江戸川区の「水害・洪水・高潮マップ」(表紙より。一部トリミング)

ここからどこへ…「避難」待ったなし!
大規模災害では1〜2週間の避難も

広域避難から「警戒レベル」に応じた避難、
そして長期避難まで、直近の警鐘、次つぎ…

【 行政の”限界”はわかる。しかし、長期避難を自助でと言われても… 】

●浸水想定地区の人口・世帯数は、”逆に”増えているという現実も

 このところ矢継ぎ早に「災害リスク」への警鐘やリスク評価に関連する情報が飛び交っている。その出所は国や自治体、研究者・機関などだ。これにマスメディアもそれなりに反応し、国民・市民への啓発、警鐘・警告の動きも見られる。
 例えば、東京都江戸川区が去る5月20日に公表した「江戸川区水害ハザードマップ」は浸水予想区域の説明図に『ここにいてはダメです』と書き込んで、それが”キャッチィ(目を引く)”だとしてメディアやインターネットのSNSで話題を呼んだ。折も折、東京東部低地帯に位置する江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)では、大規模水害によって”水没”する可能性がある区域に約250万人が居住していて、近年、国の検討会、江東5区などでその全住民避難計画が話題になっているところだ。

 また、想定される南海トラフ巨大地震については、巨大地震警戒情報となる「南海トラフ地震臨時情報」の運用が5月31日から始まり、臨時情報への対応として、津波からの避難が間に合わない地域ではあらかじめすべての住民が避難する、その期間は「1週間」というガイドラインが策定されている。

 いっぽう、気象庁は本年の出水期から運用を始める「警戒レベル」の「4」では「全員避難」を促している。

 ひるがえって農林水産省は去る6月11日、昨年の西日本豪雨の教訓を踏まえて新たな基準によって都道府県で再選定した人的被害が発生する恐れがある防災重点ため池(2019年5月末時点)の数を公表。その数は、全国の農業用ため池総数16万6638箇所のうち6万3722箇所で、これまでの5倍超(旧基準では1万1399カ所)となった。農林水産省ではこれらのため池について、今年度中に各自治体が位置や貯水量などを記したマップを作成し、来年度までに緊急連絡体制の整備やハザードマップ(浸水想定区域図)を作成、また、補強工事や不要とされるため池の撤去を進めるという。

 本紙はこれまで、3大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)を中心にゼロメートル地帯に住む約400万人余りの人びとの高潮災害リスクを何度か取り上げてきた。しかも、東京オリパラなどもあってその湾岸の開発が近年さらに進み、潜在的な災害リスクもより大きくなっている。
 そのような動向のなかで、昨年10月、山梨大学の秦(はだ)康範・准教授(地域防災)が日本災害情報学会で発表した調査研究結果「全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内人口の推移」が注目された。

秦(はだ)康範・山梨大学准教授の資料より「全国の浸水想定区域内人口・世帯数の推移」
秦(はだ)康範・山梨大学准教授の資料より「全国の浸水想定区域内人口・世帯数の推移」

 秦氏の調査研究は、災害リスクの高い地域として浸水想定区域内の人口に着目したもので、その推移について社会的な背景とともに考察している。国や都道府県が指定した全国の河川の洪水による浸水想定区域に住んでいる人は、2015年時点で約3540万人にのぼり、20年前の1995年と比べて4.4%増えていること、また、世帯数では約1530万世帯で、24.9%と大幅に増えたことが明らかになったという。

 秦氏はその動向を分析して、区域内人口が減少している地域を含めて、郊外を中心に浸水想定区域の人口や世帯が増えたと指摘。要因を「浸水リスクの高い地域の宅地化が進んでいるため」とし、「災害リスク地域に住んでいる住民の啓発、人口減少社会にあった災害リスクを踏まえた土地利用を推進する必要がある」としている。

>>秦康範:全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内人口の推移

 水害・洪水・高潮をはじめ地震・津波、がけ崩れなど自然災害の多いわが国で、そして少子高齢化が急激に進むわが国でなお、このように「かつては水面下にあって人が住めず、田畑にもならなかった土地」が埋め立てられて宅地用に開発され、交通網や学校などの生活環境が整備されて居住者が増えている現実を前に、事前防災の観点からは本来「要注意な」状況が、防災の意に反して生まれているのだ。

 災害は進化するというが、現代の経済合理性や便利さの追求の足元で増大する災害リスクをどう考え、どう減災につなげるか――私たち防災にかかわる者に改めて”ビジョン”が求められている。

江戸川区「水害ハザードマップ」~”ここにいてはダメ”

●停電・断水生活が1~2週間 耐えられますか?

 東京都江戸川区が去る5月27日に公表した「江戸川区 水害ハザードマップ」(11年ぶりの改訂)は「いままでに経験したことがないような大規模な水害が起こったら“どうなるか”、命を守るために“どうするか”を知ってもらう」とうたい、区内の全世帯に配布したほか、ホームページで公開している。もちろん、いまや各自治体が策定するハザードマップと趣旨は似ているが、江戸川区の場合はやや事情・環境が特殊だ。

江戸川区の「水害・洪水・高潮マップ」(表紙)
江戸川区の「水害・洪水・高潮マップ」(表紙)

 マップは、洪水や高潮で荒川と江戸川が氾濫すると、区内のほぼ全域が浸水する(最悪浸水深5mも)という最悪の想定を示して、”ここにいてはダメ”と、被害の発生前に区外に避難をするよう区民に求めている。

>>江戸川区:江戸川区水害ハザードマップ

 先述したように、江戸川区を含む「江東5区」は、大規模水害による犠牲者ゼロの実現に向け「広域避難推進協議会」を設置し、昨年(2018年8月)、大規模水害時の広域避難について「江東5区大規模水害ハザードマップ」(高潮浸水も想定)と「江東5区大規模水害広域避難計画」を発表した。

>>江東区:江東5区大規模水害ハザードマップ・江東5区大規模水害広域避難計画

 同避難計画では、人口の9割以上の250万人(江戸川区は70万人)の域外への広域避難を打ち出したが、避難場所の確保、さらに2週間以上浸水する地域にとり残される可能性もある高齢者ら「要援護者」を守る課題などが山積する。というのも、浸水時に垂直避難(建物の3階以上へ避難)してもすぐに救助されることはむずかしく、停電・断水生活が想定されるなか、長期にわたる困難な生活に耐えられない可能性があるからだ。

江戸川区の「わが家の避難計画」より
江戸川区の「わが家の避難計画」より

 協議会は、避難先の確保などについて行政には限界があるとし、「自助」と「共助」の必要性を訴えている。同ハザードマップの策定にアドバイザーとしてかかわった片田敏孝・東京大学特任教授は、「“ここにいてはダメ”は、少しでも早い避難行動を促すために必要な表現だと思う」とし、「もっとも大事なことは命を失わないこと。各自の努力で自ら身を寄せる場所を確保する努力もしてもらうのが実態」(NHKテレビ・インタビューより)としている。

 ちなみに、江戸川区での避難計画は「江東5区」の避難計画に準じたものだが、”ここにいてはダメ”は、江戸川区独自の表現のようだ。

5段階の警戒レベル
 レベル「4」で「全員避難!」

●気象庁「防災気象情報」、5段階運用開始 まだまだわかりにくい?

 気象庁は5月29日から、警報、土砂災害警戒情報、氾濫危険情報などの防災気象情報を「5段階のレベル」に分けて公表する運用を始めた。内閣府の行動指針に基づくもので、市町村では出水期(6月ごろ)から順次、避難勧告や避難指示(緊急)にレベル情報を加えて発表する。レベル分けにより、土砂災害・水害の危険度を直感的にわかりやすく示して、住民避難を促し、逃げ遅れを防ぐ趣旨だ。

警戒レベルと防災気象情報(気象庁資料より)
警戒レベルと防災気象情報(気象庁資料より)

 国(気象庁、気象台、国交省)が発表する防災気象情報は、予測技術の精度の高まりもあって、いろいろな種類が発表されるようになったが、逆に近年、土砂災害、氾濫などの事象種類とその分析・解説情報、また特別警報が加わったことによる警報の種類の多義化、そして“現場レベル”で直接住民に向けて市町村が発表する避難情報(避難勧告、避難指示など)の用語のあいまいさともあいまって、情報の受け手である住民はもとより、自主防災や防災リーダー、さらには行政担当者や防災の専門家でも、改めて気象庁の解説書を手に確認しないとわかりにくいという大きな課題が指摘されるようになった。

「警戒レベル4」で全員避難!(気象庁資料より。一部トリミング)
「警戒レベル4」で全員避難!(気象庁資料より。一部トリミング)

 警戒レベル5段階は、そうした課題の解決への一歩だと言えるが、例えば避難については「避難勧告」と「避難指示(緊急)」が「レベル4」のカテゴリになることや、土砂災害で「土砂災害警戒情報」の「メッシュ情報(非常に危険)」と「メッシュ情報(極めて危険)」が同じ「4」に併記されるなど、まだわかりにくいところがある。

 要は、情報の活用者である住民の対応として、避難に時間を要する人(要援護者など)とその支援者が避難を開始するのが「レベル3」(そのほかの人は避難の準備)、そして「レベル4」で「全員避難!」という理解ですんなり腑に落ちるということになる。

 いっぽう、土砂災害は「レベル4相当」で、氾濫は「レベル3相当」という状況もあり得るので、警戒レベルの対象事象を確認したい。なお、暴風・高波や大雪についてはまだ「警戒レベル」は適用されていない。

 米国の例では、ハリケーンや竜巻などはその強度が「カテゴリ」で示され、行政・住民はそれに応じて対策を講じるのが常だ。今後、「警戒レベル」の啓発と普及・定着によるさらなる単純化が期待されるが、最終的には、防災情報を自ら取りに行く、「自分の命は自分で守る」という自助が大切であることは言うまでもない。

>>気象庁:防災気象情報と警戒レベルとの対応について

南海トラフ臨時情報「1週間の避難」促す

●「1週間の避難」――もうひとつの“自助の決断”

 南海トラフ大規模地震の発生可能性が高まったと評価された場合に出される「南海トラフ地震臨時情報」、半割れケースでは、地震発生後の避難で明らかに避難が完了できない地域の住民は「1週間の避難」が促されている。前述の「レベル4」ではもちろんない。さて、「1週間、あるいはそれ以上、避難するか、しないか」、もうひとつの“自助の決断”となる。

>>南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)

ため池防災、再び俎上に
背中合わせの「内陸津波」

●東日本大震災で、西日本豪雨で…… ため池決壊の教訓を踏まえて

 ため池とは、降水量が少なく流域に大きな河川がない地域などで、農業用水を確保するために水を貯え取水できるよう人工的に造成された池だ。洪水調節や土砂流出の防止、生物生息・生育場所の保全、地域の憩いの場の提供など多面的な機能も有している。ため池は全国に16万6638カ所存在し、とくに西日本(なかでも瀬戸内地域)に約6割が分布する。

上写真:九州北部豪雨での福岡県朝倉市の被害(国土交通省資料より)、下:決壊前の藤沼貯水池(Photo-Courtesy:Wikimedia)
上写真:九州北部豪雨での福岡県朝倉市の被害(国土交通省資料より)、下:決壊前の藤沼貯水池(Photo-Courtesy:Wikimedia)

 「防災重点ため池」はそのなかで、「決壊した場合の浸水区域に家屋や公共施設等が存在し、人的被害を与えるおそれのあるため池」のことで、昨年7月の西日本豪雨で多くのため池が決壊し、防災重点ため池ではない住家とも背中合わせの小規模なため池で甚大な被害が生じたことから、先述したように新基準での見直しが行われ、防災重点ため池はこれまでの5倍超(旧基準では1万1399カ所)の6万3722カ所となった。

 近年、ため池決壊が衝撃を与えたのは、東日本大震災での震度6強の揺れで内陸部・福島県須賀川市江花の“ため池”「藤沼ダム」(または藤沼貯水池、藤沼湖)が決壊したことだった。土石流が発生、下流で死者7人・行方不明者1人を出すもうひとつの“内陸津波”となった。

>>農林水産省:防災重点ため池の再選定について

〈2019. 06. 16. by Bosai Plus〉

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