全国レベルでの計画作成の機運醸成へ 支援関係者として防災士への期待も
近年の自然災害の頻発化と激甚化を受け、2021年の災害対策基本法の改正において市町村の努力義務とされた「個別避難計画」は、対象者である要介護の高齢者や障害のある人のことをよく知るケアマネジャー等の福祉、保健などの関係者、自治会や自主防災組織など防災に取り組む地域や住民の協力により、全国の市町村で取組みが進められている。

内閣府(防災担当)では、このような各市町村の取組みを一層推進し、後押しする観点から、全国レベルにおいても計画作成の機運醸成のための場づくりとして、「個別避難計画推進全国協議会」を去る1月8日、立ち上げた。
協議会には、全国社会福祉協議会、全国自治会連合会、全国保健師長会災害時保健活動特別委員会、日本介護支援専門員協会、日本障害フォーラム、日本消防協会、日本相談支援専門員協会、日本防火・防災協会がメンバーとして参加。
これら関係者の間で防災に関して共通の認識を持ち、避難行動要支援者名簿や個別避難計画にかかわる情報の提供を受け、協力が可能となるよう、顔の見える関係性を構築し、関係団体の間で知見の共有を図り、それぞれの役割について理解を深めることを趣旨としている。

個別支援計画(災害時ケアプラン)は、東日本大震災の教訓を踏まえた2013年6月の災害対策基本法改正で、市町村長に避難行動要支援者名簿の作成の義務づけ、本人同意や条例に特別な定めがあれば名簿情報を平常時に避難支援等関係者に提供することが可能となり、災害時には本人同意に関係なく名簿情報の外部提供が可能とされた。
しかし2016年熊本地震で、名簿情報の外部提供が進んでおらず、地域の要援護者情報が不明確、名簿登載者が現状と乖離、避難のための個別支援計画の策定が地域まかせ、福祉避難所等における要援護者への理解・配慮がなく車中泊等に伴う震災関連死が直接死の約3倍となるなど、災害現場では機能しない実態が明らかになった。2018年の各種調査では、実効性が期待できる要援護者個別支援計画の策定率は1割程度だった。
さらに、2019年台風第19号や2020年7月豪雨において再び⾼齢者等に被害が集中し、国は2021年5月に災害対策基本法を改正、災害時要配慮者(災害時要援護者)のうち避難支援を要する人(避難行動要支援者)について、個別避難支援計画の作成を市町村に努⼒義務化し、5年程度でこれを作成するよう依頼。計画作成の財政措置・⽀援策等を講じて、日ごろ要支援者のケアプランづくりを担う福祉関係の専門職が関わることとした。
直近の資料では、避難⾏動要⽀援者名簿は全市町村で策定済みで(1727団体/2024年4月1日現在)、全国の個別避難計画の作成状況は1727団体中、防災・福祉・保健などの庁内関係部局の連携に取り組む団体は1624団体(94.2%)、庁外連携に取り組む団体は1568団体(91.1%)、ケアマネジャーなどの福祉専門職の参画に取り組む団体は1398団体(81.2%)、個別避難計画訓練に取り組む団体は918団体(53.3%)となっている。


本紙は、2022年3月1日付けで、立木(たつき)茂雄・同志社大学社会学部教授が研究代表となって全国展開を図るプロジェクト「福祉専門職と共に進める『誰一人取り残さない防災』の全国展開のための基本技術の開発」を、立木氏へのインタビューとともに紹介した。同プロジェクトは、「災害時に障害のある人や高齢の人に被害が集中する根本原因は、平時と災害時の取組みが分断され、平時の在宅サービスが当事者の災害脆弱性をかえって高める状況を生んでいる」という認識と、「この解決のためには、福祉と防災を切れ目なく連結することが必須」というシナリオに立脚するというもの。
その認識の背景に、東日本大震災では、平時の福祉制度で在宅で暮らせる仕組みが逆に、要支援者の災害リスクを高めたという状況があった。
個別避難計画では、支援関係者として防災士への期待もあり、30万防災士の福祉分野との連携も大いに期待されるところなのだ。

本紙 2022年3月1日付け:立木茂雄氏「フェーズフリー化する福祉防災 個別支援計画」
〈2025. 01. 20. by Bosai Plus〉