SNS拡散・異質排斥傾向時代
フェイク・流言飛語は危険な“飛来物”
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関東大震災から102年―9月1日「防災の日」 本紙の視点
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1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災から、この9月1日は102年となる。毎年「防災の日」と制定されたこの日の前後には、各地で次の大規模災害に備える防災訓練や多くの防災啓発イベント、教訓をめぐる論考が社会、メディアをにぎわす。本紙も関東大震災には特別な視点からほぼ毎年、「防災の日」にこの大震災を取り上げてきた。
なかでも、2008年3月に公表された中央防災会議・災害教訓の継承に関する専門調査会報告書『1923 関東大震災』については、近代から現代に至るわが国の災害教訓としてもっとも重要な報告書のひとつとして位置づけている。そして、報告書が特記事項のひとつに挙げた「流言による被害の拡大」という側面は、現代日本にとって同時代の教訓として、永続的に記憶・記録・内容を更新し続けるべき“トゲ”だと言わざるを得ない。
関東大震災は「関東大地震」の通称で、相模湾を震源とする地震(M7.9から8.3までの推定)が関東地方を中心に激しい揺れをもたらし、建物の倒潰や流出、崖崩れ、東京市や横浜市など都市部の延焼により、10万5千人に及ぶ死者・行方不明者、200万人を超える住居焼失者を生み出した巨大災害である。
報告書は「1923 関東大震災【第2編】」での冒頭、「地震によって発生した火災が被害を拡大し、広い範囲での交通機関、上水道、電力、通信、橋梁など社会資本の機能喪失が人びとの生活を脅かし、流言による殺傷事件も生じるなど、いまなお関東大震災以外に参照すべき事例がない事象も多く、災害教訓として重要」としている。
本紙は、8月16日付けで東京都の「TOKYO強靭化プロジェクト Upgrade I」を取り上げ、都が華々しく打ち上げるキャッチフレーズ、「世界で最も強靭な都市東京」が“安全神話”になってはならないと、あえて苦言を呈した。折しも、国(中央防災会議・首都直下地震対策検討ワーキンググループ)は、首都直下地震の被害想定をおよそ12年ぶりに見直し中で、早ければこの9月中に公表予定だ(能登半島地震の発生で2024年度中のとりまとめ予定が遅れているとのこと)。同ワーキンググループは、被害を10年間で半減させるとした防災対策の基本計画の進捗状況を検証、新たな被害想定と今後の対策を盛り込んだ報告書をまとめる。
首都直下地震対策検討ワーキンググループのこれまでの議事録の経緯・経過を散見して注目されるのは、前回の想定時から変貌しつつある「都市構造の変化」だ。人口の東京一極集中、湾岸地区などで相次ぐタワーマンションの建設、そして急増し、かつオーバーツーリズムとして定着しつつある訪日外国人に対する多言語での防災情報発信、さらにはわが国の高齢化・少子化を背景とする“労働人口確保政策”として拡大する在留外国人との“防災共生”などの課題・テーマも見逃せないのだ。
内閣府(防災担当):首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2023年~)
ちなみに本紙は、東京都が関東大震災から100年の節目となる2023年度からの10年間で総額6兆円を投じて整備を進める「強靭化プロジェクト」(前述)に、こうした都市構造の変化への言及がないこと、また、近年のSNSに見られる“偽情報”の拡散の問題、そして直近の参院選挙で加熱傾向で話題になった「排外主義」が、関東大震災での朝鮮人虐殺に通じる危険な徴候・潜在リスクになってはいないか、その対策は……など、疑問を問い合わせたが、「都の防災担当」からは、これらの課題は今回の「強靭化」の対象外だとし、回答は得られなかった。
そして、都防災の最高責任者である小池百合子都知事すらも、関東大震災での流言被害の結果としての朝鮮人などの“異邦人虐殺”という歴史的事実さえも肯定することをためらうのは理解しがたい。
流言は災害時には「危険な飛来物」である。関東大震災の流言被害はより現代的な意味を持ち始めたと言え、AI時代となったいま、永久的に更新されなければならないテーマとなった。意図的であろうが、結果的であろうが、災害時の“フェイクニュース、ニセ情報・画像、誤情報”などの真偽を見極める対策への努力が行政には求められている。
本稿最後に、本紙バックナンバーから関東大震災関連特別企画の数例をあげておく。
本紙 2023年8月29日付け:関東大震災100年。特集/「周年災害」がひも解く大震災と防災
本紙 2023年1月6日付け:関東大震災100年 災害史上最悪の教訓
本紙 2022年9月7日付け:関東大震災から99年 わが国災害史上最悪の教訓
〈2025. 09. 01. by Bosai Plus〉