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文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 安政年間はまさに日本人にとって激動の時代だったといえるでしょう。ペリー来航の翌年、1854年(安政元年)に「日米和親条約」が締結され下田と函館が開港されたことで鎖国は終了し、堰が切れたように異国の波がどっと押し寄せました。同時に安政の地震活動期へと突入するのです。

 始まりは1854年に発生した南海トラフ上の巨大地震「安政東海地震」(旧暦11月4日)と「安政南海地震」(同11月5日)でした。二つの地震地帯は伊豆から四国までに及び、数千人の死者と倒壊家屋3万軒以上(内閣府防災情報のページ「1854 安政東海地震・安政南海地震」参照)という未曽有の被害を出しています。次いで1855年には、この巨大地震の誘発地震といわれる「安政江戸地震」(「1855 安政江戸地震」参照)が起こり、今の東京丸の内や墨田区(本所)、江東区(深川)などで震度6以上を記録、古文書には江戸市中の犠牲者は1万人前後、大名屋敷では116家(全部で266家)で死者が出たと記されています。

 北陸地方では1858年(旧歴2月26日)に「安政飛越地震」が発生しました。当初はマグニチュード(以下、M)7.0~7.1とみられていましたが、京都から長野県までの広範囲で震度5程度の揺れがあったことが近年の研究で明らかとなり、再計算によってM7.3~7.6だとされています(「1858 飛越地震」第2節  安政飛越地震の地震像 参照)。この地震で大鳶山、小鳶山が山体崩壊し、谷が4.1億立方mの膨大な土砂で埋め尽くされた通称「鳶(とんび)崩れ」が発生して常願寺川上流は堰き止められてしまいました。しかし、約70年前に鍬崎山(くわさきやま)が崩れて常願寺川を堰き止め、1週間後に洪水となった経験があることから、直ちに城下には「危険」のおふれが出されたそうです。侍から町人までが山手に避難したと富山藩の絵師、木村立嶽の『地水見聞録』には記録されています(国土交通省北陸地方整備局 立山砂防事務所「安政5年の災害-常願寺川の災害と事務所の沿革」参照)。飛越地震の被害はその後も続き、堰き止められた土砂が3月10日の地震で流れ出し、民家や田畑が埋まりました。そして4月26日には大規模な土石流が常願寺川を猛烈な勢いで下り、富山平野をひと飲みにしました。避難していたにもかかわらず溺死者140人、負傷者8945人(カルデラ砂防博物館ホームページ、以下HP 歴史「安政の大洪水」参照)、多数の家屋被害が出たのです。この年に山から富山平野へと流れ出した石の重さはおよそ400トン。発生した土石流の壮絶さを物語っています。

料理名:いかの黒作り(富山県)

富山県の「いかの黒作り」

 江戸時代、現在の富山県に当たる地域は富山藩と加賀藩の領地でした。富山県農林水産部農林水産企画課のHP「越中とやま食の王国」には参勤交代の時に加賀藩主が「いかの黒作り」を将軍家に献上したと書かれています。このいかの黒作りとは塩辛のこと。塩辛はスルメイカの肝臓(ワタ)と身を混ぜて塩を加えた発酵食品ですが、作り方によって3種類に分かれます。一般的な塩辛は「赤作り」、皮を剥いて作る「白作り」、今回ご紹介する富山の名産で、いか墨を混ぜる「黒作り」です。いか墨を混ぜることによって腐敗や細菌の増殖を抑え、赤作りや白作りよりも保存性に優れた塩辛になります。

 近年の研究によって、いか墨にはメラニンによる抗潰瘍性作用があることが分かっています。さらに、全国いか加工業協同組合HP イカ学Q&A50には、マウスを使った実験でいか墨に含まれるムコ多糖-タンパク質複合体(プロテオグリカン)に抗がん作用があることが明らかになったと書いてありました。いか墨、料理に使わない手はありません。

新鮮なスルメイカとワタを使おう 

 数年前の発酵食品ブーム(塩麹や甘酒など)で発酵食の美味しさに目覚め、いつかは作ってみたいと憧れていた、いかの黒作り(いかの塩辛)。レシピを探しても公的機関が発表している(できれば富山県関係)のレシピがなく困りました。そこで今回は他県ですが能登でいかの加工品を販売している業者「カネイシ」HP「プロが教える!イカの塩辛の作り方」を参考にしました。写真もあって非常に分かりやすいです。いかの黒作りは、この塩辛づくりの最後でいか墨を混ぜれば出来上がりです。

 いかワタは身から外すときに破らないように注意しながら剥がして、ワタについている細長い墨袋もワタから外しておきます。墨袋は塩漬けにはせず、最後に使うのでとっておきます。次にワタを脱水させるために塩に漬けます。塩をふってキッチンペーパーに3時間から一晩漬けます。いかの身も洗い、数時間から一晩つるして半干しにすると水分が抜けて水っぽくならないとあったので、私も4時間くらい台所に吊るしておきました。足部分は食感が悪いためエンペラと身の部分を黒作りに使います。半干しが終わったエンペラや身を塩でもみ、脱水したワタの中身を取り出して墨袋の墨も入れてよく混ぜます。1日1回かき混ぜて、1週間程度で完成です。
 今回調理したスルメいかの墨袋はいか二杯分(二匹)なのですが、墨の量は多くなかったので黒作りというよりは灰色(グレー)作り程度の見た目となりました。しかしながら、いか墨の香りが強くなくて食べやすい塩辛となりました。手作りのいかの黒作りは市販品よりも塩分がきつくなく、まろやかさがあって抜群のうまさです。

 いかの塩辛はもともと漁船に乗った人が作って食べた保存食ですが、作る際にはいかの鮮度がものをいいます。新鮮ないかのワタが手に入らなければ美味しい塩辛は作れないからです。いか墨はがんや腫瘍抑制効果があることも分かりましたし、作り方も簡単ですのでご家庭の常備肴としてぜひ作り置きしておきましょう。栄養も食べ応えもとてもリッチで家族に好評でした。わが家ではアッという間になくなってしまいました。

〈2019. 03. 07.〉

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