P4 2 上左:1952年十勝沖地震津波で市街地に打ち上げられた流氷、右:高台に避難する住民 - 厳冬期の大規模災害に備える

厳冬期も“がまんさせない”避難所をめざして

南海トラフ、首都直下被害想定に“寒冷という上乗せリスク”
――地域社会で災害像の共有を

P4 1 冬期にも津波を伴う地震が発生 - 厳冬期の大規模災害に備える
冬期にも津波を伴う地震が発生し得ることは想定に入れなければならない。北海道周辺において過去200年間に発生したマグニチュード6以上の地震41回の内、16回が冬期(12月〜3月)に発生し、その内6回は津波を伴う地震であった。このことから、冬期にも津波を伴う地震が発生していることが分かる。出典:『理科年表(国立天文台編)2012年」等を基に作成、北海道周辺における過去200年間の地震・津波の発生状況(M6以上) (北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策検討会」報告書より)
P4 2 上左:1952年十勝沖地震津波で市街地に打ち上げられた流氷、右:高台に避難する住民 - 厳冬期の大規模災害に備える
上左:1952年十勝沖地震の被災状況(浜中町霧多布)より、市街地に打ち上げられた流氷、右:高台に避難する住民(出典:浜中町役場提供)(北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策検討会」報告書より)

 日本海溝・千島海溝地震について2022年9月に防災対策推進基本計画が見直され、積雪寒冷地の課題への対応など内容が拡充されたのにあわせて、先ごろ、道の地域防災計画が修正された。具体的には、冬季に千島海溝や日本海溝で巨大地震や津波が起きた場合に備えて、防寒機能を持つ避難所への2次避難も想定したハザードマップの作成や、緊急輸送道路、避難所へのアクセスの道路の優先的な除雪体制の確保、また厳しい寒さや大雪となった場合の高齢者や障害者など要援護者の安否確認や、除雪支援体制の整備などが盛り込まれている。

 いっぽう、旭川市で去る1月25日、厳冬期に災害が発生したという想定で避難所での生活を体験する訓練が行われた。これは旭川市が隔年で行っているもので、市民およそ20人が参加した。旭川市は内陸部に位置し、津波被害は想定されていないが、厳しい寒さが想定されるところから避難所運営上の困難が想定されるところだ。

●厳冬期の避難所運営、“雪氷津波”対策の困難さへの想像力を

 2021年12月、国は北海道から東北沖の巨大地震の発生に伴う被害想定を公表した。日本海溝・千島海溝の2つの地震によるもので、積雪で避難が遅れる冬の深夜に発生した場合、死者数は最大19万9千人とされ、東日本大震災の被害をはるかに上回る想定となっている。言うまでもなく、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震想定と異なるのは、「低体温症要対処者」や「凍結時における津波による死者」など、厳冬期の発災が想定されていることだ。地震想定地域である東北・北海道は、10月下旬には最低気温がひとけたとなり、3月までその寒さが続く。すなわち1年の半分は、災害対策に寒さ対策が必要ということになる。

北海道:厳冬期における避難所環境検証結果

 北海道に限らず日本海側の豪雪地帯などでも、厳冬期に大規模な津波が発生すれば、東日本大震災で見られた津波漂流物(車やがれきなど)に加えて雪氷・流氷も押し流され、建物への被害はもとより、降雪、道路凍結のもとでの住民避難行動(徒歩、車での避難、とくに高齢者、要援護者の避難)が困難となるのをはじめ、避難場所での暖房の確保や支援物資の受入れなど、積雪寒冷地特有の対応課題が浮上する。
 この100年余で、北海道周辺では冬の津波が来て被害を受けた事例が少なくとも4例(1894年、1923年、1952年、2011年)あった。このうち、1952年3月の十勝沖地震では、浜中村霧多布地区(当時)で津波とともに流氷が市街地に押し寄せ、家屋が破壊されるなどの被害が発生、積雪や低温のため高台への避難は困難を極めるという複合災害で、避難所運営の困難さも推して知るべしであった。
 2013年3月にまとめられた北海道開発局「雪氷期の津波沿岸防災対策」報告書は、雪氷期特有の“上乗せリスク”は、「施設被害の拡大」、「避難行動の遅れや阻害」、「啓開・復旧活動の遅延」とした。これらに対応するためには、ハード対策は「防護ラインをレベル1津波(M8クラスの地震・津波)に対応した整備水準とする」、ソフト対策は「雪氷期特有の上乗せリスクを周知し、早期避難の啓発等の推進」、「雪氷期特有の物理現象に関する研究の推進」、「発災後の啓開・復旧体制の構築」が重要とし、これらを総合的かつ着実に推進し、地域防災力の向上を図ることが肝要だとしている。

国土交通省北海道開発局:「雪氷期の津波沿岸防災対策の検討」報告書

 厳冬期の避難所運営、“雪氷津波”対策の困難さは想像力にかかわる。市街地に滞積し凍結した雪や瓦礫の撤去作業、救護活動や消火活動、支援物資輸送の支障、そして被災地支援全般の大幅な遅延など、さらに、どのような“想定外”が発生するか、地域社会での災害像の共有が求められる。
 とくに、避難所運営においては、究極的には避難者・被災者に「がまんさせない」避難所生活をめざして、あらゆる想定に想像力を駆使したいところだ。

P4 3 ウォレット社HPより「厳冬期避難所展開・宿泊演習2020に今年も参加」 - 厳冬期の大規模災害に備える
移動式トイレ販売会社・ウォレット社HPより「厳冬期避難所展開・宿泊演習2020に今年も参加」

〈2023. 01. 29. by Bosai Plus

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