「空飛ぶ避雷針」で、
フランクリンの凧の避雷針と“ライデン瓶”、現代に蘇るか!
● 落雷から人命、インフラ設備を守る「空飛ぶ避雷針」
先ごろ、奈良市にある学校のグラウンドに雷が落ち、部活動をしていた中学生と高校生6人が病院に搬送されるという雷災害があった。
雷は、積乱雲の位置次第で、海面、平野、山岳など場所を選ばず落ちる。また、雷は周囲より高いものほど落ちやすいという特徴があり、グラウンド、平地、山頂、尾根など、周囲の開けた場所にいると、積乱雲から直接人体に「直撃雷」を受けることがあり、直撃雷を受けると約8割の人が死亡する災害だ。
温暖化を背景に気象災害の激甚化傾向が顕著で、落雷での人的被害はもとより、インフラ被害、デジタル機器の普及による通信・ネットワーク被害などの増加傾向が危惧される。
ベンジャミン=フランクリンが1752年、雷雨のさなか、針金をつけた凧を揚げたところ、針金が電気を引き、雷が電気であることを証明、建物を雷から守る避雷針を発明したという話は有名だ。
それからヒントを得たのか(?)、日本電信電話株式会社(以下、「NTT」)が、ドローンによる雷の誘発・誘導に世界で初めて成功したというプレスリリースを先ごろ(4月18日)、発表した。

電界変動を利用、ドローンに雷が直撃しても誤作動・故障させない、かつ、市中のドローンに具備することができる耐雷ケージの設計手法を考案し、自然雷で実証したという。NTTでは、将来的には「空飛ぶ避雷針」として、落雷からまちやインフラ設備を守り、雷被害ゼロの社会をめざすとしている。
NTTグループの通信設備など重要インフラにはさまざまな落雷対策が施されているというが、落雷被害はなくなっていない。そこでNTTは、通信設備を雷から守る技術を大きく発展させ、重要インフラやまちへの落雷そのものをなくす技術の実現をめざしている。

●NTT ドローンの耐雷化技術と誘発技術を考案・開発
従来の雷対策としては、避雷針を用いるが、避雷針で雷を受ける範囲は限定的だ。そこでNTTでは、近年発展著しいドローンを用い、雷雲に合わせてドローンを移動させて雷を誘発する「ドローン誘雷」の研究を進め、ドローンに雷が直撃しても誤作動・故障を発生させない「ドローンの耐雷化技術」と、積極的に雷をドローンに落とさせる「電界変動を利用した雷誘発技術」を実証するため、実際の雷雲下でドローン誘雷実験を行った。
誘雷実験は、昨年末年12月〜本年1月に、島根県浜田市山間部の標高900m地点でドローンを使用して実施。実験では、フィールドミルと呼ばれる装置を使用して地上電界を観測し、雷雲の接近に伴って付近の電界強度が高くなったタイミングで、独自の耐雷ケージを具備したドローンを飛行、雷の誘発を試みた。電界強度が上昇したタイミングで、ワイヤをつけたドローンを高度300mまで飛行させ、地上に設置したスイッチで、ドローンと地上を導通。
その結果、ワイヤに大電流が流れ、同時に周囲の電界強度が大きく変化。さらに、雷誘発の直前にはワイヤと地面の間に2000V以上の電圧が生じていることを確認し、急激にドローン周囲の電界強度を変化させたことで、ドローンに雷が誘発された。
ドローンを使用した誘雷の成功は世界で初めてで、また、誘雷と同時に、破裂音、ウインチ部の発光、ドローンの耐雷ケージの一部溶断を確認した。いっぽう、耐雷ケージを具備したドローンについては、誘雷後も安定して飛行を続けたことを確認した。
技術のポイントとしては、ドローン誘雷を行うためには、雷が落ちてもドローンが飛行し続ける必要があり、ドローンの耐雷化技術を開発。さらに、雷を積極的に誘発する技術を考案した。



●雷を安全な場所に誘導、雷エネルギーの蓄積手法も研究へ
NTTでは、雷が直撃しても故障しないドローンを高精度に予測した雷の発生位置に飛行させ、雷を誘発し安全な場所に誘導することをめざしている。今後は、高精度な発雷位置予測、および雷の発生メカニズムに関する研究開発を推進し、さらに、誘雷した雷のエネルギーの蓄積手法の研究開発にも取り組むという。
かのフランクリンは凧の誘電と同時に“ライデン(雷電ではなくオランダの大学名)瓶”という初期の蓄電装置も実験していたというから、NTTの空飛ぶ避雷針は最先端“フランクリン温故知新”だとも言えようか。
〈2025. 05. 12. by Bosai Plus〉