国土交通省「立地適正化計画-概要-パンフレット」より

橋下 徹氏の新・災害リスク観
「科学をもって自然災害から逃げていくという方向性も必要」

【 「Build Back Better」の逆流?
  浸水想定区域の人口や世帯が増加 】

わが国の可住地は約3割弱
東京の河川高さと市街の比較(国土交通省資料より。出典:「水害の世紀―日本列島で何が起こっているのか」森野美徳 監修)

郊外を中心に浸水想定区域の人口や世帯が増えている!

 東京都江戸川区の「江戸川区水害ハザードマップ」が表紙の浸水予想区域の説明図に『ここにいてはダメです』と書き込んで(賛否の)話題を呼んだことは、本紙も最近伝えた。

>>防災情報新聞 2019年6月16日付け:「ここにいてはダメ」 どうする全員避難!

 その後、台風15号、19号、そして21号の影響を受けた大雨などでこの秋、各地で河川氾濫が起こり、現下、広域同時多発大規模水害となっている。東京都では多摩川が氾濫したが、荒川の決壊想定で引き起こされる大規模水害によって”水没”する可能性がある東京東部低地帯に位置する江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)の「250万人広域避難計画」が、決して想定外ではないことが改めて浮き彫りになったと言える。

 『ここにいてはダメです』を突き詰めれば、『ここに住んではダメです』だが、いかんせん、わが国の「可住地」(人が住むことができる土地)は日本の国土面積のわずか約3割で、かつ約6割が生活に大きな影響を与える積雪寒冷地域。そして、急勾配な河川が多く、わが国の都市の多くは河川の水位より低い位置にあり、洪水氾濫域に人口・資産が集中している。

 前述の本紙『ここにいてはダメです』記事でも取り上げたが、山梨大学の秦(はだ)康範・准教授(地域防災)が2018年10月、日本災害情報学会で発表した調査研究結果「全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内人口の推移」によれば、国や都道府県が指定した全国の河川の洪水による浸水想定区域に住んでいる人は、2015年時点で約3540万人にのぼり、20年前の1995年と比べて4.4%増え、また世帯数では約1530万世帯で、24.9%と大幅に増えたことが明らかになったという。
 秦氏はその動向を分析して、区域内人口が減少している地域を含めて、郊外を中心に浸水想定区域の人口や世帯が増えたと指摘。要因を「浸水リスクの高い地域の宅地化が進んでいるため」とし、「災害リスク地域に住んでいる住民の啓発、人口減少社会にあった災害リスクを踏まえた土地利用を推進する必要がある」とした。

山梨大学・秦(はだ)康範・准教授資料より全国の浸水想定区域内人口・世帯数の推移

橋下 徹氏「本当に申し訳ないが、“危険な地域には住まわせない”」

 本紙はこれまで何度も、直近5年の風水害事例を記載してきた――「2013年10月台風26号による暴風・大雨」(東京都大島町土砂災害など)、「平成26年(2014年)8月豪雨」(広島土砂災害など)、「平成27年(2015年)9月関東・東北豪雨」(鬼怒川水害など)、「2016年台風第7号・第11号・第9号・第10号の連続来襲」(グループホームの被災など)、「平成29年(2017年)7月九州北部豪雨」、「平成30年7月豪雨」(2018年西日本豪雨)と続き、本年の「9月・台風15号」、「10月・台風19号・同21号大雨」である。近年は文字通り毎年、大規模な風水害が起こり、その犠牲者をはじめ、家屋浸水、農業被害など甚大な損害を被っている。

 当然、防災・減災の視点から、それぞれの被害の発生原因の調査や次なる被害軽減に向けた検証が行われるのだが、いずれも詰まるところ”事後対策”となりがちだ。しかし近年、国連防災世界会議が提唱する「Build Back Better (Than Before)」(創造的復興)がわが国の防災白書にも登場する。これは「災害の発生後の復興段階において、次の災害発生に備えて、より災害に対して強靱な地域づくりを行うという考え方」、つまり「事前防災」であり、”1ドルの投資で7ドル分の被害軽減”がこれからの防災の基本的な流れとなっている。
 元大阪府知事の橋下 徹氏が近年の水害多発傾向について、「科学をもって自然災害に打ち勝つことも必要だが、これからは科学をもって自然災害から逃げていくという方向性が必要ではないか」と問題提起したことが報じられた。本紙もこれまで災害リスクを”ひらりとかわす”という表現をよく使うが、”科学をもって自然災害から逃げていく”という発想に共鳴した。

>>AbemaTIMES:橋下徹「“危険な地域には住まわせない”という大方針を」

 橋下氏は、「危険な地域についてはお金を補償してでも移転してもらう。大胆だけれど、そういう風に調整をしないと間に合わないと思う。命の問題だから、そこは政治が気合を入れて、令和の時代は“危険な地域には住まわせない”という大方針でやってもらいたい」とも述べている。まさに「Build Back Better」の考え方だろう。

国土交通省資料より「居住誘導区域における災害危険区域等の取扱い状況」
国土交通省資料より「居住誘導区域における災害危険区域等の取扱い状況」
国土交通省資料より「立地適正化計画における災害リスクの取扱い」
国土交通省資料より「立地適正化計画における災害リスクの取扱い」

居住誘導地域の災害リスクを考慮しない「コンパクトシティ」って、まさか?

 ひるがえって、国土交通省がいま主導する「立地適正化計画」がある。これは「コンパクトシティ」という言葉に平準化され、その青写真が対象市町村ごとに策定されつつある。「立地適正化計画」あるいは「コンパクトシティ」とは、人口減少社会に対応するため都市機能や住民・住宅や商業施設を一定の区域に集約する試みだ。

>>国土交通省:立地適正化計画制度

 前号(11月2日付け「同時多発水害にどう備えるか」)で本紙は、「タイムライン(防災行動計画)を、少子高齢化のわが国の災害に備えた社会づくりに当てはめて、住民・住宅や商業施設を安全な地域に集約する『コンパクトシティ』計画に応用すべき」とし、そのための現実的な動きとして、国土交通省が進め住民・住宅をより安全な住まいに導く「不動産総合データベース(DB)」という仕組みづくりを急ぎ、防災を市場メカニズムに組み込んで安全な立地・住居へ国民を誘導すべきとした。
 ところが国土交通省(都市計画基本問題小委員会)によると、計画上の市街地整備が水害・津波・土砂災害などのリスクを必ずしも考慮せずに進められてきたことが浮き彫りになったという。

 コンパクトシティ政策の防災への対応を強化するため、国土交通省は立地適正化計画に基づいて住居を集約する「居住誘導区域」を指定する都市(154)を対象に「区域内の災害危険区域の存否」を調査した。災害危険区域とは、土砂災害特別危険区域、津波災害警戒区域、浸水想定区域、都市洪水想定区域(など)、災害発生のおそれのある区域、の5分類。
 その結果、水害リスクが高い「浸水想定区域」を含む誘導区域を持つものは90%(139都市)と極めて高く、「土砂災害警戒区域」を含む割合も33%(53都市)、またいずれについても「原則として含まない」と「原則として含まないこととすべき」としながらも、“例外的に含む”都市は、94%(144都市)にのぼった。コンパクトシティを志向せざるを得ない自治体は今後さらに増加するとみられるが、計画策定済みの都市で居住誘導区域に災害リスクがある、あるいは記載がない(確認を行っていない)事例は少なくない。

 災害リスクがある区域を居住誘導区域に含める理由としては、「すでに市街地を形成している」が主となるが、それを補うために「防災意識啓発」や「堤防・ダムなどの防御施設整備」、「ハード・ソフト両面の対策」など旧来の対策をあげる事例が多いようだ。いっぽう、先進的な事例も散見される。例えば神奈川県藤沢市では、ハザードエリアを居住誘導区域からは除外し、防災対策先導区域に設定して減災・防災対策を重点的に行っていくとしている。

 国土交通省は今後、「コンパクトシティ」制度を進めるにあたって土地適正化計画の規制強化も併せて検討することとしている。そして、危険度の高い住宅地域については移転を促す施策も検討対象にする。
 いっぽう、私たち市民・住民と計画策定者(自治体)の双方が理解しやすい災害リスクの提示も重要だ。そこでは防災士の果たす役割も大きいものがある。

〈2019. 11. 18. by Bosai Plus

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