P3 2 兵庫県「阪神・淡路大震災の被害確定について(2016年5月19日消防庁確定)」より - 人的被害の「負傷者=震災障害者」は<br>支援の落とし穴か?

被害想定・人的被害の「負傷者(うち、重傷者)」も
「災害犠牲者」だ――「犠牲者ゼロをめざす」防災の死角?

●改めて――もうひとつの“人的被害”〜震災障害者(災害による負傷者)」
 「犠牲者ゼロをめざす」〜その“犠牲者”に「震災障害者」は含まれているか…

 東京都が本年5月25日に公表した首都直下地震の被害想定では、人的被害が最大となるのは、火災の被害が最大となる都心南部直下地震における冬・夕方・風速8m/sのケースで、6148人の死者、9万3435人の負傷者(うち、1万3829人が重傷者)が発生するとされた(注・人的被害が最大となる時間帯は、地震動及び項目によって異なる)。
 本紙は5年前の2017年3月1日発行号(No. 157)で「もうひとつの“人的被害”〜震災障害者」を取り上げ、「“九死に一生の被災者”は幸運か?」、「犠牲者ゼロをめざす〜その“犠牲者”に「重傷者」は含まれているか…」など、災害被害の死角を取り上げた。以下、その一部を引用しつつ、改めて「震災(災害)障害者」の問題を取り上げたい――

 「国・自治体の災害記録(被災状況)を見るとき、人的被害として「死亡・重傷・軽傷」の内訳が発表される。内閣府「防災情報のページ」にある熊本地震の「被害状況等について」の記録では「死亡161人、重傷1087人、軽傷1605人」(消防庁情報 2016年12月14日18:00現在/なお、下表は2016年版消防白書(2016年10月27日現在)の熊本地震「都道府県別死傷者数」より)となっている。同記録の死者数の参考情報として「警察の検視による確認死者数50名、災害による負傷悪化、避難生活等の身体的負担による死者数106名(うち、災害弔慰金法に基づき認められた死者数102名)、豪雨被害のうち熊本地震との関連が認められた死者数5名」とある。災害関連死はこの時点からさらに増え続け、直接死の3倍となっている。

P3 3 熊本地震「都道府県別死傷者数」(2016年版消防白書より) - 人的被害の「負傷者=震災障害者」は<br>支援の落とし穴か?
熊本地震「都道府県別死傷者数」(2016年版消防白書より)

 いっぽう、重傷者は死者・災害関連死合計のほぼ5倍にのぼる。重傷者の被災後の死亡が「災害関連死」にカウントされる事例も少なくないものと見られる。
 災害時に自治体が発表する「死者、行方不明者、重傷者、軽傷者」の認定基準は、国の災害被害認定統一基準に定義されている。このうち「重傷者・軽傷者」の認定は、住民が提出する診断書をもとに行われ、住民にとっては義援金の配分を受けるための“証明”ともなる。基準によれば、「重傷者」は1カ月以上の治療を要する見込みの者、「軽傷者」は1カ月未満で治療できる見込みの者となる。

 ところが、被災者支援という観点からは、災害によって障害や後遺症が残った「重傷者」はこれまで“忘れられた存在”、支援対策の“死角”になっていると言わざるを得ない。これを「震災障害者」として認知すべきという指摘が顕在化してきた――」
 「震災障害者」の多くは災害によって住まいや仕事を同時に失い、かつ障害を負い、さらに身辺の多くの災害死のなかで自分だけが生き延びたという“生存者罪悪感”をもって孤立しているという。公的な、あるいは民間の支援の手は届いていない。

●患者でもなければ障害者でもない、被災者としての「震災障害者」
 ――「支援の綾を社会に織り込もう」(池埜 聡・関西学院大学教授)

 公的な被災者の経済的支援としては、災害での死亡(災害関連死を含む)に対して災害弔慰金(主たる生計維持者は500万円、それ以外は250万円。実施主体は市区町村、国も負担する)が遺族に支給される。また、著しい障害を受けた者に対しては災害障害見舞金が支給されるほか、被災者生活再建支援金の支給や災害援護資金の貸付、生活福祉資金の貸付などの法制度がある(後述)。

 阪神・淡路大震災では死者6434人・行方不明3人に対して負傷者は4万3792人、うち重傷者は1万683人だった。東日本大震災では死者1万5894人(9割以上が溺死)・行方不明2562人に対し、負傷者6152人(うち重傷者約700人)と、死者・行方不明者が多く、それに比べると負傷者は多くない。津波がいかに致死率の高い災害であるかを示すものだ。いっぽう、避難所などで慢性疾患を持つ被災者に対する医療支援の遅れなどから災害関連死は増え続け、現在3500人を超えている。

P3 2 兵庫県「阪神・淡路大震災の被害確定について(2016年5月19日消防庁確定)」より - 人的被害の「負傷者=震災障害者」は<br>支援の落とし穴か?
兵庫県「阪神・淡路大震災の被害確定について(2016年5月19日消防庁確定)」より

 「震災障害者」支援についての問題意識は、阪神・淡路大震災後十数年を経た2010年代、つまりこの10年ほどでやっと顕在化してきたという。神戸市のNPO法人「よろず相談室」(文末にリンク)は早くから「震災障害者」支援やその実態調査の必要性を兵庫県や神戸市に訴えてきた。また、研究者の立場で「震災障害者」問題を提起して「震災障害者」支援に力を入れてきた一人に、池埜聡(いけの・さとし)・関西学院大学人間福祉学部教授がいる。

 池埜氏の論文「総論 震災障害者─「忘れられた存在」からの脱却に向けて」(*東日本大震災発災直前の2011年3月に発表)は、「2010年に兵庫県・神戸市合同で(初めて震災障害者についての)実態調査が実施された。なぜ震災障害者は、長期にわたって被災者として理解されず、その存在は取り残されていったのか。他の中途障害者と異なる固有の問題とは何なのか。今後の支援、政策、そして研究の各側面においてどのような課題があるのか」(同論文「要約」より)を論じた。

 池埜氏は、これら問題意識への回答として、同論文のなかで次のように述べている――「患者でもなければ障害者でもない、被災者として、震災障害者として、その固有の痛みに共感し、これまでの重荷を少しでも下ろせるような支援の綾を社会に織り込む必要がある」。また、「政策課題として、すでに重傷者見舞金や災害障害見舞金の増額及び支給要件緩和、震災障害者の重層的問題に対応できる「総合窓口」あるいは「ワンストップ相談所」の設置、負傷者台帳システムの導入、そして身障者手帳申請用診断書における原因項目「自然災害」の追加といった項目が関西学院大学災害復興研究所によって提言されている」と。

池埜聡:総論「震災障害者」─「忘れられた存在」からの脱却に向けて

P4 1 厚生労働省「身体障害者手帳に係る交付手続き及び医師の指定に関する取扱いについて」より(一部) - 人的被害の「負傷者=震災障害者」は<br>支援の落とし穴か?
厚生労働省「身体障害者手帳に係る交付手続き及び医師の指定に関する取扱いについて」より「身体障害者・意見書」(一部)。②の「原因となった疾病・外傷名」に「自然災害」が追加修正された
P4 2 兵庫県「震災障害者相談窓口」の開設 - 人的被害の「負傷者=震災障害者」は<br>支援の落とし穴か?
2013年4月に配布された兵庫県の「震災障害者相談窓口」開設の知らせ(ちらし)より。兵庫県は1995年阪神・淡路大震災で負傷して後遺症の残った「震災障害者」を支援する相談窓口をこのとき開設した。震災から18年を経てやっと震災障害者とその家族に支援の手が伸びた

 身障者手帳申請用診断書の書式の変更は自治体の裁量で可能だ。2010年に初めて「震災障害者」の実態調査を行った兵庫県・神戸市は、いまは原因項目に「震災/天災」を追加しているが、厚労省のガイドラインに「自然災害」はなかった。2017年、厚労省は身体障害者手帳の申請書類の原因欄に「自然災害」の項目を追加するよう全国の自治体に通知した。
 しかし、その後も東日本大震災、熊本大地震、西日本豪雨などを経たにもかかわらず、大規模災害について、震災障害者の実態把握は進んでいない(精神障害については、把握する仕組みすらできていないという)。

 大規模地震・津波の被害想定は死者想定に加えて「負傷者/重傷者」もカウントしている。災害犠牲者は、その総数であることを改めて確認したい。

〈2022. 11. 15. by Bosai Plus

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