南海トラフ―「臨時情報」での防災対応
「避難エリアの可視化」への試みも

アプリ「逃げトレ」で避難の成功率などを地図で可視化、
事前避難が必要な地域を判断

 国の地震本部によれば、南海トラフ地震が今後30年以内に発生する確率は70~80%であり、いつ起こっても不思議はない。南海トラフ地震の過去事例では、その発生過程に多様性があり、宝永地震(1707年)では駿河湾から四国沖の広い領域で同時に地震が発生、マグニチュード(M)8クラスの大規模地震が隣接する領域で時間差をおいて発生した。
 さらに、安政東海地震(1854年)の際には、その32時間後に安政南海地震(1854年)が発生、昭和東南海地震(1944年)の際には、2年後に昭和南海地震(1946年)が発生するなど、その時間差にも幅があることが知られている。

P3 1 南海トラフで最大クラスの地震の想定震源域(内閣府(防災担当)資料より) - 南海トラフ「臨時情報」が出たら… <br>避難どうする?
南海トラフで最大クラスの地震の想定震源域(内閣府(防災担当)資料より)

 「東海」「東南海」「南海」の大地震が同時もしくは連動して起こった場合、最大でM9級の地震が発生し、30m超の津波を引き起こす可能性が指摘されている。この想定巨大地震の発生可能性が高まったとみられるときに「臨時情報」が発表されるが、その際の防災対応について、国は2019年3月、「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」を公表した。

内閣府(防災担当):南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン【第1版】(2021年5月一部改定)

 ガイドラインは、防災対応を講じるべきケースとして、想定震源域内の片側でM8.0以上の地震が発生し、大きな後発地震が連動して発生する恐れがある「半割れケース」、M7.0以上M8.0未満の「一部割れケース」、プレート境界の固着状態が明らかに変化している「ゆっくりすべり」の3ケースを想定。これらの異常な現象が確認されると、気象庁は最短30分後に「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」を発表、その後、最短で約2時間後に「半割れケース」の場合は「巨大地震警戒」、「一部割れ」「ゆっくりすべり」では「巨大地震注意」と、区別して臨時情報を発表する。

P3 2 防災対応を取るべきケース - 南海トラフ「臨時情報」が出たら… <br>避難どうする?
防災対応を取るべき3つのケース

 このうち、半割れでの「臨時情報=巨大地震警戒」発表の際は、地震が起きていない残り半分の地域に、津波に備えて1週間程度の事前避難を求める考えを示している。この間、地震への備えの再確認等を実施、地震発生後の避難では明らかに間に合わない地域住民や要配慮者の避難を進め、それ以外は個々の状況等に応じた自主的な避難を進めてもらう。
 後発地震が発生しないまま1週間が経過したら、国は最も警戒が必要な期間の終了を呼びかけて避難を解除しつつ、さらに1週間にわたり地震の発生に備えることを求め、さらに1週間の経過で、通常の生活に戻ることなどが発表される。

P3 3 事前避難対象地域の設定(高知県HPより) - 南海トラフ「臨時情報」が出たら… <br>避難どうする?
事前避難対象地域の設定(高知県資料より)

『逃げトレ』『逃げ地図』の再編で、事前避難の必要性の可視化へ

 前述の事前避難の対象地域は、津波被害が想定される1都13県(東京、静岡、三重、和歌山、高知など)の市町村が主に指定するが、どの範囲の、どのような人が事前避難すべきかの客観的基準や、適切な避難先・避難方法を見極めるための手法・データ不足がボトルネックだという。
 そこで、文部科学省(地震本部)は「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環で「サブテーマ:臨時情報発表時の人々の行動意思決定に資する情報の提供」(課題代表:矢守克也・京都大学防災研究所教授)において、京都大学や防災科学技術研究所が開発する避難訓練アプリを活用するシステム構築を開発中だ。

P3 4 南海トラフ地震に関連する「臨時情報」の有効活用より - 南海トラフ「臨時情報」が出たら… <br>避難どうする?
「逃げトレ」などの活用・再編で、避難の必要性の客観的な根拠を可視化し、事前避難の理解も得る鍵となるか――「南海トラフ地震に関連する臨時情報の有効活用」(矢守克也・京大防災研究所資料より)

 そのコンセプトは、
 「第1に、津波避難訓練支援アプリとして開発した『逃げトレ』の成果と津波防災まちづくりのためのツール『逃げ地図』を再編し、訓練実施のたびに住民の空間移動データが標準化された形式でビッグデータとして蓄積されるシステムを構築し、事前避難の要不要を診断(避難困難地域を同定)可能なシステムとして再編し社会に実装すること。
 第2に、空間モバイルデータを活用して、人や車の移動に伴った大規模な空間移動動態を予測・実測し、『臨時情報』の発表時に、どの地域でどのような人口移動が生じ、どこにどの程度の避難所が必要となるかについてシミュレーションするための広域人口動態分析システムを開発、社会に実装すること」だ。

 避難の必要性の客観的な根拠を可視化し、事前避難の理解も得る鍵となりそうだ。

京都大学防災研究所:逃げトレプロジェクト(SIP 第1期)

地震本部:防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト(その2)

〈2022. 02. 16. by Bosai Plus

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