コンサート形式で行う避難訓練
国内有数の規模で実施
事前応募の一般来場者と車いす利用者を含む約600人が参加
八王子市民会館共同事業体が主催、
消防署、防火防災協会、海上自衛隊東京音楽隊、大学等多機関が連携
本紙特約記者:関町佳寛がリポート(写真も)
8月26日、J:COMホール八王子で「第13回 避難訓練体験コンサート」が開催された。



○訓練の流れと連携の仕組み:
訓練は、演奏開始前に館長より大規模施設ホールでの地震時の身を守る行動ほか施設の安全性・避難時の注意事項概要説明があり、海上自衛隊音楽隊は本来なら避難者の支援にあたるが今回は参加者の避難行動調査を兼ねているので誘導支援せず、退出する旨の説明。自らの行動と限られたスタッフの誘導支援で参加者の避難行動を検証する。
○訓練体験:
コンサートを十分に楽しんだ終盤に、大音響と光点滅で大地震を体験、防災センターの警笛音に緊張する参加者は詳細確認中のアナウンスによりその場で待機を指示されるが、すぐ火災発生による延焼の恐れから、待機から避難開始の指示が出される。
プロの生演奏がホールに響き、歌手の歌声に魅了されるなかで、訓練の視覚的・体験的な不条理性と現実性が一気に明らかになる――十分演奏を楽しんだ後半に地震の合図が入って演奏が突然止まるという非日常的な体験。実際の大地震発生時も、その場の状況、都合におかまいなく、空気が一変するという緊張感ある訓練コンサートだ。

地震発生の合図と同時に、コンサート会場ステージ上のスタッフが「落ち着いて、その場で頭を守ってください」と音声案内、地震による身を守る大きな図がスタッフにより掲示されたのは、音声が不調な場合に備えたものだ。防災センターのアナウンスにより地震の詳細情報が入る。建物は安全なので次のアナウンスまで待機の指示。
舞台付近で火災が発生し消火中のアナウンス。消火中に会場内に煙が拡散し、延焼の恐れからスタッフの誘導により避難開始の指示。参加者はそれぞれ直近のドアから避難開始、避難口より廊下,階段を利用して5階から1階まで廊下階段をおり、出口から外の広場へ出て避難訓練体験は終了。広場では参加者のアンケートを収集。希望者は放水体験、煙体験もできた。


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● コンサート会場での緊急避難行動の検証
多様な人びとが同じ条件で避難する経験
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今回の訓練の特徴は、実際のコンサートに近い環境で、多数の参加者の避難行動を検証できる点にある。早稲田大学と東北工業大学の研究室では、劇場からの避難行動や誘導方法、災害時の人間行動などについてデータを収集・分析している。
過去の訓練では、特別な指示がない場合、参加者が最短距離の出口に分散して避難する傾向が確認されたという。この結果を踏まえ、避難者の自然な行動を尊重しながら、混雑状況に応じて誘導することが課題となっている。
いっぽう、車いす利用者や歩行に支障のある高齢者など、避難に支援を必要とする人への対応には、なお検討すべき課題がある。施設側では、要配慮者の避難経路や対応方法の見直し、車いす用スロープの改善などを進めている。
車いす利用者および支援のサポーターの声からは、今回の訓練で参加者は皆落ち着いて避難ができたが、実災害時では混乱し、車いすを含めると120kgにもなる障害者をスロープなしの会場で避難させることはかなりむずかしく、障害者のみを担架で避難させるにも6人が必要とのことで、今後の大きな課題だ。
海上自衛隊音楽隊は単なる出演者ではなく、訓練のリアリティ向上、防災研究の観点からも重要だ。本来、災害時には避難誘導にあたるが、今回は訓練なので参加者の誘導支援はせず退出した。実際のコンサート環境を演出することで参加者の注意力散漫状態が確認できたとの声も。
坂井誠治・八王子市民会館館長は、災害時には「今起きていることを正確に伝えること」また、「スタッフ自身が落ち着いて行動し、来場者の混乱を抑えること」が重要だと指摘、さらにコンサート訓練の重要性について次のように述べる――
「毎年、条件を変えながら訓練を続けることで、スタッフの対応力も向上している。連携大学による分析では、扉の開閉や避難経路の選択など、施設側だけでは気づきにくい課題も明らかになっている。避難訓練コンサートは、単に『避難する方法』を学ぶだけの訓練ではない。実際のコンサートに近い環境で、突然の災害情報を受け、周囲の人とともに行動することで、参加者自身が災害時の行動を具体的に考え、体験する機会となっている。また、障害のある人、高齢者、外国人など、多様な人が同じ場所で避難する経験は、要配慮者への支援や、参加者同士の助け合いについて考えるきっかけにもなる」

今回の訓練で得られたデータや知見は、今後、同施設の避難計画だけでなく、同様の大規模施設における避難計画や防災対策の検討にも活用されることが期待される。
「実際の災害時に近い状況で、人はどのように動くのか」――その答えを現場で確かめる避難訓練体験コンサートは、施設防災と市民参加型防災を結び付ける取り組みとして、今後のさらなる展開が注目される。本紙としても今後の避難訓練体験コンサートの試みに注目していきたい。

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● 早稲田大学・東北工業大学の研究室が連携 学術的知見の収集
市民の訓練と同時に、運営スタッフのスキル向上にも大きな貢献
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J:COMホール八王子でのコンサート訓練事例では、早稲田大学・東北工業大学の研究室が連携し、避難行動の分析 ・大規模施設の誘導設計 ・災害時の人間行動などの研究データを収集している。今回の研究テーマとしては、大型ビルの中高層階にある劇場からの実践的な避難行動を調査・分析。実施主体はJ:COMホール八王子だが、コンサートの最中に地震・火災が起きて避難するという実践的な取り組みは大変重要かつ価値のある試み。
また、中高層階の大規模集客施設には、安全な避難計画・誘導が求められ、同ホールは毎年訓練を行なっており、適切な対応が行われているが、高齢社会でコンサートホールの高齢者利用も増えているため、さらなる安全対策の検討が必要。
建物は安全に設計されていることを避難者へ周知徹底し、慌てず速やかに避難する誘導を行う。階段での避難が困難な人については、自衛消防隊による救助や、安全が確認されれば非常用エレベータの利用なども検討。
過去の検証でうまくいった点と反省点は、避難者は特別な指示をしない場合、最短距離の出口に分散して避難するのでこれに合わせて誘導。車いす利用者や歩行に支障のある高齢者の避難計画は未確定な部分が多く、健常者と別の方法で避難する必要など。今後、同施設にとどまらず避難計画や公的なガイドライン等への提案を予定。
大規模集客施設での災害時避難訓練が毎年実践されていることは高く評価できる。また、市民に向けた訓練と同時に、運営スタッフのスキル向上にも大きな貢献となっている。実践的な劇場避難訓練、研究事例は国内外でも少なく、国際的にも高く評価されている。
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● ビル防災センター、消防署との連携は最重要
「八王子駅周辺滞留者対策推進協議会」との連携も
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以下、坂井誠治・八王子市民会館館長の総括とりまとめを記録しておく。
1:施設運営の危機対応力から過去の訓練データの改善点
○ホール後方扉からの避難者が少ないので状況を見て空いている出口へ誘導
○要援護者の避難経路と対応を再検討
○車いす用段差スロープ幅の改善
2:地域連携の強化
〇ビルの防災センター、消防署との連携が最重要
〇「八王子駅周辺滞留者対策推進協議会」で周辺施設、企業、自治会などと連携
3:想定される参加者が得られる防災知識(リテラシー)について
〇ホールという特定の場所で、ある程度の緊張感を持って非常時の流れを体験
〇同時に消火器操作やAED体験等、展示を通して一般的な非常時の対応もお伝えする。
4:障害者・高齢者・外国人など要支援者向けの施設側の対策
〇「八王子障害者団体連絡協議会」に参加協力を依頼。高齢者(フレイルシニア)についても状況により、安全な場所で一時待機してもうなど対応を検討中。多言語情報伝達については、基本的なアナウンスの合間に、適宜英語でのコメントを入れている。

【 訓練を通じて得られた 関町特約記者の知見 】
〇避難訓練コンサートの参加者が得る「行動科学的メリット」
災害時に“実際に動ける人”へと変わるための心理・行動の変化で、通常の講義型防災では得られない効果。行動科学の研究でも「体験型防災は行動変容率が高い」とされる。
〇“集団で避難する経験”は、実災害時の行動率を大きく上げ、災害時に“迷わず動ける人”になる。災害時、人は周囲の行動に強く影響される同調行動をとるが、避難行動を体験すると「避難は怖いものではない」「やってみたら意外とできる」という心理的安全性の向上感情が生まれ、不安が減ると災害時の行動率が上がる。
〇弱者支援の視点が育つ(共助行動の活性化)
避難訓練コンサートには、車椅子利用者、高齢者、外国籍の参加者など、多様な人が参加する。これらの弱者と共に避難行動が共助行動を活性化する
〈2026. 09. 03. by Bosai Plus〉
