防災という分野はない。すべての分野に防災がある。
● 今年度創設「防災庁」が目指す防災DX構築のリーダー・臼田裕一郎氏が監修

国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED/以下、「防災科研」)の社会防災研究領域長、総合防災情報センター長/防災情報研究部門長である臼田裕一郎氏が監修した『防災立国実現を目指して To build a disaster-resilient nation』がこのほど、時評社から刊行された。副題には「防災DX推進に向けた取り組み、その現状と今後の展望」とある。
『防災立国実現を目指して』とあるのは、臼田氏は防災科研にあってわが国の防災DX(デジタル・トランスフォーメーション)を牽引してきたリーダーであり、本年度に創設が予定されている「防災庁」が目指す防災DX構築の中心的存在となる研究者でもあるからだ。
本書は学術研究書ではなく、手に取りやすい260ページのペーパーバック版で、定価2640円(税込み)。
全体構成は、臼田氏が監修者として巻頭言を担当、ほかは、「霞が関の取り組み」として、内閣官房/内閣府/デジタル庁/総務省/経済産業省、「先進自治体の取り組み」として、岩手県/神奈川県/石川県、「先進企業の取り組み」として、NTT東日本/ウェザーニューズ/構造計画研究所/西菱電機/ゼンリン/日本電気/パスコ/富士通Japan/富士フイルムシステムサービス、「有識者に聞く」として、ひょうご震災記念21世紀研究機構/防災科学技術研究所の各担当者が執筆している。
ほかに「資料」として、災害対策基本法/防災立国推進に向けた基本方針/防災庁設置法案 及び防災庁設置法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の概要、となっている。

● 防災の主流化・日常化の“通奏低音”――「防災という分野はない。全ての分野に防災がある。」
政府が進める防災庁創設とその役割に向けた議論の場として、2025年1月にアドバイザー会議が発足した。臼田氏も委員として参加し、6月には報告書が公表された。
報告書では「産官学民の連携」の語句が頻繁に登場し、政策の柱として位置づけられた。2025年末に閣議決定された「防災立国の推進に向けた基本方針」でも、同連携への言及は強調され、国の防災政策が従来の行政主導から、多様な主体が協働するモデルへ転換しつつあることが示された。そうした動きのなかで、防災科研やAI防災協議会、防災DX官民共創協議会(BDX)などが中心となり、防災政策と産業育成を結びつける取り組みが進む。

その中心的役割を担うのが、会員576(自治体120、民間456)に拡大したBDXだろう。自治体部会や市場形成部会、災害対応部会など複数の部会が設置され、デジタル庁や内閣府、防災庁準備室とも連携しながら、アプリ利活用、データ連携基盤、避難所運営の標準化など、実務に直結する課題に取り組む。能登半島地震では、BDXのメンバーが現地入りし、避難者情報のデジタル化や被災者データベース構築を支援した。
臼田裕一郎氏は「防災は特定の部署の仕事ではなく、社会全体の共通機能として組み込まれるべきだ」とし、「防災という分野は存在しない。すべての分野に防災がある」の金言=キャッチコピーを打ち出した。防災の主流化・日常化に新たなトレンドの誕生だろう。
本書もまた、行政、企業、教育機関、地域コミュニティが日常業務の延長として災害対応を担える社会こそ、目指すべき姿だとする。防災庁創設はそのための制度的基盤となる。
デジタル技術を軸に、産官学民が情報でつながり共創する社会の実現――防災士は地域防災を支える一翼であり、本書は「産官学民連携・防災DX」の理解に向けてオススメだ。

〈2026. 05. 07. by Bosai Plus〉

