「川だけ地図(All-Rivers)」より(一部トリミング)

毛細血管のような中小河川は
安全・安心社会のインフラだ。

中小河川の”反乱”は国難に通じる
気候変動時代、住民・住宅をより”強靭化”へ導く法とは。

イメージ画像:水害リスクというと、海抜ゼロメートル地帯や低地が話題にのぼるが、実は毛細血管のように平時は目立たない穏やか河川が、いったんコトがあれば「大反乱」を起こす不穏な存在となる。画像は、「川だけ地図」というウェブ公開の地図(インフォグラフィックス)より。まるで日本を丸裸にして毛細血管だけで表したように、河川の”線”で国土を見せる。このサイトで「現在位置の取得」をクリックするとあなたの近隣の川の位置がわかる

【 ハザードマップを社会のインフラに格上げ、防災・減災を 】

台風15号から19号・21号等大雨に 二重・三重の被災

 「広域同時多発」と言えば大地震のあとの火災の発生を伝える常套句だが、今回は「水害」での形容となった。
 本紙は9月15日付けで台風15号による千葉県を中心とする被害を伝え、そのひと月後の前号10月15日付けで台風19号被害状況を速報(14日12時時点)した。このとき、死者37人、行方不明者17人、河川の決壊は21河川24カ所、越水は延べ142河川(13日20時56分現在)と伝え、「まさに広域・ゲリラ的”河川の反乱”の様相を呈している」としたが、その後、台風19号の災害規模は大きく拡大。災害は規模が大きくなればなるほど初期の被災情報はあくまで小間切れで入ってくることを思い知ることになった。

 そして台風15号、19号の被災地に追い打ちをかけるように、10月24日から26日にかけて西日本から北日本の太平洋側沿岸に沿って低気圧が進み、この低気圧に向けて南から暖かく湿った空気が流れ込むとともに、日本の東海上にあった台風第21号からも湿った空気が流れ込んで大雨となった。これにより関東地方から東北地方の太平洋側を中心に再び広い範囲で総降水量が100mmを超え、特に千葉県や福島県を中心に200mmを超える記録的な大雨となった。

 政府の非常災害対策本部による10月31日5時30分現在の被害状況では、台風19号と10月 24日から26日にかけての大雨による被害で、人的被害は死者91人、行方不明者9人、住家被害は全壊1367棟、半壊4973棟、一部破損6232棟、床上浸水3万3820棟、床下浸水3万7523棟となっている。
 死者は福島県で30人、宮城県で19人、千葉県で11人、神奈川県7人などで、行方不明者も含めて岩手県から兵庫県まで広範囲にわたる。また、避難者は福島県の1525人をはじめ、被災地合計で3549人となっている。

国土地理院資料より「利根川水系(鹿島川・高崎川)佐倉市周辺の浸水推定段彩図」(一部トリミング)。10月26日に国土交通省災害対策用ヘリコプターが撮影した画像と標高データを用いて、浸水範囲における水深を算出、深さごとに色別に表現した地図。実際に浸水のあった範囲でも把握できていない部分、浸水していない範囲でも浸水範囲として表示されている部分がある

「ハザードマップ浸水想定区域ではない」⇒安全とは限らない

 改めて直近5年の風水害事例を顧みると――「2013年10月台風26号による暴風・大雨」(東京都大島町土砂災害など/以下、気象庁が命名した災害に「*」印)、「*平成26年(2014年)8月豪雨」(広島土砂災害など)、「*平成27年(2015年)9月関東・東北豪雨」(鬼怒川水害など)、「2016年台風第7号・第11号・第9号・第10号の連続来襲」(グループホームの被災など)、「*平成29年(2017年)7月九州北部豪雨」、「*平成30年7月豪雨」(2018年西日本豪雨)と続き、本年に至って「9月・台風15号」、「10月・台風19号・同21号大雨」となる。近年は文字通り毎年、大規模な風水害が起こっていることになる。

 今年の台風15号・19号・21号関連大雨で、いわゆる想定外も含めていろいろな被害が発生した。例えば報道の見出しがらみでそれらを見ると(無作為に抽出)――
・中小河川に水位計なし
・中小河川のハザードマップなし
・ハザードマップの浸水想定外で浸水
・ハザードマップ通りの浸水で重要施設が水に漬かった
・土砂災害警戒区域外で土砂災害
・緩い傾斜で異例の土砂崩れ
・車での移動中に川に流される被害
・鉄道車両基地の浸水被害
・同時多発水害でゴミ置き場不足
・「バックウオーター現象」で洪水
・超高層マンションで停電、エレベータ難民
・避難所が路上生活者の受け入れを拒否
・浸水想定地区に避難所
・強風で電柱倒壊、停電
・台風15号で避難生活者がいる避難所に19号でさらに避難者が

 などなどであるが、もちろんこれらは必ずしも初めて指摘された想定外ではない。災害が起こるたびに検証が行われ、対策やガイドラインが策定され、大きくは国の「国土強靭化計画」に帰結するが、要は、そうした対策が災害のリアリティに追いついていないということだろう。

国土交通省「気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言【概要】」より

「水位周知河川」指定からはずれた中小河川は万とある

 氾濫すると大きな被害が予想される河川は「水位周知河川」に指定され、避難勧告を出す目安となる「危険水位」が決められ、「浸水想定区域図」がつくられて、それをもとに市町村がハザードマップをつくる。
 しかし、これに指定されない中小河川でも氾濫・洪水は起こるのだ。台風19号・21号大雨ではこの中小河川の氾濫がとくに目立つ。こうした中小河川の氾濫対策をどうするかが、温暖化・気候変動が進むいま、緊急課題になりつつある。

 ちなみに、国土交通省は去る10月18日、気候変動を踏まえた治水計画へ転換するとして、「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」の提言をとりまとめ公表した。
 提言では、「気候変動により、降雨量がどの程度増加するか」、治水計画の立案にあたり「実績の降雨を活用した手法」から「気候変動により予測される将来の降雨を活用する手法」に転換する、気候変動が進んでも治水安全度が確保できるよう降雨量の増加を踏まえて、河川整備計画の目標流量の引上げや対応策の充実を図ることなどが示された。

>>国土交通省:気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会

中小河川の氾濫を防止する対策(国土交通省資料より)

政府の「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」

 参考まで、政府は本年1月、「重要インフラの緊急点検に関する関係閣僚会議」で、2018年7月豪雨を踏まえ、「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」を策定、バックウォーター現象等により氾濫した場合の湛水深等の緊急点検を行い、甚大な人命被害等が生じる恐れのある区間を有する河川約120河川について合流部などの堤防強化対策や堤防かさ上げ等の緊急対策を実施する方針を打ち出した。

 それによると、2020年度までに国管理の約70河川と都道府県等管理の約50河川の「氾濫水の深い水深による人命への危険性等に対応した堤防強化対策等を実施」するとしている。具体的には、堤防決壊を防止または決壊までの時間を引き延ばす堤防の強化対策やかさ上げ等を実施するとし、達成目標を堤防決壊が発生した場合に湛水深が深く、とくに多数の人命被害が生じる恐れのある区間において、堤防強化対策等を実施する。
 また、樹木繁茂・土砂堆積及び橋梁等による洪水氾濫の危険箇所等の緊急点検を行い、流下阻害や局所洗掘等によって、洪水氾濫による著しい被害が生ずる等の河川約2340河川について、樹木伐採・掘削及び橋梁架替等の緊急対策を実施。
 さらに、土砂災害等の危険性が高い約2000箇所の道路法面・盛土対策、道路拡幅等、主要な携帯電話基地局の応急復旧のための、車載型基地局等約100台の増設など、国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持に努めるとしている。

 事業規模はおおむね7兆円程度で、「防災のための重要インフラ等の機能維持」に3.5兆円程度。これには、大規模な浸水、土砂災害、地震・津波等による被害の防止・最小化に2.8兆円程度、救助・救急、医療活動などの災害対応力の確保に0.5兆円程度、避難行動に必要な情報等の確保に0.2兆円程度。
 そして、「国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持」に3.5兆円程度。これには電力等エネルギー供給の確保に0.3兆円程度、食料供給、ライフライン、サプライチェーン等の確に1.1兆円程度、陸海空の交通ネットワークの確保に2.0兆円程度、生活等に必要な情報通信機能・情報サービスの確保に0.02兆円程度としている。

>>首相官邸:「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」

危機管理型水位計の活用イメージ(国土交通省資料より)
対策箇所のイメージ(国土交通省資料より)

不動産市場にハザードマップ評価を取り入れる動きに期待
 「タイムライン(防災行動計画)」の発展的延長上に「コンパクトシティ」を

 近年、台風など風水害が予想されるリスクに対して、接近が予報される段階で、全員(住民はもとより防災関係者を含めて)が身の確保を図るために、だれが何をするのか(鉄道の運休計画、企業の臨時休業なども含めて)、時系列で手順を決めて避難対策を進める「タイムライン(防災行動計画)」が普及しつつある。これを風水害にあてはめて言えば、「雨が降る前の避難行動」が理想的となり、さらに言えば、このタイムラインを、少子高齢化のわが国の災害に備えた社会づくりに当てはめて、住民・住宅や商業施設を安全な地域に集約する「コンパクトシティ」計画に応用すべきだろう。
 そのための現実的な動きとしては、住民・住宅をより安全な住まいに導く「不動産総合データベース(DB)」という仕組みづくりがいま、国土交通省で進んでいるという。

 「不動産総合DB」とは、宅地建物取引業者が不動産取引に必要な物件情報(過去の取引履歴、周辺環境に関する情報等)を容易に収集し、消費者に対してより充実した情報を提供するシステム。このデータベースには、ある物件について、「誰が建てたか」、「改築の情報」、「耐震性能」、「劣化の状況」、「価格の相場」などから、「ハザードマップ」、「災害環境」、「インフラ情報」、「学校・公園・公共施設」などの周辺環境情報までも収集される。これにより不動産情報を一元化し、透明性・効率化を図り、中古住宅の流通の活性化・促進を狙おうというものだ。

 この背景には、不動産市場(とくに中古住宅市場)において、不動産業者の情報独占を排して市場の活性化を図ろうという試みがある(専門用語では「情報の非対称性」という)。これは、「売り手」のみが専門知識と情報(ネガティブ情報を含む=例えば浸水想定区域に立地するなど)を有し、「買い手」はそれを知らないというように双方で情報と知識の共有ができていない状態のことを指し、それをオープンにしようというもの。
 とくに、耐震性能、劣化の状況、災害環境、ハザードマップ、土砂災害警戒区域などのネガティブ情報も収集・公開されることから、より安全な住宅への誘導、全国的な防災力の底上げに大きな効果をもたらすことも期待されている。

 4年前になるが、2015年版土地白書は、不動産取引について、法令制限やハザードマップ、過去の土地利用や災害履歴など売主も把握していない物件周辺情報が、さまざまな機関や媒体に分散していて、消費者に十分な情報を提供することがむずかしい現状にあるとし、国土交通省でこれら情報(防災関連情報、過去の取引履歴、周辺環境に関する情報等)を効率的に集約し、一覧性をもって宅地建物取引業者に提供するシステム(「不動産総合データベース」)を導入するための検討を行っていることを明らかにした。
 それから4年。このデータベースのオープンデータ化を推進する取り組みは、横浜市での試行運用を実施するなど、実証段階にある。本運用にあたっては、当初は不動産仲介業者(宅建業者)向けに運用される予定だが、態勢が整い次第、民間への情報公開も見据えられているという。

 また、さらに最近では、ICTのブロックチェーン技術を応用して、「不動産版マイナンバー」制度、あるいは「不動産総合DB」を進化させて、より総合的な情報データベースとなる「不動産情報バンク(仮称)」の構築が提案・検討されているという。

>>国土交通省:不動産総合データベース試行運用について

不動産総合データベースのサンプル画面

〈2019. 11. 02. by Bosai Plus

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