P2 3 内閣官房 パンフレット「国土強靱化進めよう!」(2021年3月版より) 640x350 - 土木学会「巨大災害 経済被害の推計」 続報

国の持続可能性を問う 巨大災害での脆弱性評価

「1ドルの投資で7ドルの減災効果」
――国土保全、最貧国化を忌避するには

P2 1 巨大災害の被害推計と経済被害(間接被害)の軽減(土木学会) - 土木学会「巨大災害 経済被害の推計」 続報
巨大災害の被害推計と経済被害(間接被害)の軽減(土木学会資料より)

 本紙は去る3月14日付け記事で「いま そこにある『巨大災害の危機』」と題して、土木学会「国土強靱化定量的脆弱性評価委員会(小委員長:藤井聡・京都大学大学院教授)」が公表した「2023年度国土強靭化定量的脆弱性評価・報告書(中間とりまとめ)」を(一部“集計中”として)報じた。

 これは首都直下地震や三大港湾の巨大高潮、全国の河川における巨大洪水が生じた場合にどれだけの経済被害を受けるのかを推計(「脆弱性評価」)し、同時に防災インフラ投資がどれほどの減災効果を持つのかを、最新データと技術を用いて「定量的」に評価・推計した脆弱性評価結果の第1弾「報告書」(「南海トラフ地震」の脆弱性評価を除いた「中間とりまとめ」)となるもの。

 2018年に土木学会「レジリエンス確保に関する技術検討委員会」が公表した「『国難』をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」での評価技術を基本としたもので、このとき「国難」とされる巨大災害では、

①「南海トラフ地震」で、経済被害1410兆円(20年間累計被害1240兆円+内閣府推計による建物などの資産直接被害170兆円)、

②「首都直下地震」で、経済被害778兆円(20年間累計被害731兆円+内閣府推計による建物などの資産直接被害47兆円)、

③「東京湾巨大高潮」で経済被害110兆円(14カ月間累計被害46兆円+資産被害64兆円)――などの被害推計値を公表。本紙は当時、これを「『国難⇒最貧国化』の衝撃 巨大災害の被害推計」と題してリポートした。

防災情報新聞(旧サイト):「国難⇒最貧国化」 巨大災害の被害推計

P2 2 「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」概要より(内閣官房資料より) - 土木学会「巨大災害 経済被害の推計」 続報
「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」概要より(内閣官房資料より)

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●首都直下地震で 経済被害 1001兆円
 「強靱化」(レジリエンス)“タイムリミット”?
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 今回公表された「脆弱性評価・中間とりまとめ」では、経済被害と資産被害を合わせて被害推計額が最も高くなるのは首都直下地震で、その額は1001兆円(南海トラフ地震の脆弱性評価は集計中のため含まず。判明次第、本紙で紹介予定)。

 いっぽう、21兆円以上の公共インフラ対策を施すことで経済被害額は39%(=369兆円)減らすことができるとした。これは近年国際的に推し進められる「1ドルの投資で7ドルの減災効果」を図る防災の主流化=事前防災の考え方と呼応する。

 対策内容とその効果については、首都直下地震では、道路対策、建築物と港湾・漁港の耐震強化対策により経済被害額の39%減、復興年数も5年強縮められるとしている。総論として、事前対策の拡充によって、復興費と被災による税収減少を圧縮し、財政健全化効果があるとしている。

 報告書はさらに、東京湾・伊勢湾・大阪湾の巨大高潮、全国109水系における巨大洪水の被害推計額のほか、税収減や復興費による財政悪化の推計値、公共インフラ対策による減災額、財政効果などをまとめている。

 「報告書(中間とりまとめ)」をまとめた藤井聡氏の持論「列島強靭化論」が、ちょうど10年前に制定された今日の国の「国土強靭化基本計画」(国土強靭化基本法)の原型となった。当時、これを「災害への備え」を口実とする利益誘導型政策という見方もあったが、今日の現実を見れば、少子高齢化社会に突入したわが国では、巨大災害対策も老朽化するインフラも国の“持続可能性”にかかわる最重要政治課題であり、6年前に土木学会が、“最貧国化”の可能性を避けるために当時の当面の対策を「15年程度で完了すべし」としてから、その“タイムリミット”は10年を切っている。

土木学会:2023年度「国土強靱化定量的脆弱性評価・報告書」第1弾報告書の公表

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内閣官房 パンフレット「国土強靱化進めよう!」(2021年3月版より)

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現状予算で今回試算事業の「完了」に何年かかるのか
首都直下地震「現状予算ペースでは対象事業完了に 55~104年」
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 同委員会は、去る4月4日、「『現状予算で今回試算事業の「完了」に何年かかるのか」の試算」を追加して公表した。
 同試算によれば――

① 2023 年度試算で対象とした「強靱化事業」を現状予算のペースで完了させる場合に何年かかるかを推計 (推計にあたっては、予算についての政府公表値(2023年度ベース)を基準に、現状の予算規模を概算)

② あわせて、仮に「10年」で完了させるとした場合に必要な予算規模と、現状予算とを比較

③ 首都直下地震を例にとれば、現状予算ペースでは対象事業完了に 55~104年かかり、10年で完了するには 1.6 兆円/年の不足が判明
 その追加予算があれば 10年後に発災しても 369兆円の減災効果・151 兆円の財政効果が見込める事が判明 (現状の対策ペースでは、10年後発災時の減災・財政効果はこの 1割程度しかない)

土木学会:「『現状予算で今回試算事業の「完了」に何年かかるのか」の試算」

 ――となっている。首都直下地震のケースで、「現状予算ペースでは対象事業完了に 55~104年かかり、10年で完了するには 1.6兆円/年の不足が判明」としている。さて、南海トラフ地震の脆弱性評価では、どういう試算となるか。

〈2024. 04. 05. by Bosai Plus

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