取り返しのつかない
ティッピング・ポイント(転換点)に達するリスク、
高まる――「オーバーシュート 抑制を!」
■ ネパール外相、土石流遠因として、温室ガス排出大国の中米印に補償要求
2026年8月26日朝(ネパール現地時間、日本時間同日昼)は、世界の災害史上特異な日付として後世に記録されるだろう。
ネパールを流れるトリシュリ川上流域の沿岸72kmの区間で発生した大規模な鉄砲水と土石流の原因となった地質学的事象は、ヒマラヤ山脈のランタン・リルン山で発生した氷河崩壊と考えられており、世界各地の地震計でMs5.2に達する揺れが観測された。この鉄砲水と土石流での人的被害は死者1300人以上、行方不明者5000人以上(9月14日時点)とされ、物的損害はネパール、中国両国で、水力発電施設、住宅、橋、道路、ダム、企業、および政府機関などの崩壊が報道されている。
報道によれば、この未曾有の大災害を受けたネパールのカナル外相は、土石流の遠因に気候変動があるとし、温室効果ガス排出量の上位3カ国である中国、米国、インドに対し補償を求める考えを示し、「気候補償請求書」を正式に送付したという。
気候変動研究の専門家によるネパール高山地帯での温暖化による災害リスクの増大を指摘する声は高まっている。このまま温暖化が続けば、氷河の大半は30年ほどで氷河湖に変わり、そのうち20カ所以上は、決壊によって下流域に甚大な被害をもたらす恐れがあるという。
ネパールが単独で温暖化による災害リスクに取り組むのは困難で、隣接する中国とインドのみならず、地球規模の問題であることが明らかになりつつある。
● オーバーシュートは避けられないが、その影響を最小限に抑えつつ……
ネパールでの大規模土石流災害の被害情報が拡大更新される最中の9月2日、国連環境計画(UNEP)は報告書「Limiting Overshoot: Navigating exceedance of 1.5°C and pathways towards return」を発表。
UNEPは、毎年、世界の温室効果ガス排出量の現状と、パリ協定の1.5℃目標の達成に必要な削減量との「ギャップ」を評価・比較する「Emissions Gap Report(排出ギャップ報告書)」を発表しているが、同報告書は、1.5℃を一時的に超える“オーバーシュート”は事実上避けられないとし、その影響を最小限に抑えて再び1.5℃以下に戻すための道筋を示した報告書となっている。
報告書は、各国が現在の国別削減目標(NDC)などを完全に履行する最も楽観的なシナリオでも、気温の上昇のピークは約1.8℃に達すると推計。現状の政策のまま推移した場合は、2100年までに約2.6℃の上昇が見込まれている。

1.5℃を超えると、海面上昇、熱波、干ばつ、洪水、生物多様性損失の劇的な増加に直面し、地球の熱バランスを保つ機能を果たす大西洋子午線循環(AMOC)やアマゾン熱帯雨林において、取り返しのつかないティッピング・ポイント(転換点)に達するリスクも高まる。とくに小島嶼国への影響が大きいことが指摘されている。
また、報告書は被害を最小限に抑えるためには、一度1.5℃を超過したとしても、今世紀末までに1.5℃未満に引き下げる「超過・ピーク・低下(overshoot, peak and decline)」経路に乗ることが必要としている。

● 日本の気候変動政策は大きな後れ 将来世代に誇れる地球環境政策を
報告書は化石燃料からの脱却、そして再生可能エネルギーによる解決が重要とし、2030年までに世界全体で60〜70%の電力を再生可能エネルギーで賄うことを提案。いっぽう、気温上昇を抑えても海面上昇、氷床の崩壊、アマゾンの熱帯雨林の減少、サンゴ礁の死滅など不可逆的な損害は依然として残るとしている。
そして、気候変動の影響や災害の被害は排出量が少ない発展途上国や脆弱な地域に重くのしかかる。まさに冒頭のネパール外相のように、報告書も温室効果ガス排出量上位国に補償を求める「気候補償請求書」発行の現実味を示すかのようだ。
しかるに、わが国の気候変動政策もまた、大きな後れをとっている。日本は、将来世代に豊かな地球環境を引き継ぐべく、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行に取り組む姿勢を国際社会に示すべきである。そして世界は協調して、地球の脱炭素化と気候変動対策への投資をより確実に進めなければならない。

UNEP日本語情報サイト:UNEP報告書エグゼクティブ・サマリー
〈2026. 09. 17. by Bosai Plus〉


