P1 特集:令和6年能登半島地震を踏まえた防災体制の見直し 640x350 - 2025防災白書<br>「場所から人」支援の転換

わが国の防災体制の集大成―防災白書 2025
災害対応の”パラダイムシフト”(価値観の転換)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「防災白書」とは―わが国の防災施策と今後の対応のとりまとめ
令和6年能登半島地震・豪雨の反省から、被災者支援思想の転換へ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

P1 特集:令和6年能登半島地震を踏まえた防災体制の見直し - 2025防災白書<br>「場所から人」支援の転換
2025年版防災白書「特集」は「令和6年能登半島地震を踏まえた防災体制の見直し」

 政府は去る6月13日の閣議で、2025年版防災白書を決定した。防災白書とは、政府が防災について行った施策の記録をとり、今後なにを行おうとしているかを国会に報告するための法定報告書。2025年版防災白書では、「特集」を「令和6年能登半島地震を踏まえた防災体制の見直し」とし、「第1章 令和6年能登半島地震等の概要」、「第2章 令和6年能登半島地震を踏まえた防災対応の見直し」の構成となっている。

 なお、「特集」は白書の“巻頭企画”であり、全体構成は、「特集」に続いて、第1部「わが国の災害対策の取組みの状況等」(災害対策に関する施策の取組み状況、原子力災害に係る施策の取組み状況、令和6年度に発生した主な災害)、第2部「令和5年度において防災に関してとった措置の概況」(法令の整備等、科学技術の研究、災害予防、国土保全、災害復旧等、国際防災協力)、第3部「令和7年度の防災に関する計画」(科学技術の研究、災害予防、国土保全、災害復旧等、国際防災協力)となっている。
 豊富な資料・データを活用できるので、防災にかかわる私たち民間にとっても、貴重な公的資料ともなっている。

内閣府 防災情報のページ:令和7年版防災白書

 本稿では、2025防災白書より、「第2章 令和6年能登半島地震を踏まえた防災対応の見直し」について、“見直し”を試みた。ちなみに、特集タイトルは「令和6年能登半島地震を踏まえた防災体制の見直し」であり、「防災体制」が第2章では「防災対応」となっている。
 「防災対応の見直し」でとくに、“被災者支援のパラダイムシフト”としての「場所から人への支援の転換」に注目した。

P2 1 「能登半島地震」と他の地震災害における被害状況等の比較 - 2025防災白書<br>「場所から人」支援の転換
「能登半島地震」と他の地震災害における被害状況等の比較(2025 防災白書より、以下同様)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「どこにいても 被災している人」すべてを支援
「本気の事前防災」は、防災士にとっても当然「自分ごと」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 従来の災害対応では、「避難所という“場所”を中心に支援を展開」してきたが、能登半島地震では、次のような現実が浮き彫りになった。

・ 避難所以外(自宅・車中泊・親戚宅・ホテル等)で避難生活を送る人が多数存在
・ 高齢者や障害者など、避難所に移動できない・したくない人も多い。
・ 避難所に集約された支援では、支援が届かない人が発生する。

 このため、「避難所にいる人」だけでなく、「どこにいても被災している人」すべてを支援対象とするという考え方への転換が求められるのだ。

 国は中央防災会議のもとに「令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応検討ワーキンググループ」を令和6年6月に設置し、同年11月にその報告書をとりまとめた。
 報告書は今回の災害の特徴を踏まえた災害対応の方向性として各種防災対策の強化に加えて、とくに「災害対応や応援体制の強化」、「避難生活環境の整備等の被災者支援強化」、「NPOや民間企業等との連携の強化」、「事前防災や事前の復興準備、復旧・復興支援の推進」といった災害対応の強化に取り組むこととした。そのうえで、今後の基本方針として――

①被災地の地理的特徴や社会的特徴を踏まえた災害対応、応援体制の強化
②高齢化地域の災害関連死防止のための避難生活環境の整備等の被災者支援強化
③NPOや民間企業等との連携強化
④将来の人口動態等を踏まえた事前防災や事前復興準備の推進

P2 2 令和6年能登半島地震死者の死因別及び年代別一覧 - 2025防災白書<br>「場所から人」支援の転換
令和6年能登半島地震死者の死因別及び年代別一覧
P2 3 災害関連死と認定された方の死因 - 2025防災白書<br>「場所から人」支援の転換
災害関連死と認定された人の死因

 また、人口減少・少子高齢化の進行やニーズの多様化でより厳しい被害様相となることを想定し、あらゆる主体が総力戦で災害に臨む必要がある、とした。
 具体的には――

  1. 在宅避難者・車中泊避難者への支援強化
     食料・水・トイレ・入浴支援などを避難所以外の場所にも届ける体制を構築
      例:キッチンカーやトイレカー、移動式入浴車の活用
  2. 避難者情報の把握と可視化
     避難所にいない人の情報を把握するため、避難者台帳の整備・共有を推進
     広域避難者や自主避難者も含めたデータベース化
  3. 避難生活支援コーディネーターの配置
     避難所に限らず、地域全体の避難生活を支える支援人材の育成と配置
     医療・福祉・生活支援の専門家がアウトリーチ型で支援を行う体制づくり
  4. 「災害ケースマネジメント」の導入
     一人ひとりの被災状況やニーズに応じて、個別に支援を設計・調整
     とくに高齢者・障害者・子育て世帯など、多様なニーズに対応する仕組みづくり

 直近の災害救助法の改正で「福祉サービス」が救助の一環として明記された。また、NPO・ボランティア団体の事前登録制度も創設され、避難所外での支援活動を制度的に支援できるようになる。そして、防災DX(デジタル化)で、避難者の位置情報やニーズをリアルタイムで把握・共有することも可能になりそうだ。

P2 4 降水量の期間合計値(2024年9月20日~9月22日) - 2025防災白書<br>「場所から人」支援の転換
降水量の期間合計値(2024年9月20日〜9月22日)
P2 5 2024年9月20日からの大雨による被害状況 - 2025防災白書<br>「場所から人」支援の転換
2024年9月20日からの大雨による被害状況

 こうしたパラダイム・シフト(ここでは「これまでの防災の固定観念の転換」)は単なる技術的な改善ではなく、また“悲運の被災者の支援”ではなく、「国民のだれもが被災者になり得る日本」で、「誰一人取り残さない」支援のあり方を、そして、被災者の「尊厳・人権」を実現するための根本的な思想の変化だ。
 現政権がめざす「防災立国」に向けて2026年度「防災庁」設置構想が具体化するなか、“本気の事前防災”がいよいよ試される。もちろん、防災士も、“自分ごと”である。

P2 6 防災庁設置準備アドバイザー会議の様子 - 2025防災白書<br>「場所から人」支援の転換
防災庁設置準備アドバイザー会議の様子

〈2025. 07. 03. by Bosai Plus

コメントを残す