「前弧地震帯」は
巨大地震と直下地震の両方に関わる「水みち」
東京大学地震研究所・内田直希教授―
「AIで自動的に高精度の震源決定ができる」…
編集部:本記事は、国立研究開発法人科学技術振興機構の科学技術最新情報を届ける総合Webサイト「Science Portal(サイエンスポータル)」からの引用・サマリー紹介です。
●「前弧地震帯」を発見――海底地震観測網 約4年分のデータをAIが深層学習

北海道から関東で沈み込む太平洋プレートから上に伸びる新たな地震帯である「前弧(ぜんこ)地震帯」を東北大学と東京大学などのグループが見つけた。海底地震観測網の約4年分のデータをAI(人工知能)で深層学習することで、東日本太平洋の沖合で従来わかっていた約6倍の数の地震を検出した。
2011年東北地方太平洋沖地震を機に、150点の地震計をケーブルで結んだ広域定常地震観測網「S-net」の運用が2016年に始まり、地震活動を震源の真上でとらえられるため、東北大学准教授だった東京大学地震研究所の内田直希教授(地震学)は、AIで自動的に高精度の震源決定ができると考えた。
AIの深層学習で得たモデルを用いて、58万7585件の震源情報を得、これまでにわかっていた震源情報と比較したところ、S-netが広がる地域の陸や陸に近い地域では1.2倍、沖合の地域では5.9倍の地震があった。従来よりも小さい地震を感知でき、沖合での震源の深さの精度が上がったという。

明らかにした地震の分布を解析し、北海道、青森、岩手、宮城、福島県の太平洋沿岸海域から関東地方の下で、深さ約35〜75kmにあるプレートから上に伸びる場所で地震が活発に起きていることを発見。海溝から日本列島の火山が並ぶ「前弧」地域において帯状に地震活動が集中しているように見えることから、内田教授らは「前弧地震帯」と名づけた。
前弧地震帯では、プレートから抜けた水がプレート境界をゆっくり滑らせて巨大地震の拡大を食い止めるいっぽう、地表近くまで上昇した水が直下型地震を起こす可能性がある。今後、地震活動の分布など特徴や水の役割をより詳細に明らかにすることで、巨大地震や直下型地震の分布や発生メカニズムの理解が深まると期待できる。
この前弧地震帯を構成する地震の震源は、地下の浅い場所から深い場所にかけて(1)沈み込む太平洋プレートより浅い部分、(2)太平洋プレートの境界部分、(3)太平洋プレートの地殻(スラブ地殻)――の3領域に分かれていた。
プレートから水が出ると、プレートの上にある岩盤との間に入り摩擦が減ることから、揺れを感じない程度にプレートがゆっくり滑る「スロースリップ」が起きてプレート境界型の巨大地震が起きなくなっていると考えられる。いっぽう、プレートからの水が更に上昇すると、今度は浅い断層に入り込む。そうすると、断層面の隙間に入って摩擦が減り、直下型地震を起こしやすくしている可能性がある。
今回見いだした「前弧地震帯」は巨大地震と直下型地震の両方に関わる「水みち」だと内田教授はしており、将来発生する地震の範囲や規模を想定する手がかりとなるという。

東北大学:「プレートから上昇する水が巨大地震の破壊拡大を止め、直下型地震を引き起こす?」
〈2025. 10. 06. by Bosai Plus〉