P2 2 広域応援部隊の派遣・進出・活動手順のポイント 640x350 - 日本・千島海溝<br>具体的な応急対策活動計画

過酷な冬季の大地震・津波も想定
要請を待たない「プッシュ型支援」

北海道から東北地方太平洋沖の
日本海溝・千島海溝巨大地震に備える具体的応急対策計画とは

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●日本・千島海溝地震で「具体的な応急対策活動計画」
 15万人規模の応援部隊 北海道へ7割、東北へ3割
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 中央防災会議・幹事会が去る5月23日、北海道から東北地方の太平洋沖にある日本海溝・千島海溝の巨大地震に備え、応急対策に関する具体的な計画を決定した。警察、消防、自衛隊から最大で計15万人規模の広域応援部隊を派遣し、想定される被害規模に応じて北海道に7割、青森、岩手、宮城の東北3県に3割を送る計画だ。

P1 「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震における具体的な応急対策活動に関する計画の概要」より - 日本・千島海溝<br>具体的な応急対策活動計画
東日本大震災や想定される南海トラフ巨大地震など、最大クラスの地震は発生頻度は極めて低いが、発生すれば、広域にわたり甚大な被害が発生する。北海道周辺において過去200年間に発生したM6以上の地震41回の内、16回が冬期(12月〜3月)に発生し、その内6回は津波を伴う地震であった事実は否定できないし、その再来も当然あり得る。事前の「具体的な応急対策、活動計画」は欠かせないし、災害に負けない強靭な「志」も求められる

 計画では、被災地が積雪寒冷地である点を踏まえ、応急に必要な道路の除雪や低体温症などの対策を盛り込んでいる。また、人命救助に重要な「発災後72時間」の対応を含め、緊急輸送ルート確保や救助、医療の提供、物資・燃料の供給といった各分野の取組みを示した。災害時は自治体による被害の全容把握が困難になるため、政府は地元からの要請を待たずに体制を整える「プッシュ型」で支援する計画となっている。

P2 1 具体計画が想定する日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震(震度分布・被害想定) - 日本・千島海溝<br>具体的な応急対策活動計画
具体計画が想定する日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震(震度分布・被害想定)
P2 2 広域応援部隊の派遣・進出・活動手順のポイント - 日本・千島海溝<br>具体的な応急対策活動計画
広域応援部隊の派遣・進出・活動手順のポイント

内閣府(防災担当):日本・千島海溝地震 具体的な応急対策活動計画の概要

 ちなみに、中央防災会議・幹事会は中央防災会議の下に設置された会議で、防災に関する重要事項の審議や意見具申を行う機関。幹事会は、内閣府大臣政務官を長とし、内閣危機管理監や各府省庁局長クラスなどが委員として参加している。

 地震調査研究推進本部の海溝型地震の長期評価によると、千島海溝沿いにおいてマグニチュード(M)8.8程度以上の地震が今後30年以内に発生する可能性は、約7%~40%(2022年1月1日現在)とされている。また、内閣府の「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」の報告によれば、北海道から岩手県の太平洋沿岸沖の領域においては、津波堆積物の資料から、最大クラスの津波が、約3~4百年間隔で発生したと考えられており、17世紀に発生した津波からの経過時間を考えると、当該領域では、最大クラスの津波を伴う地震が切迫している状況にあるとされている。

 中央防災会議は「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」を2015年2月に設置、最大クラスの震度分布・津波高等の推計結果を2020年4月に公表した(岩手県の浸水想定については同年9月11日に公表)。この震度分布・津波高などに基づき被害想定と防災対策を検討するために、2020年4月に「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」が設置され、同ワーキンググループは2021年末の12月21日、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定を公表した。その被害想定では、「日本海溝モデル」、「千島海溝モデル」の2つの断層モデルによる地震動・津波を想定し、被害量が推計された。その人的被害想定結果は――

〇日本海溝モデル: 死者数:約6千人〜約19万9千人
〇千島海溝モデル: 死者数:約2万2千人〜約10万人

 死者数の大半は、津波による被害である。このときの人的被害想定では、「津波被害に伴う要救助者数」(切迫避難または避難しない人のうち、最大浸水深より上の階にとどまる人の数を要救助者数として推計)という新しい要因による被害も想定され――

〇日本海溝モデル:津波被害に伴う要救助者:約6万6千人〜約6万9千人
〇千島海溝モデル:津波被害に伴う要救助者:約3万2千人〜約4万1千人

 さらに、積雪寒冷地での課題として、「低体温症要対処者数」を推計し、後背地に道路や街が広がっていない高台など、二次避難が困難な場所に逃げた人の数を――

〇日本海溝モデル:低体温症要対処者数:約4万2千人
〇千島海溝モデル:低体温症要対処者数:約2万2千人

 とした(推計値は、低体温症のリスクが最も高い冬・深夜で最大)。

WEB防災情報新聞 2022年1月7日付け:日本海溝・千島海溝 巨大地震の最悪想定に備える

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●想定震源域でM7クラスの地震発生で「後発地震注意情報」
 被害想定を“自分ごと”に 人的被害想定の“8割減”が可能
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 「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」では、日本海溝・千島海溝沿いの大規模地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測することは困難だが、巨大地震の想定震源域及びその周辺でM7.0以上の地震が発生した場合には、後発の巨大地震への注意を促す情報発信が重要だとして、昨年(2022年)9月の検討会で、M7クラスの地震が起きた場合、その後の巨大地震の発生に注意を呼びかける情報の名称を「北海道・三陸沖 後発地震注意情報」とする案を了承した。内閣府はこれにとるべき対応などについてのガイドラインを作成し、昨年12月16日に運用を開始した。

P2 3 具体計画が想定する国民への協力の要請より - 日本・千島海溝<br>具体的な応急対策活動計画
具体計画が想定する国民への協力の要請より

 同注意情報はおおむね2時間後をめどに発表するとし、情報が発表された際には、住民に対して事前の避難などは呼びかけず、発表から1週間程度は日常の生活を維持しつつ、津波が想定されるなど迅速な避難が必要な場合にはすぐ行動できるよう備えておくことなどを求める方針を確認した。また、自治体や地域、住民、それに企業の対応についてガイドライン、SNSなども活用して周知を試みている。

内閣府(防災担当):北海道・三陸沖後発地震注意情報の解説ページ

P2 4 「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の啓発チラシより - 日本・千島海溝<br>具体的な応急対策活動計画
「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の啓発チラシより

 被害想定は基本的には“最悪想定”であり、広域にわたり甚大な被害が想定されている。しかし、行政のみならず、地域、住民、企業等のすべての関係者が被害想定を“自分ごと”として冷静に受け止め、悲観することなく、
①強い揺れや弱くても長い揺れがあったら迅速かつ主体的に避難する、
②建物の耐震診断・耐震補強を行うとともに、家具の固定を進める、
③初期消火に全力をあげる
 ――などの取組みを実施することで、日本海溝モデル、千島海溝モデルのいずれの人的被害想定の“8割減”が可能ともされている。

WEB防災情報新聞 2022年10月6日付け:日本海溝・千島海溝「岩手津波被害想定」と「後発地震注意情報」

〈2023. 06. 04. by Bosai Plus

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