P3 1 日本海溝・千島海溝沿いにおける最大クラスの地震の検討対象領域(内閣府資料より) - 千島海溝・日本海溝<br>巨大地震の津波高推計を公表](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2020/05/P3-1_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%B5%B7%E6%BA%9D%E3%83%BB%E5%8D%83%E5%B3%B6%E6%B5%B7%E6%BA%9D%E6%B2%BF%E3%81%84%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%9C%80%E5%A4%A7%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E5%AF%BE%E8%B1%A1%E9%A0%98%E5%9F%9F%EF%BC%88%E5%86%85%E9%96%A3%E5%BA%9C%E8%B3%87%E6%96%99%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
日本海溝・千島海溝沿いの領域では、プレート境界での地震、地殻内や沈み込むプレート内での地震など、M7からM8を超える巨大地震や、地震の揺れに比べ大きな津波を発生させる“津波地震”と呼ばれる地震まで、多種多様な地震が発生しており、幾度となく大きな被害を及ぼしてきた。このため、過去に発生が確認されている地震を対象として策定された「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画」(2006年3月)等に基づき防災対策を推進してきたところ、2011年3月11日に、従来の想定を遙かに超えるM9.0の東北地方太平洋沖地震が発生し、東日本大震災の甚大な被害が発生した。
この教訓を踏まえ、中央防災会議の専門調査会は2011年9月、今後の地震・津波対策の想定は「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべき」、「最大クラスの津波に対しては、避難を軸に総合的な津波対策をする必要がある」と提言。日本海溝・千島海溝沿いの海溝型地震についてもこのような考え方に沿い、最大クラスの地震・津波を想定した検討を行うため、2015年2月に「モデル検討会」が設置され、防災の観点から分析・整理が行われてきた。
地震本部によれば、千島海溝で大津波を伴うM8.8程度以上の”超巨大地震”が「切迫している可能性が高い」と評価されている。
![千島海溝・日本海溝<br>巨大地震の津波高推計を公表 P3 2a 想定される沿岸での津波の高さ(北海道)(内閣府資料より) - 千島海溝・日本海溝<br>巨大地震の津波高推計を公表](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2020/05/P3-2a_%E6%83%B3%E5%AE%9A%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E6%B2%BF%E5%B2%B8%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E3%81%AE%E9%AB%98%E3%81%95%EF%BC%88%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%EF%BC%89%EF%BC%88%E5%86%85%E9%96%A3%E5%BA%9C%E8%B3%87%E6%96%99%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
![千島海溝・日本海溝<br>巨大地震の津波高推計を公表 P3 2b 想定される沿岸での津波の高さ①(青森県以南)(内閣府資料より) - 千島海溝・日本海溝<br>巨大地震の津波高推計を公表](https://www.bosaijoho.net/wp/wp-content/uploads/2020/05/P3-2b_%E6%83%B3%E5%AE%9A%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E6%B2%BF%E5%B2%B8%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%B4%A5%E6%B3%A2%E3%81%AE%E9%AB%98%E3%81%95%E2%91%A0%EF%BC%88%E9%9D%92%E6%A3%AE%E7%9C%8C%E4%BB%A5%E5%8D%97%EF%BC%89%EF%BC%88%E5%86%85%E9%96%A3%E5%BA%9C%E8%B3%87%E6%96%99%E3%82%88%E3%82%8A%EF%BC%89.jpg)
今回の「モデル検討会」における最大クラスの地震・津波断層モデルの検討結果を踏まえ、中央防災会議防災対策実行会議の下に「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ(WG)」が設置され、被害想定および対策が検討されることになる。
いっぽう、東日本大震災を上回る津波が予測された今回の岩手県の浸水想定図は非公表となっている。この予測について宮古、久慈、釜石の沿岸3自治体(市長)から「公表されると住民に不安を与えかねない」との反発があったためで、県が非公表を国に要請したという。
最悪・最大想定は、その対策=避難やまちづくりも最大級に備えるための基礎になるものだ。東日本大震災の教訓を風化させてはならない――被災3自治体首長の再考を促したい。
>>内閣府(防災担当):日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会
〈2020. 05. 02. by Bosai Plus〉